福原京
…ま、…さまっ!…
…ああ、またあの日の事を夢見ていたのか。
私は時計を見る。執務室の簡易ベッドに横たわって3時間、か。遅かったな、予想よりも。
宿直が御免、と声を掛けて執務室の戸を勢いよく開く。すると主が既にスクっと起きているのに少し面食らっていたようだ。
「おはよう。随分と早いがね。まずは茶を淹れてくれ。いつもの濃いのを」
「おっ、お早う御座います…いや、閣下、あまりに突然の報でして、その…」
「そうかね? 寧ろ、随分と時間を喰っていたじゃないか。アメリカにしては存外と鈍い動きで拍子抜けだよ」
宿直は呆けた様な顔をしている。
「あ、あの、閣下? 今、何と…?」
「いや、良い。説明は後で皆一斉にしようじゃないか。まずは茶を」
取り敢えず、今から武官、文官共に集めても30分はかかるだろう。茶の一杯でも飲もうじゃないか。
宿直は尚もオロオロしている。何を一人で慌てている。
「えっと、あ、あのですね…」
「大島は最初から捨てている。大坂にもそれは伝えている。帝国の銀貨三十枚程度の爵位に目が眩んだ楽観主義のクラーク共に現実を思い知らせてやるには丁度良い損害だ。これで総動員出来るよ」
宿直は『呆気にとられました』、とばかりにボケっと突っ立っている。やれやれ。私が起きたらまずは茶を淹れてくれ。いつもそう言っているのに。全く、若い連中は気が利かないな。
あれから数十年が過ぎた。出羽の清水も人の親になった。その出羽と戦った星川も自分に反抗する年頃の娘が出来て難儀しているそうだ。私がかしづく男も、その裏で糸を引いている変な女も私よりか若い。歳を取るわけだ。皆我が子供の様な世代だというのに、私はまだ張り切っておらねばならない。我が敵は若作りしたバアさんだそうだが、歳相応の振る舞いも出来ぬ輩など恐るに足らないというものだ。
「武官達に伝えよ。周防大島陥落せり。これより、我ら攻勢に出る。首筋の匕首を避けたくば、必死になって払う術を作って参れ、とな」
「御意っ!」
宿直はそう答えると、慌てて踵を返して駆け出し執務室の戸を閉めて去っていった。
…あの慌て者。茶を淹れてくれって言ったろうに。
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周防大島守備隊、全滅か。
そうか、やはり大島は捨てたのか。実に君らしい、思い切りの良さだ。それは正しい。あそこが落ちたと聞けば、きっと女狐の誑かしに気づくだろうからな。
君には感謝せねばならない。私は良い死に場所を得た。君の、私の夢の、終着点がそこにあるんだ。
応えて見せよう、君の将軍として。君の友として。
そして、我らは感謝しなければならない。
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