第7話 甘い誘惑
「……っ」
驚いた表情の姉貴が、黒目がちな両目を見開いて、真っ直ぐ俺を見つめ返す。
額や頬や肩に、しっとりと濡れた黒髪がまとわりつき、その隙間から見える白い肌をより際立たせていて、毛先からは、まだ水滴がぽたぽたと滴り落ち、また、肌を滑っていく。
驚きで少しだけ開かれた淡い色の唇は、水気を含んで艶かしい。シャワーを浴びたばかりの体から、ほのかに漂うシャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、クラッとする……。
「カッ……カーテン閉めろって言ってんだろ、いっつも!?」
噛みそうになりながら口早に言うと、俺は勢い良く洗面所のドアを閉め外に出た。
「……はっ」
鼓動が早鐘を打っている。頭の中は、今の姉貴の姿で埋め尽くされた。
ある意味良かったのは、姉貴がバスタオルを体に巻いてたことだ。脱衣場と洗面スペースの間には、仕切れるカーテンがあるが、姉貴は前も引くのを忘れていて、危うく裸を見るとこだった。
さっきよりも、体が熱いのは、夏の熱気のせいだけじゃない……。
しばらく使えない洗面所を離れると、足早にキッチンに行き、流しの水道で両手を洗う。
頭の中は、やっぱりさっきの姉貴で一杯で、俺はそれを洗い流すように、頭ごと水流につっこんだ。熱を帯びた頭がじょじょに冷えていき、思考回路も少しはマシになっていく。
しばらくして蛇口を閉じ、頭をあげると、髪から滴る水が、制服のシャツの肩を濡らしていった。タオルが欲しかったが、脱衣場の棚に入ってるから取りに行けない。
喉が渇いていたから、冷蔵庫を開け、ペットボトルのスポーツ飲料を取り出す。そして、ボトル片手にリビングの方へ振り返ると。
「由哉。何で髪が水浸しなの?」
白いTシャツを着た姉貴が、立っていた。まだ長い黒髪が濡れている。その姿を見ると、たった今クールダウンしたはずの体がまた熱を上げていく。
「な、何でって……お前が独占してるからだろ!」
一人で喚いて、視線を逸らした。さっさと二階に戻るんだったと、今さら思う。
「ごめん。まだ帰ってこないかなと思って」
「お前こそ、何で帰ってんの?部活は?」
「昨日の部活中に、ちょっと足首痛めちゃったから、念のため今日は休んだの」
「あ、そ」
早く二階へ行こうと思ってると。
「待って」
呼び止められる。
「まだ何?」
「一緒にDVD観よ?」
「は?一人で観れば?」
「つまんないよ、一人で観るの」
DVDなんて、余裕で一人で観るよな?
「いや、俺は」
「お願い」
「……」
そんな一言で、二階へ行く足が止まってしまう俺は、意志が弱いんだろうか……。
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