第漆話「山口 最期の日」
危機(燃える港)
畿内軍閥の幕下で、中國地方を統治する山陰陽都督府が、広島湾に集結させていた葡萄月大隊には、20年前の小惑星衝突に乗じて、吉野首相らを支援するアメリカ連邦軍が、九州・関東へと上陸した「
一方、日本国教会の若き司教・十三宮聖は、伊豆半島の司祭・須崎優和と、騎士修道会「救世旅団」の家所花蓮らに和平工作を依頼し、静岡から瀬戸内海を渡った伊予松山(愛媛)へと遣わした。しかし…拠点に帰還した私達を待ち構えていたのは、北九州
「魔女よ、
「あら、本当ですね…北欧ゲルマン神話の研究に役立ちます!
「『
今や、日本列島は内戦の真っ只中にある。私の姉である
「…ほしみくんのばか~っ! ぼくのゲームかえしてよ~っ!」
「バカっていったほうがバカなんだよ、バーカ!」
「ねえ二人とも、図書館では静かにしようよ…」
「「だまれ!! アララギくんはあっちいけっ!!」」
神戸から「学童疎開」して来た
「…はいはい。兵庫ちゃんも、星見ちゃんも、喧嘩をしてはいけません。悪い子は闇夜、食屍鬼に食べられちゃいますよ…」
「うわぁ! まじょのおねえちゃんだ! にげろ~!」
「おい! どこにいくんだよ?」
「あのおねえちゃん、おこるとつよくて、てからかみなりをうってくるんだよ!」
「マジかよ? じゃ、オレもにげよう!」
「いえ、別にそんな事は…」
「「ダレカタスケテー!!」」
「…」
「はぁ…大丈夫ですか、
「すいません。うちの馬鹿二人が、御迷惑をお掛け致しました…ところで、今さっき話していた『
「あ、はい。古来より、アラビアに語り伝えられている魔物で、その名の通り、人間を食べてしまう恐ろしい鬼です。向こうでは『グール』または『クトゥルブ』などと呼ばれております。シャイターン、サタンの悪魔が、天使の流星で撃ち落とされた時に、誕生したと言われ…そうそう、必ず一撃で倒さないと、力を取り戻し復活してしまう…なんて話も御座いますね」
「それは面白そうですね…実在するなら、この目で確かめて見たい」
「ええ…シャイターンは人間に化ける事もでき、最大の武器は、特に伝染病を流行らせる事だとか…きっと彼らも星の如く、化物の物語を
そんな話題で盛り上がっている所に、妹の
「姉様、お客さんが来たよ!」
「お世話になってます、
「あら、天満ちゃんに
「
「…本日は、如何なる書物をお探しですか?」
「えっとですね…その前に、先日お借りした『ギルガメシュ叙事詩』を返却しようと思いまして…」
「ああ、はい。舞台は都市国家ウルク遺跡ですが、『旧約聖書』にも見られる洪水説話など、興味深いですね…しかし、かくも早くお返しに来られるとは、何か至急の御予定でも?」
「いえ、特には…」
「お姉ちゃんの眼は、
「こ…心を読まれてるニコ! やっぱりこの人、『スペックホルダー』ニコ!」
「ちっ、バレたか…一時は大宰府まで押し返されていた九州の連合軍が、再び下関への上陸を開始したというニュースは、御存知ですよね?」
「ええ…私達の教会も、和睦の仲介に参じております」
「下関陥落後、山口への総攻撃が予定されていますが、その空爆作戦に、あたし達が出陣する事になりました」
「…あなた方は、戦場へと赴くには、あまりにも若過ぎます」
「自分が未熟である事は、あたしも良く分かっています。でも…」
「私も止めたんですが、『戦わなきゃ、分からない事がある』とか言って、譲らないニコ…」
「地元の優しいお姉ちゃん」(後には「帝國最後の魔女」)として知られる十三宮聖が、最若の少年兵候補と話している間、司書学芸員の
「…津島様、どうしたんですか?」
「食屍鬼と言わば、我が国に
「奥州の、人喰い族…彼らは一体、何者なのでしょうか?」
「戊辰の役を絶頂とする明治維新に際し、『賊軍』と呼ばれし者を始め、環境の急激なる変化に適応出来ぬ武士達が、数多く時代より落伍した。
「つまり…幕藩が滅んで居場所を失い、歴史から取り残され、消え去る道を選んだ、名もなき武士…彼らの成れの果てが、人喰い族って事ですか?」
「飽くまで一説…否、語りに過ぎぬ。人喰い族は元来、極めて猟奇的なる形質を持つが、
「そ…そんな事が、本当に…?」
今となっては後知恵だが、「グールは一撃必殺で倒さねばならない」と云う「一撃信仰」は、第二・第三のダメージを与えると、彼らの遺伝子が空中に拡散し、更なる感染者を生み出してしまう…という意味ではなかったのか? そして、津島三河の言う「人喰い族」の存在、小惑星の破片(何らかの物質・エネルギーが含まれていたと思われる)が「彼ら」に与えた影響、更には生物兵器として軍事利用される可能性を、私達はもっと早く、真剣に想定するべきであったと、後に思い知らされる事になる。それに気付いた時には、もう手遅れだったのかも知れないが…。
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「その首を賭けて、尚この輩どもが救うべきであったというのか」
「言うに及ばず。話すも煩わしい」
「その挙げ句が何も為さず、何も得られずしても、か」
「貴様に分かるものか、下郎」
「ああ、理解し難い」
「大いに結構。貴様らなんぞに理解される辱めなどよもや堪え忍べるものですか、気狂いどもが」
「承知した。ならば―――」
「再び水底で嘆け、
「上等。墓の内で勝ち誇れ、番犬」
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