雪が滅多に降らない九州。実家に里帰りした主人公翔太は、よく知る街が、まるでシュガーパウダーを纏ったお菓子の街に見える。
わたし自身雪が全く降らない地域で生まれ育ったからよく解るけど、そういう人間からするとものすごくファンタジーで特別なんだよね。雪が降った年のこと、すごく覚えていたりする。
序盤は描写がきれいかつ可愛らしく、雪が持つ特別な舞台を作り出す。
そして雪が解け、むき出しのアスファルトが見える頃―――
そう。翔太、母親、妹、それぞれの言動で見え隠れしていた雪の下の秘密。それが現れる時、わたしはこの作品に心を鷲掴みされた。なんなんこれ、え、超好み。
綺麗な文体とは好対照に、この作品で書かれた登場人物それぞれの気持ちが痛いぐらい伝わる。振り切ってます。
好きって何なんだろうねって思った。
年末に帰省した主人公、翔太。九州の実家は、珍しく積もった雪に、白く埋もれていた。
滅多に積雪しない地方。ほとんど帰らない実家。顔を合わすのも久しぶりの両親。そして、血のつながらない妹。
いっけんごく普通の家庭の、ごく普通の年末の風景のように見えます。しかしそこに、血のつながらない妹が帰宅してくることにより、白い雪原になにやら黒いしみのようなものが見えるのです。果たしてそれは雪原の異物なのか。それとも単なる目の中の塵なのか。
そんな一滴の滲みを塗りつぶしてしまうような、雪の白さが美しいです。大晦日に降り積もる呪詛のような雪と、明けて元日の朝日を受けて輝く祝詞のような雪の対比が見事でした。