黒の国の惨状
「あれは…」
黒の国の黒い煙。部分的に赤く光るその光景に目が行ってしまう。
それはイツキも同じなのだろう。震えていた足が嘘のように止まっており。ただ黒の国の方をじっと見る。
「白の国も見てみたけど、同じように煙をはいていた。」
「先ほどの地震は何だったんだ?」
「あれは…いや。分からないけど。とにかくどうする?あけp。」
「まずは町長の所に向かおう。それからだ。」
五樹は申し訳なさそうな顔をしその理由を言葉に出す。
「それが…町長は消えたんだ。」
「はあ?」
「どういう…こと…ですか?」
「どういう事と言われても…言葉の通りさ。この騒ぎになってからどこか行った。僕はどこに行ったかは分からない。」
飄々とした調子で言う。
「とにかく町長を探そう。あいつが…じゃなくてあの人がいなければ何も始まらないから。」
「この町は…探したの…ですか?」
「くまなく探したからね。たぶんいない。だから外にいる可能性が高いんだけど…」
「黒の国。もしくは白の国に逃げたって可能性は?」
「逃げるのは実力がない奴だけ。町長は、山賊を殺せるんでしょ?それはないよ。」
「ほんとに知り合いじゃないのか?」
「カッキーに激似。ぐらいしか知らないさ。」
これからどうするか。
「じゃあ早く向かおう。ここにいると…
五樹の言葉を遮るように叫び声をあげた集団がことらに向かう。山賊たちか!
「早く行かなきゃだめだな。」
先頭に一匹に狙いを絞り引き金を引く。
弾は当たったようで、脱力感を増した山賊が勝手に倒れた。
集団はこちらに向かってくる。しかも走りながら。
どんどん狙って人数を減らしているが、それでも減る気配はない。それどころかどんどん集まってくる。
「絶体絶命だ!」
「しゃべっていないで吹き飛ばせ!」
「それよりも、こっちの方が早いさ!」
瞬間
五樹は俺とイツキを両脇に抱えるようにして掴んだ。そして…
「あけp。バンジーは大好き?」
「何する気だ!」
抱えられながらも、人差し指のモーションは変わらない。曲げて開いて。しかし減っている気配はない。バンジーってなんだ?いや分かっている。バンジ―ジャンプという、ジェットコースター並みの恐怖がある。度胸と恐怖心から楽しみを見出すというアトラクション。
「空を飛ぶのは気持ちいよ?」
「バンジーは落ちてるだけだ!」
「バンジー…とは?」
崖に下がる五樹。その背中にも腰にもひもなどはない。つまり奴と一緒に落ちても、恐怖心を味わう事は出来ずに。ただのお肉になるだけだ。
「自殺なんて辛気臭いぜ?」
「信じなよ。」
「何を…する気…ですか?」
弾がなくなったのか体が急にだるくなる。そして自慢のそいつも消えた。山賊たちは勢いを出しこちらに向かってくる。慌ててもう一度出し、目の前まで迫ろうとするそいつを殺す。しかし。迫ってくる奴はそいつだけではなく、数メートル先のその壁を壊すことはできなさそうだった。
「じゃあ。行こうか!」
「ま…」
「え…」
その意味は理解できたが、心の準備などはまだできない。せめて・・・
「ゴー!」
跳躍。
後ろから急に風が迫る。そして落ちていくのは俺らだけではなく、山賊たちも俺らについていくような感じで飛んで行った。山賊たちは、俺たちを食べようと、足や手を握ろうとする。
それを
イツキはナイフで。
俺は銃でそれぞれ亡骸にしていく。
地面がどの距離にあるか分からないくて、怖いから早くしてくれ…五樹!
