現状によれば…僕たちは勝ったんだ。


 ポーという音とともに、ガタンゴトンと揺れる蒸気機関車。

 簡易に作られたように見受けられた、どんどん暗闇から現れるレールをただまっすぐ走っていく。 

 その機関車は、ある町を目指していた。






 穴から出ると、そこはパン屋の一室であった。

 当然と言えば当然である。俺たちはここを通り、秘宝と五樹に呼ばれるこの国の宝を取りに来たなのだから。


 「僕の予感は当たっていなかったわけだ。ごめんねあけp。」

 「どちらにせよ。村長を見つけなければならないんだろ?じゃあこの国をもう一回探すか?」

 

 俺の友人の感は当たっておらず、地下には数人の遺体しかなかった。

 

 「これは…また戻る?」

 「どうだろうな?」


 さてこれからどうする?

 一応。灰色の町には山賊はいなかった。唯一の安全地帯だ。

 しかし戻るとなると、外にいるアイツらと戦わなければならない。

 めんどくさいが、ここにも山賊を見かけたという事は、ここも安全ではないという事で、やっぱり戻るしかない。

 しかし町長はどこにいるのか。

 町長を見つければ何とかなるらしいが、その町長が見当たらない限り何とかはならない。

 本当に困ったものだ。


 「あけp。」


 おっと


 「すまん少し考え事を…な。」

 「ちゃんとしてよね?」

 

 ミガさんにも怒られる。


 そうだ、今は現状をどうしようかと考えて…ん?

 「そういえば…。この世界では鉄道とか車とかあるのか?」

 「急にどうしたんだい?」

 「いや。物を効率よく運ぶために、そのような物が作られていてもおかしくはないなと思ったんだが。」

 「SLならあるよ?ただ…。」


 五樹の言葉をつなげるようにリンが口をはさんだ。


 「今は使っていないんです。」


 ここでもSLなのか。


 「そうか。」

 「気になるの?」


 そうだな。気にはなるが…


 「だがそういう場合でもないだろ。」

 

 そうか。と考える五樹。そして…


 「じゃあ行こう!」

 「なぜそうなる。」

 「行動力は大事だからね!それに。」

  

 「あけpの”気になる”は。

  あの時から救われるものだって分かっているから。」


 忘れてもいいだろうに。 ハァ。


 「そうか。」


 「それじゃあ行こうか。ミガさん?大丈夫?」

 「もう少し…休憩。」

 「しょうがないな。ちょっと休んでからにしようか。」

 「そう…して。」


 


 

 この世界は非情である。


 いや。世界など作られた時から非情になるべきものなのだろう。

 どのようにきれいに解釈しようと、必ず汚れるであろう手は変わることはない。 汚いだけである。

 しかし、きれいに解釈しなければ人は行動できない。私だ。

 私のやっていることは正義ではない。

 しかし望まれてされていることである。

 だから正義だと信じる。

 私の行動理念は、考えた上でされるものである。無心でこのようなことができるほど、私は大層な人間ではない。

 しかし救いもあった。

 私がここまでしたおかげで、それ以外の者が汚れなくて済んだ。

 そしてこれは喜ばしい事である。

 欲があるものが、それ以上汚れずに済んだのを未然に防げたからだ。

 私は悪い事をした。

 そして




 それ以上の戦果をあげた。




 水蒸気式起動滑車 shok lra 0628

 通称 SL

 活動年月 284~285

 バルニ式水蒸気エンジンを採用。

 力量   800DL

 瞬間速度 750WO

 博物館展示 285~


 主に人員移動や荷物運搬など、その用途は多機能的に使われ、主にシガヤ地区、カンジ地区において有能な成果を与えた。しかし、運用コストなどで様々な問題点が発覚。開通一年後、退役。

 

 

 水蒸気式小型起動滑車 hope  0629

 通称 ハポ

 活動年月 285~

 ハバリハ式水蒸気エンジンを採用 *ただし、改良型はヌウリツム式水蒸気エン                  ジンが普及。

 力量   100KL

 瞬間速度 82WO

 SLの特徴。並びに改善点などを集計。改良。

 積載量などが劣る。

 エンジンの効率化に成功。

 現在使われているハポの数は500。運用に関してはこれ以上の物はないと、国家技術者であるマカシア氏が発言。また、派生物が現在も制作され、その数は広く広まる。

 個人的なハポも制作され、御周知の通りではあるが、去年のイリア氏の作品は、国家厚労賞に指定された。喜ばしい事である。


 「博物館といっても殺風景な物だな。」


 博物館というより展示場所といったところか。

 そこには、一台の蒸気機関車があるだけで、それ以外の物は何一つなかった。

 いや、さすがに部品とか紹介文付で展示されていたのだが、その蒸気機関車以外の機関車は何一つなかった。ハポと呼ばれるものもだ。


 「すごい…。何なのこれ…。」


 初めて機関車を見たジャパニーズ侍はこんな感じだったのか。

 あの輝かしい文明開化の感想を生で見られていることに歴史の感謝を示したく思いながら、このように文明は発達知っていくんだな。


 「あけp。興味関心は終わった?」

 

