第15話 15センチの先

「話があるの」


そう言われて、今、俺と瑞希は、母さんと父さんと向かい合って、一階のテーブルについている。二人共、どこか重々しい表情をしていた。


あんなところを見られて……もう何の言い訳の余地もない。とにかく怒りの矛先が瑞希だけには向かないように。それだけを考えよう。


そして、俺は家を出よう。


瑞希を。


この家を壊す前に……。


「由哉、お前は……」


父さんが切り出した、その時。


「違うの!」


瑞希が叫んだ。


「私が由哉を仕向けたの!由哉は、ただ私の言う通りにしただけで……!」


事実をねじ曲げた瑞希の言葉に、俺が割って入る。


「違う!俺がただ、瑞希を好きに……!」


「二人共!!」


いつもは穏やかな父さんが、声を荒げた。


「二人共、落ち着いて聞きなさい!」


初めて聞く父さんの強い口調に、俺も瑞希も押し黙る。


「父さんと、母さんはな……」


その後続く言葉は、あまりにも予想外のものだった……。




「由哉……。私、まだ実感ないよ」


父さん達の話を聞いた後、瑞希と俺はまた二階の部屋に戻ってきていた。


「そうだな……俺も」


あの後聞かされた、父さんと母さんの知らなかった真実。それは……。


父さんと母さんは、お互いに再婚同士で。


俺は父さんの連れ子として。


瑞希は母さんの連れ子として。


今の家族が出来たのだということだった。


つまり、俺と瑞希は、全く血が繋がっていなかったのだ。



「いつから、なの?」


ベッドの上で隣に座る瑞希が、聞いてくる。


「いつからって、そんなの……分かんねーよ」


瑞希は、どうなんだよ?と逆に振ると、顔を真っ赤にして、小さな声で言った。


「わ、分かんないよ……。気づいたら、好きになってたから」


まさか、その言葉を。瑞希から聞ける日が来るなんて、思ってもみなかった。


「避けてたのは、好きだったからだ」


今なら言える。


何の壁もなく、心のままに。


「わ、私はずっと触れたかった。ダメって思っても……」


「じゃあ、しようか?」


「えっ……?」


「さっきの続き」


俺の言葉に、一瞬顔を真っ赤にしたが、手に手を重ね、俺が顔を近づけていくと、瑞希の瞳がゆっくりと閉じていく。



夢のように焦がれ続けた15センチの先は。


甘く蕩けるような幸せの香りがした……。


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15センチの先 月花 @tsukihana1209

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