第弐話「屋代島攻防戦」

西海編 序

 防予諸島の主島であるは、周防大島とも呼ばれ、花崗岩が大部分を構成する地質の上層に、現在はミカン畑が広がっている。


 日本帝国とアメリカ連邦の混成部隊である九州連合軍は、畿内軍閥に奪還された屋代島への、再上陸作戦を決行した。この戦闘に参陣した同盟軍将兵の中で、現在まで記録が残っている人物としては、ケリーKelly海兵大尉・ボイルBoyle海兵軍曹(兵曹)・ワイズマンWiseman陸軍大尉といったアメリカ軍人のほか、村中むらなか讃爾さんじ陸軍大尉という日本人の名前も見られる。


 これに対し、彼らを迎え撃つ畿内山陽軍守備隊には、長船ながふね燎次りょうじ海軍中校と、そして「」と呼ばれた狙撃手の存在が伝わる。


 私達は、この戦争の記憶を後世に継承するべく、関係者への接触を試み、その重要な一人である、ケリー海兵大尉へのインタビューを実現する事に成功した。今回は、彼の証言に耳を傾けながら、の実相に迫りたい。


第弐話「

・原作:八幡景綱

・編集:十三宮顕


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 麓とは異なり、山間の道は静かだ。


 丸めて畳んだ自国の旗を握り締める日本人の将校を護衛するのはの選抜された歩兵小隊との複数名の「教官」達だった。


 周防長門地域の支配権を巡る日本帝国と反帝国派軍閥の対立が軍事衝突という形に結実した為に強行されたへの上陸作戦から一週間が経過し、島へ攻め寄せた日本帝国九州鎮台軍と同盟国アメリカAmerica連邦の在九州駐留軍はいよいよ、寡兵ながらも善戦した軍閥側の周防大島守備隊を追い詰めていた。


 屋代島の役所に立て籠る僅かばかりの兵達を数十倍の兵力で取り巻き降伏を促す一方、両軍は役所近郊の頂海山に逃げ込んだ敗残兵の掃討を開始した。それは、役所に籠り住民を巻き込んで徹底抗戦を訴える守備隊の士気を低下させる為にアメリカ陸軍並びに海兵隊の二個中隊が護衛して帝国旗を掲げるデモンストレーションも兼ねていた。


 しかし、山狩りは麓の攻防戦に比して激しく凄惨な物となった。守備隊が戦前に招き入れていた「」達はアメリカ軍に激しい敵意を燃やし、一人を殺すのに2、3名の犠牲を強いられてさえいた。そして、何よりも兵士達を恐怖させていたのは、島中を転戦していた守備隊士官長船ながふね燎次りょうじ率いる精兵数十人による奇襲攻撃と、士官の狙撃・爆殺、林間に引きずり込んでの殺害や兵隊の拉致と殺害等を繰り返していた謎の兵士であった。執拗にアメリカ軍と、日本帝国でアメリカからの訓練を受けていたエリート士官を狙い、前線指揮に少なくない被害をもたらした両人の影に怯えながらも、日本帝国軍とアメリカ軍の兵士達は自らがその毒牙に掛かる事がない様に祈りつつ、掃討と行軍を続けていた。


 この護衛にショーンSean ケリーKelly海兵大尉がいる。

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