第13話 すれ違うカルテット
「……真奈美」
見ると、黒のレースの半袖に、太ももまで見える短いジーンズを履いた真奈美が立っていた。そこへ、瑞希と秀一が店から出てくる。
「由哉……」
一週間ぶりに瑞希が俺を見つめ、声を溢した。
「お前も、杉野と?」
この状況なら当たり前の言葉を秀一が言う。
「いや、俺は……」
違うと否定するより早く、真奈美が突然、俺の腕に自分の腕を絡ませた。一瞬、動きが止まる俺には構わず、真奈美が二人に向かって言う。
「そうよ。私達もデートなの」
「……は!?」
「じゃあ、また!」
腕を絡ませたまま、真奈美はニッコリ笑うと、俺を強引に引っ張るように瑞希達から遠ざかっていく。
「何で、あんなデタラメ言うんだよ!?」
真奈美の腕を振り払うと、真奈美の両肩をつかんで叫んだ。真奈美は笑顔の消えた表情で、うつ向く。
「一週間前、俺言ったよな?俺が好きなのは……!」
「分かってるよ!!」
遮るように声を上げると、真奈美は俺を見上げた。
「由哉が好きな人は、15センチ以上近づかないって決めてる人なんでしょ?こんな風に……簡単に触れない、大切な人……なんだよね?」
自分の肩に置かれた俺の手に、真奈美の手が重なる。俺を見上げる茶色の両目に、涙が滲んだ。
「馬鹿みたい……。私なら、こんな簡単に側に居られるのにね……」
初めて見る真奈美の涙に、罪悪感を覚えながらも小さく言う。
「……ごめん」
そして、真奈美の両肩から、そっと手を離す。お互いに少しの間だけ見つめあった後、真奈美は、俺の前から立ち去っていった。
「……」
急激に力が抜けて、俺はウッドデッキのベンチに崩れるように座る。
真奈美をまた傷つけ、瑞希と秀一には誤解されて。今日、ここに来た意味は……一体何なんだよ?
行き場のない想いを抱えながら、陽が落ちるまで一人きりで、ただ波打つ海を眺めていた。
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