第5話 親友の想い人

何とか四時間目まで、やり過ごし、昼飯の時間になる。


教室で弁当を食うやつ、学食に行くやつ、みんなバラバラに散っていく。季節が違えば外でも食うが、この夏真っ盛りの中で、わざわざ暑さを増すのも馬鹿らしいので、たいてい教室で食うことにしている。


「また、瑞希さんの手作りか?」


弁当を開けかけてると、向かいに座る秀一が聞いてくる。


「ああ。ったく、いらねーって言ってるのによ」


めんどくさそうに言いながら、俺は弁当を開いた。今日はそぼろ弁当らしい。


「彩りも、栄養バランスも完璧だな」


秀一が、俺の弁当を見ながら言う。ちなみに、こいつが完璧なんて言葉を使うのは珍しい。


「俺はカレーパンのがいいけどな」


そう言いながら、弁当に箸を伸ばした。茶色の鶏そぼろと、ピンクのパラパラしたやつが、綺麗にご飯の上にかかっている。


すると、秀一が小さなため息をついた。


「お前……その台詞聞いたら、全男子に殴られるぞ」


「はぁ?意味分かんね」


鶏そぼろを口へと運ぶ。甘辛な旨味が口の中に広がっていく。


「瑞希さんは、この学校の男子大半の憧れだからな」


秀一の言葉に、俺は鼻で笑った。


「あんなのの、どこがいーんだよ。外面良いだけで、家じゃ口うるせーし」


「俺は、瑞希さんの説教なら受けてもいいな」


「何だよ、お前、マゾ?それとも姉貴に気があるとか?」


どっちも冗談だった。冗談だったのに、返ってきた言葉は。


「あるって言ったら?」


「……え?」


予想外の返しに、一瞬思考が止まる。


「マゾ気が?」


「バカ。そっちじゃない、後半だ」


後半……?後半っていうのは。


「……気がある、って方か?」


胸の辺りがざわつきながら聞く。


「ああ」


取り乱すこともなく、静かに秀一は答えた。


知らなかった……。


秀一は、姉貴のことを。


「最初は憧れだった。気づいたら、好きになってた」


淡々と秀一は言った。俺は柄にもなく動揺して、思わず箸を床に落とす。


「……ちょっと、箸洗ってくる」


俺は箸を床から拾い上げると、教室を出ていった。


(秀一が、姉貴を好き……)


姉貴はモテるみたいで、今までも何回もコクられてきたようだ。


だが、それはどれも、俺が良く知らない連中で、実感が湧かなかった。それに、何の確証もないが、何となく姉貴が断るような気がして、そんなに心配することもなかった。


でも、秀一は。


高校に入って、人付き合いの悪い俺が唯一親友と思えるやつだ。


その秀一が、姉貴を。


水道の蛇口を捻ると、勢いよく水が流れ落ちる。そんな水の流れも、この胸の中に広がる漠然とした不安を流し去ってはくれない。

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