第12話 海辺のデート

あれから瑞希と、ずっと口を聞かないまま、日曜日が来た。平常心を装っているが、いつ瑞希が出かけるのか、内心気になって仕方ない。


俺は一階で、何気なくテレビを見てるようなふりをした。そのくせ、頭の中は、瑞希と秀一のことで一杯で。テレビから流れてくる情報番組なんて、何一つ聞いていなかった。


三十分程して、瑞希が一階に下りてくる。白いキャミソールに、水色の丈の短いスカート。髪をバレッタで留めているから、肌がより露出している。


「行ってきます」


母さんと父さんに向けて言うと、瑞希は家を出ていった。


「今日は、いつもよりお洒落だったわね、瑞希」


母さんが溢した何気ない一言が、小さく胸を刺す。


それから、十分程経って、「出かけてくる」と言い、俺も家を後にした。


デートの場所は、秀一から聞いて知っている。海に面したショッピングモールで、地元では、誰もが知るデートスポット。ここからは、高速バスと電車を使えば行ける。


瑞希が乗ったバスより一本ずらして乗ると、数十分高速道路を走った。それから電車に乗り換え、また数十分。目的地のショッピングモールに着いた。


二人の待ち合わせの時間からは少し経っていて、遠目に確認したが、そこには、もう二人の姿はない。


(何やってんだ、俺は……)


自分に呆れながらも、それ以上に瑞希のことが気になって、どうしようもなかった。はち会わせたら気まずいのに、それでも二人を探す。探しながら、勝手に頭の中で妄想が広がっていく。


秀一と手を繋いでいるんだろうか?


それとも腕を絡ませているんだろうか?


それから、二人で食事して……。


秀一のことだから、プレゼントを買って渡すかもしれない。


何を渡すんだろう?


勝手に想像して、勝手に憂鬱な気持ちに陥っていく。


恋人同士が溢れる海辺で、馬鹿みたいな空回りをしている俺。人混みを探すが、二人は見つからない。どれくらい歩き回ったのか、あるレストランの前で瑞希達を見つけた。


(いた!)


ちょうど会計を済ませて、その店から出るところらしい。少しだけ離れようと一歩遠ざかった、その時。


「由哉!」


聞き慣れた声に、思わず振り向く。

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