チートなしタグに偽りなし。食うか食われるか、スリル満点の冒険活劇を見よ

 巨大生物に生身の人間が立ち向かうバトルアクション――映像作品やゲームではおなじみですが、文章では表現しにくいこの題材を、見事に描き出したのがこの作品です。
 この作品の一番の特徴は、人間という脆弱な存在に対し、容赦なく襲い掛かる『野生』、その恐ろしさが十分に表現されているところにあるでしょう。
 
 主人公の弓兵ワカツ、そして成り行きで彼と行動を共にすることになった女騎士オリューシアは、ともに優れた技量を持つ戦士です。そんな彼らが、人を惑わす霧に覆われた未踏の地に迷い込むのが物語の導入部。彼らに襲い掛かるのが、多種多様な生態を持つ恐竜たちです。
 国で十指に入るほどの弓の腕前を持つワカツですら、生き延びるのが精一杯。次々と襲い掛かる恐竜に対して、ワカツもオリューシアもほとんどなすすべを持ちません。
 読者からすれば、ワカツたちは明白なメインキャラゆえに、そうそう簡単にやられることがないのはわかりきっていること。しかし、彼らが晒される過酷な環境、そして恐竜たちの息もつかせぬ怒涛の襲撃を見ていると、次の瞬間には彼らがやられてしまうのではないかとハラハラさせられます。
 自然、そして野生というものに対し人間がいかに無力であるか、それがしっかりと描かれているからこそ生み出されるスリル。この小説の醍醐味のひとつです。
 第二章とでもいうべき部分に入ると、物語は若干毛色が変わったものになります。しかし、そこでもワカツたちには次々と困難が立ちはだかり、ピンチに次ぐピンチ。緊迫感のある展開に、画面をクリックする手が止まらなくなってしまいます。

 オリエンタルと西洋風がミックスされた独自の世界観も魅力の一つ。作中にはいくつかの国家が存在し、それぞれが独自色のある文化を持っています。作中の登場人物も、その生まれ育った国家の文化を反映するような外見であったり性格であったりを持っており、『国民性』のようなものまでしっかりと想定されている印象。

 主人公のワカツは、困難に対しても決してくじけず、どこまでも泥臭く生き延びようとする男。場合によっては手段を選ばない一面もあります。ウェブ小説において、このようなタイプのタフガイは、あまり出会えない貴重な存在と言えるでしょう。

 さて、レビュー執筆時点では、物語はとりあえずひと段落。これからさらに激しくなるであろう恐竜たちとの戦いに向け、ワカツはどう動くのか。自らを凌ぐ圧倒的な力を持つ相手に対し、どう対抗するのか。作者様の紡ぎ出す次の物語に、期待せざるをえません。続きが待たれます。

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