「このまま落ちたら痛いかな?」
「早くしろ!」
「しょうがないな…あけpは。…舌嚙むから。しゃべらないでね?」
引っ張られるような感覚。いや。急に減速する感覚。そして上に…ではなく森の木の中に入る。ウエーブを描くように。
木々が後ろから急に現れ、そして遠くに向かう。そしてある程度まで下がると…大きく上に上がる。引っ張られるが、五樹の腕の頼もしさは変わらない。多少は不安定だが。
「五樹!俺は早く地面と会いたいんだが!?」
「こっちの方が早い早い!」
「結果よりも道のりを重視してほしいな!」
よく見ると。五樹は俺を助けたあの恰好で、出現させた刀を握っている。そしてその衣装に帯からは、一本の細い火が…
自由自在に操れるのか、それを木々に巻き付けるようにして高速で移動している。どんどん山賊たちが落ちていき山を築いていく。その集団はあの高さから落ちたというのにまだ動いており、山がうねうねと生きている。
その山も木の陰でもう見えなくなった。
「ふんふんふふん!」
木々が生い茂るそこをこいつは鼻歌を歌いながら移動している。
「あけp。楽しいだろ!どんどんいろんな事が起きるんだ!しかもそれはマンネリ化していない非日常的なこと!」
「楽しんでいるのはお前だけだ!」
「あけp楽しそうだよ?」
「そんなわけあるか!」
すれ違うのは木々だけではない。そこに住んでいる動物たちもだ。ギリギリで避けられたそいつらは、何か起こったかととぼけた顔をしていつもの生活に戻る。
またその中に山賊の姿もあったが。そいつらも何が起こっているのか分からないのか、ただ茫然と立っていた。
ヒュンヒュンと風が切れる音が聞こえる。風による寒さがきつい。
「黒の国はこの方向だっけ?」
「先ほど高台から見たろ!それより着地は優しくしてるれよ?」
「あけp。…怖いの?」
「ん…んなわけあるか!」
「安全運転で着地するから。大丈夫だよ。あけp。死なない程度でやってあげる。」
「死なない程度を安全基準にするな!」
「ペシャかクシャ。どちらか選ばせてあげる。」
「それもう死んでるだろ!」
「がんばれ!」
移動するごとに周りの木々が少くなり、周りにいた動物たちの種類も少なくなる。しかし迫りくる恐怖は変わりないものでただただ怖い。また、山賊も所々に目立ってきた。
中には足をつかもうと頑張ろうとするやつもいるが、それは失敗に終わるか、その前に亡骸に代わっていった。
そして突如開ける。
今まで受けていた風圧が、二倍のものとなって襲い掛かる。しかしだ。何もないはずなのに、俺たちの浮遊感は…
重力に引っ張られるように落ちていく。それはそうだろう。だって何もないんだから。あるとしたらあの大きな門と石壁だろう。
しかし石壁は、ここから一キロはある。おれたちはここで地面に…
イツキの帯が急に伸びる。
それは石垣を一瞬で突き破り、さらには急に…俺たちを引っ張る!
先ほどまで遠かった石壁が、どんどん近いものに更新される。地面に足はついていない。しかし別な方向に重力を感じる。
ここまで二人を支えていた五樹には関心しかないが、俺はそのおかげで腹が痛い。それはイツキも同じようで、先ほどから一言もしゃべっておらず、せき込む声も聞こえる。
「このまま死ぬ気か!」
「あけpおこ?それより今から謝っておくわ」
「何を…
迫りくる壁。勢いを失いどころか五樹は俺を勢いよく前に…投げた。
先ほどのイツキの腕にあったものはもうなく。ただ、宙に勢いだけまし、壁に…
いや。
「メッカ猛烈斬!」
体の横に火の塊のようなものが通った。的確に壁に当たってそれは…壁を溶かした。その穴に減速しながらも俺は入り、五樹にまた抱えられる。
そして引っ張られるように減速。地面に転がっていった。
それにしても元気な声で、はずかしい事をよく言うものだ。メッカ猛烈斬など中二病要素しか入っていない。
イツキは大丈夫なようでどうにかして自分で立てたようだ。五樹は言わずもがな。自慢の刀を見ながらこんなことを言う。
「やっぱり。炎滅剣の方がよかったかな?」
「どちらも中二病だ。医者行け!というか最初のあれもそうだろ。」
「それもそうだね。どちらも変わりないもんだ。型番号は…まあいいや。そういう事にしといてくれよ。」
「それよりもなんだ…これは。」
周りにあったのは、崩落した街並み。そして人々が吹き飛んで壁にへばり付き落ちた後。瓦礫に押しつぶられた後。そして…何者かに食べられた後。崩落した国。そう言うのに何のためらいが出いないほどの惨状である。灰色の町は、ひどいものであったが、人数が多いとここまでひどいものであるのか。
「一応聞くが、俺たちのせいじゃなさそうだよな?」