 運転席を拝借している時、五樹に言われる。

 そうだな、そろそろ…待て?


 「この蒸気機関車。なぜ石炭が積まれているんだ?」


 その列車の保存状態がいい事は、先ほどの説明文で理解はした。今は、400。つまり、今から115年ほど前の物だというから、それなりにすごいものなのだろう。しかしだ。

 石炭が積まれていることは説明できない。レプリカ?そう見せるためのレプリカか?

 

 「これ、レプリカか?」

 「レプリカがさ…こんなに粉まみれなのかい?」


 その石炭らしきものを手に取り五樹が発言する。


 






 過去に行われていたかもしれない。

 










 「おい!マレア!」

 

 煙り臭くてかなわない。


 「聞いてんのか!?」

 

 そして、うるさくてかなわない。


 「とうとう耳もイカれたか?」

 「聞いているよ。フィル。ジャスコのカーチャンがまたお漏らしした話だろ?その話は聞き飽きたとさっき言った筈だが?」

 

 換気を常に行っているくせに、煙たくてしょうがない。愛用のマスクもここまで汚れた。ここに来てからかぶっている、お気に入りの帽子もだ。

 お気に入りなら何でこんなところでかぶっているのかというと…いろいろあったとしか言いようがない。


 「ジャスコのカーチャンの話はとっくに終わっているぜ?」


 やっぱりぼけている。と言いたいらしい。


 「私にとって、どっちも興味がわかないこと...なんだよ。」

 「じゃあ。お前はなにしに来たんだよ...」

 「金の為さ。」


 ガタンゴトンと近づくそれを一瞥し、自分の仕事である荷物運びに精を出す。限られた人間。志がある人間しか許されない仕事場に私はいる。

 まあ。

 ここにいる大半の人間が持っていなければならない物は、私の中には全く無かったのだが。


 「...正直でなによりだな。」

 「あの人には感謝してる。けど、私はあの人だけのために働きたくない。」

 「そうか。」

 「それより、そいつを早く下ろしたらどうだ?」

 「わかってる。俺は今日も真面目に働く優秀な労働者だからな。」

 「真面目でも優秀でもねえよ。」

 

 優秀でも真面目でもないヤサオトコ。

 しかし



 「イチャイチャするのは、仕事終わりにしてほしいですね。」

 

 後ろから聞こえた声に寒気。

 そして、頭に何かをのせられた。


 「受領書です。早く書いてください。」

 「おい。」

 「こちらのセリフを使わないでください。」

 「何がこちらのセリフだ。」

 「先ほどの”おい”という発言です。私から見たあなたたちの今の状況が”おい”です。それよりもマレア。早く準備を。」

 「準備って…今日の仕事はあともう少しで終わりだろ?」 

 「そうそう。こいつ今日シジとデートだからな。」

 「女同士のデートはねえよ。」

 「そんな趣味かと思っていたんだが?違っていたか?」

 「いろいろ違うぜ…。」


 全く。私がそんなに変な奴だと思っているのか?


 「聞いていないのですか?」

 「ああ。何も聞いていないぜ?」

 「こちらのミスですね…すいません。実は…運転手が休みなので、これから彼の代わりに運転してほしいのですが。」

 「おい。何でSLが動いているのに休み扱いされるんだ?」

 「言い間違えました。これから休みなので、代わりによろしくお願いします。」

 「その運転手はお前か?」

 「さあ? ですが彼は48時間寝ていないくせに、一つも休まないで運行させていたんです。そろそろ休憩した方がいいと思うのですが…。」

 「ここの人員不足も超えてはいけないラインを超えたか…。」

 「というか、運転ができる方々が様々な用事で休まれて彼しかいなくなっただけです。要するに。」

 「貧乏くじを引いたってことかよ。」

 「という訳です。なので引き継ぎ宜しく。僕は帰って寝ます。ああ~疲れた疲れた。」


 無表情で、疲れたといった顔などしていない。


 「残念だったな。」

 「なんで私なんだ…。」


 残念なことに、私の予定は実行できないようだ。あいつには謝っておくしかない。怒られるだろうな。凄く。










ポーという音とともに、ガタンゴトンと揺れる蒸気機関車。

 簡易に作られたように見受けられた、どんどん暗闇から現れるレールをただまっすぐ走っていく。 

 その機関車は、ある町を目指していた。




 暗いトンネルでも、走っているというスピード感と空気圧は体験できる。そのせいで、帽子が飛ばされそうになったりするが、それよりも石炭を入れることに集中していればなんという事はない。


