爆乳政治!! 美少女グラビアイドル総理の瀬戸内海戦記☆西海篇

スライダーの会

Planet Blue chronicle

第壱話「西海之役」

Prologue

 地球への小惑星衝突に伴う「」の崩壊後、日本列島は政治的統一を失って分裂し、東京・九州を統治する「」、埼玉・群馬を占領した「」、近畿・中國を支配する「」など、複数の地方政権が乱立する内戦状態に突入した。


 日本帝国西海州政府首相として、九州の行政・軍事を指揮する吉野よしのすみれは、周防長門地域の領有をめぐって畿内軍閥と対立していたが、可能な限りは外交による戦争回避の道を模索し続けた。だがしかし、山口地帯が敵方の手に落ちる事を危惧した東京・九州の軍官僚達は、独断の軍事行動で周防大島・屋代島やしろじまに上陸し、畿内勢との戦端を開いてしまう。不本意な開戦という現実を突き付けられた吉野首相は、同盟国であるアメリカ軍との連合作戦が予想される中、蓮池はすいけ夏希なつきを始めとする幕僚達との緊急軍議に臨む。


 このような動きに対し、畿内軍の謀将として山陰・山陽を守護する宇喜多うきた清真きよざねは、自らの信仰であるイスラム系の人脈をも最大限に駆使して、次なる聖戦jihadの策を着々と進めていた。一方、和平工作の密使を拝命した、日本国教会司祭の須崎すざき優和ゆうなは、とある修道会の主から送り込まれた若き女騎士と共に、列島の地中海たる瀬戸内海へと導かれる。


 彼ら・彼女らと共に各地を転戦する中で見えて来たのは、西国の海道を血に染めた、稀代の天下大乱であり、その陰影にうごめく、錯乱の魂であった…果たして私達は、この戦争の結末を見届け、生き残る事ができるのだろうか?


第壱話「西

・原案:八幡やわた景綱かげつな

・編集:十三宮とさみやあきら


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 思い返すと苦々しいが、あれが全ての転機だった。


 宰相の座にもたれかかり、西日の熱を背に感じながら吉野よしのすみれはぼんやりと浮かべた。


 彼女は今一人である。そして独りぼっちでもある。宰相の執務室には誰彼の姿もないが、たとえ公衆の盛り場に潜り込んだとしても彼女は孤独を味わう事になる。それは幾重にも巻き付く御用聞きや親しげな顔で甘言を弄する粗方を侍らせていても同じ事であるのがあはれに思わせるほどだ。かつてこれほどの孤独があったであろうか。アイドルとして脚光を浴び、政界に出て、華々しい立ち回りを見せた時も、彼女には身内と呼べる者があまりにも少なかったが、それにしても心通じ気の置けない者がいた。口悪く言い合い気を通じた者さえいた。しかし、それは遠く昔の事にさえ思えてくる。


 気は内に抑え、周囲のおべっか使いに顔の面を厚くして一切心を許さず、最近幅を利かせている空軍の青鳥せいちょう閥の機嫌を窺っていた。今となっては帝国を取り仕切る有力者となった吉野は理想社会を目指し政道に邁進したが、帝国の常として国家の大黒柱を自負する軍部の機嫌を取らなければならない不愉快な事情があった。


 の手を借りて討滅された葉山はやま円明えんめいに与した帝国陸軍の影響力は必然的に減退したものの(葉山に親しい者もいたが)、一貫して帝室護持の立場を守り偽勅挙兵の鎮撫に貢献した帝国空軍は陸軍の減退分を喰って急速に党勢を拡大、一大政治勢力と成り上がった。但し、古今の常として政治的側面をある程度は持つ事となっていた陸軍という組織とは異なり、個々人の思想信条はかく、純粋な飛行機野郎か理工系のエリートが粗方を占める空軍には政治を担うだけのノウハウが欠けていた。そしてそれを唯一人持ち得、鎮撫の立役者としても武名を高めた十三宮とさみやいさみが必然的に玉座の傍らに侍る事となった。吉野菫を担ぎ上げた十三宮勇の武威支配である「」の誕生は列島の行く末にある方向性を与えたが、当の宰相がその有り様を手放しで喜んでいたわけでもないのが帝国に憂いを孕ませていたのである。現に宰相吉野菫はパートナーである青鳥に真意を見せず、機嫌を取りながら暫し様子見を決め込んで、自ら「イエスマン」の役回りを選んだ。加えて軍閥の長たる十三宮勇の武威を背景に以前与党であった保守派を制し革新派の勢威を増して諸政策を推進、上手く利用し事を運ばせた。


 自分も随分と人が悪くなった。笑うでもなく、嘆くでもなく、只そう思う。宰相吉野菫としての自分を心がけ、意識を持ち、諸々に神経を研ぎ澄ませ、方々の諸氏を疑って敵意を押し隠した。宰相とはそういう者であるべきだと思ってきた。しかし、演じる宰相吉野菫という役が実際の自分を犯し始めるに及び、次第に自分へ疑問を持ち出した。


 どうしてこうなったんだろう。


 ふとデスクの右側一番上の引き出しが気になった。ゆっくりと引き出されたそこには名刺入れや筆記用具等も入っているが一番に目に付くのは皺の掛かった紙製の箱とライターだった。銘柄が書いてあるが、その違いは分からない。只煙草であるという事だけが分かる。


 吉野は箱を手に取ってそこから一本引き抜いた。覚えたてのぎこちない手付きで煙草を指に挟み、口元に近付け、ライターで火を付けフィルター越しに吸い込んだ。


 肺が一辺におかしくなったような感覚が襲ってきた。思わず咳込み、装飾代わりに小物入れにしていた灰皿に煙草を押し付けた。


 戦利品は今尚苦々しい。


「こんな物やるなんて、気が知れないわ」


 吉野は咳込みながら悪態をついた。


 今は遠くに失せた、嘗ての相棒へ。

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