変えたい未来があるのではなく、守りたい未来があるのです。

 過去の人が現代へ、未来の高校生が過去へタイムスリップする物語は数あれど、この物語の最大の特長は、皆、優しく、素直だという点に尽きると思いました。

 タイムスリップものでは、多かれ少なかれ、過去から来た人が現代の生きたかに絶望したり、過去へ行った人が当時の役人、軍人に憤る展開がありますが、本作の時正、音々、桃弥に怒りという感情は皆無です。

 素直で正直で、ただ一杯のカレー、ただ1個のおにぎりに感謝できる、こんなものがと粗末にしない佳き人たちです。

 そんな彼らが真剣に挑むのは、避難させる事。

 原爆投下を止めたいのではなく、皆を避難させたいと行動するのです。

 これは、奇跡や魔法のような解決方法を求めるのではなく、自分と、また時代と向き合っているのだと強く印象づけられました。

 戦争は悲劇です。

 だから作中から感じられる戦争の雰囲気は、ただただ悲しい。

 変えたい未来があるのではなく、守りたい未来があると感じたのは、そこでした。

 桃弥や音々の素直さ、真剣さ、それを守るために時正や他の登場人物は行動したのだと思います。

 優しい時代ではなかったけれど、優しさは確かにあったし、今も残っている。決して誰かが未来を改変し、あの悲しい戦争を阻止したから優しさが戻ってきたのではない、と強く感じます。

 作中ではアメリカ大統領が来日した年を現代の舞台にしています。

 奇しくも今、2019年11月は、ローマ教皇が来日し、広島、長崎を訪れました。

 今だからこそ、読めてよかったと思う物語です。

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