第10話 壊れていく関係

それから一週間経った、昼休み。


あれから何となく真奈美と二人で弁当を食べるのが習慣みたいになり、今日も食べに行こうと席を立った時。教室のドアが開いた。


(えっ……?)


思わず驚く。


入ってきたのは、三年の姉貴。


手には二つの弁当の包みが持たれている。


姉貴とは……弁当を作らなくていいと言った一週間前から、ほとんど口を聞いてなかった。それは、どこか姉貴が俺を拒絶するような壁を張っていたのと、俺自身、説明のつかない罪悪感みたいなものを感じていたからだ。


立ち尽くす俺の方に向かって、姉貴がゆっくりと近づいてくる。


(また俺の弁当を作ってきたのか?)


隣の真奈美も、黙ったまま姉貴を見つめていた。


そして、姉貴が俺と真奈美の側に来て……そのまま素通りしていく。


「……?」


絶対に俺の所へ来ると思ってたのに。


じゃあ、そのもう一つの弁当は、誰に……?


隣に真奈美がいるのも完全に忘れて、姉貴を凝視していると。姉貴は、ある男子生徒の目の前で止まった。


「……えっ?」


その男子が驚いたように、姉貴を見つめる。


「一緒に食べましょう?間宮君」


そう。


姉貴が向かったのは、秀一のところだった。


「あ、あの」


冷静沈着な秀一が、珍しく動揺している。


「嫌?」


姉貴が小首を傾げ、秀一を見つめる。長く艶やかな黒髪がさらりと肩から滑り落ちた。


「い、いえ、嬉しいです」


少しだけ声を弾ませながら、秀一が答える。こいつのこんな表情初めて見た……。


「じゃあ、行きましょう?」


「はい」


嬉しさを滲ませながら、秀一が席を立つ。


そして、姉貴と秀一が教室を出ていくのをクラス全員がただ見ていた。


ドアが閉まった瞬間、教室中がざわついた。


姉貴も、秀一も。それぞれが校内で目立つ存在で、そんな二人のツーショットともなれば、話題性は抜群だろう。


「やるじゃない、間宮君」


真奈美が楽しそうに笑った。


「私達も、行こ?」


たった今目の前で見せつけられた光景が、目に焼き付いたまま、真奈美に引きずられるように、屋上へと向かう。


「……ねぇ、ねぇってば!」


ふと意識を戻すと、真奈美が俺を覗きこんでいた。


「今日のお弁当美味しい?」


「……あ、ああ」


そう答えながらも、今日の真奈美の弁当は全く味がしない。最初に作ってきてくれた日から、いつも普通にうまいと思ってたが……今日は何も感じない。まるで味なしのガムを噛んでるような。


ただ機械的に飲み込んで、何とか弁当を食い終わった頃、真奈美が口を開いた。


「由哉」


「何」


「もう気づいてると思うけど……」


真奈美はそこまで言うと、隣で立ち上がり、俺の目の前に立つ。風が吹いて、真奈美の淡い茶色のショートの髪を揺らした。

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