 「少し入れすぎではないのか?とっても早いぜ?線路が傷むってあいつらに怒られるだろ。」

 「こっちは予定を狂わせられていたんだ。これぐらいのことしても罰は当たらねえよ。むしろ早く届くんだから感謝してもらいたいぐらいだ。」

 「このぺースだとあと十分ほどで着くな。途中で事故らなければだが。」

 「それは保証できない。というか、何でお前ここにいるんだ。」


  SLは一人で動かすことを前提として作られている。そのため、運転席は一人用のスペースしかないし、奴はそのスペースにいない。しかも声は上の天井から…


 「よっと。それにしてもスリリングだったな。危ないねえ。」


 狭いスペースがまた狭くなった。


 「狭くて石炭が入れれねえんだが?お前が手伝いに来てくれたのか?いやじゃ枚に来たのか。」

 「一人だと寂しいと思ってな。こっそり来させてもらったぜ。」

 「こっそりな感じでは全然ないな。」


 ポケットから愛用の葉巻を取り出す。銘柄は”シャビットニコル”最初は重く。あとからすがすがしさを匂わせるそれは俺のお気に入りで…


 「そんな体に悪いものは…こうだ。」


 葉巻を急に取り上げられ、外にほうり出される。…最後の一個だったのに。

 その葉巻は、薄黒い煙の奥に消えていき、やがて存在を見失わせた。


 「まだあんなものを吸っていたなんて驚きだぜ。しかもマスクの上って…」

 「お前が健康にきをつけろって言ったから、マスクつけて吸ってんだろ。悪いか?」

 「そこまでして吸いたいとは…もう病気だぜ。」

 「医者にも言われたよ。俺は葉巻を吸わなきゃ生きていけないってな。」

 「そのへぼ医者を今すぐ引いて殺してやるよ。誰だそいつ?」

 「お前のカーちゃん。」

 「マジかよ。」

 「おおマジだぜ?」


 愛用の葉巻が捨てられたことによって、この古き友のような印象を受けるライターは不要になったようだ。 

 こいつはそれほど高価ではないライターだ。これには愛着はない。使用は数えきれないほどしているが。


 「お前の酒癖よりはいいさ。この前も若いねーちゃんをお持ち帰りしたって聞いたぜ。そのねーちゃんの味はよかったかい?くそ野郎。」


ヤバいという顔

 バレたという顔

 そして…

 なーんてな。という顔


 「酔っ払らったミルリを連れていっただけだぜ?残念ながらお楽しみはなかったぞ?」

 「そうか。そうか。    お楽しみはなかったんだよな?」


 ここで整え一言


 「セクハラはあったが。」

 「ギクッ」

 「ミルリのお尻は気持ちよかっただろ?それは天にもめされそうなほど気持ちよかっただろうな?」

 「おいおい。運んでいるときに手が滑っただけだぜ。」

 「手が滑って中をまさぐるのか?お前の腕は人とは違うようだな?」

 「弄ってねえよ。ただ味見しただけだぜ。」


 面白くない。

 何が面白くないか自分でも分からないが、面白くない。


 「っておい!そろそろスピードを落とせ!入れすぎだっつーの!」

 「あ。ああ。」


 無心でやりすぎたようだ。

 SLのスピードが先程よりも早くなっている。

 慌ててブレーキをかけ車輪に火花を散らす。それにともない、スピードが急に落ちたことが、体の重心が引っ張られる事で分かる。

車体は白線に沿って止まり、どうにか事故だけはならずに済んだ。


 「駅に到着。今日も安全運転だったな。」

 「嫌味か?」

 「本心からそう思ってるよ。おーい。」


 階段から一人の男性が下りてきて、その男性に声をかけた。


 「お荷物持ってきたから、あとはよろしくね。」


 「町長さん。」







 








 







 




 





 




 



 

  

  

  


 

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