「僕がやった事は、壁を溶かしただけ。しかも溶けたものは全部この中だ。」
刀を指さし、カチカチと地面にならす。
「地面?」
「この子。」
「…お前に子供がいたのか?」
「まさか。ジョークは受け付けないよ?」
「何でもありだな。そいつ。」
「そうでもないさ。」
改めて周りを見る。
ただの地震でこうなったわけではなさそうだ。その証拠に、所々に岩の破片が刺さっている。その破片に突き刺さり、亡くなった方々もいるようだ。ごく少数であるが。
門のすぐ隣で、ここは俺とイツキが一緒に行動した大通りである。見る影もない。廃墟と化した街並みは、その気清潔感も美しさもなかった。
「ひどい…何が…。」
「地震のせいだけではなさそうだな。」
「とりあえず進んでみよう。足元を注意して。」
進む事に状況が見えてきた。小さな岩がそこら中に散らばり、家を、国を壊したようだ。
「とにかく生存者を探そう。ほとんど廃墟っていうか、瓦礫になっているけど、生存者がいるかもしれない。」
「分かり…ました。」
「ミガさんの所に行くか。あの人なら何とか生きているかもしれない。」
なんか強そうだ死とは付け加えない。
「そう…ですね。」
「じゃあそうしよう。顔を知っている方がよさそうだしね?」
「ミガさんは…こっちです。」
イツキの指示に従い、廃墟となった建物の横を抜けていく。
まだ、かろうじて体形を維持している街並みに、人の気配などない。進む事に不気味さを増し、裏路地に至っては、その不気味さを何倍にも大きくして、記憶に新しいものと比べると寂しさを強くしていた。
そして裏路地に突き刺さっている岩の塊は、それだけでここが異常な事態であることを知らせていた。
裏路地の住人たちは、瓦礫に潰されたものは不思議といなかった。しかし何者かに、腕を引きちぎられ、腸を剝きだされ、そのような死体がごろんとある。ここでも…
「壁に囲まれていたのに…ここにも山賊たちが?」
「そのようだね。早く確認しに行こう。これで一歩遅かったとかだったら後味悪すぎだし。」
「そう…ですね」
工場も稼働していないのか、裏路地に漂っていた臭さは消えていた。がれきのより、清潔感もくそもなくなった裏路地は個性が消えている。
その奥に見えた一軒の店。
ひらがなで書かrているのは相変わらずで、路地にあったから免れたか分からないが、とにかく傷一つもなくそこに構えていた。
「外見は大丈夫そうだけど。」
「とにかく…確かめ…ます。」
コンコンと店の扉をたたく。
「ミガさん!大丈夫ですか!」
「ブッ!」
突然の変化に五樹が吹き出しそうになる。しかし、イツキが聞こえない様に最大限低くして…だ。しかし俺には聞こえている。
「やめろ。もし生きていたら殺されるぞ!」
「だって…猫かぶり…夫婦!」
「誰が夫婦じゃ!」
「お似合いだね!」
イツキには聞こえていないが…
「いいからおまえは話すな!」
扉を開け中に入ると店の中は意外ときれいで、荒らされたような形跡はない。おいてある、札のような商品も、地震からは守られたようだった。
そう言えば、この店がどのような店なのか聞いたことがない。しかしここで好奇心を使っても意味がないので、少し堪える。
「ミガさん?」
「いなさそうだな。お邪魔するぞ。」
「お邪魔!!」
そういって、店の奥に行こうとした時だ。
ガタッ
何かが動くような音がした。
店の奥に照準
何かがいる。その緊張感が一気に高まる。一人を除いて…
「誰かいますかー」
そういって五樹はどんどん店の奥に入っていく、人類は緊張感があったから進化したのだから、少しでも緊張感というものをもってほしいという俺の願いはかなわず。恐れを知らない五樹は店の中にどんどん入っていった。
「あっ…あの…」
ひどすぎてイツキが元に戻っている。
「おい!バカ!」
慌ててバカを回収しようと俺も奥に入っていった。
店の奥は、いくつか部屋に分かれており、その中でも広い居間のようなところが一つあった。そこにはサンダルが一足。
その居間に五樹はあろうことか土足で入ろうとしたので、俺は五樹を強制的に止め、靴を脱がせて上がらせる。今は本棚と、そこに炬燵が一つあるだけで何もない。すでに山賊に食べられたとしても、そのような跡が一切ない。つまり隠れている?あの強そうなおばちゃんが?
ナイナイ
そんなことはあり得ない。
俺の中でのミガさんという人物像にそれは当てはまらない。あの人だったら正面からやりあおうとするだろう。
その時、
炬燵が揺れた。
まじか。
ほんとにいるのか?
あのおばちゃんが?
「誰かいるよ?炬燵めくろうか?」
「やめろ!殺されるぞ!?」
「大丈夫だよ!山賊に食われたことはないから!」
「そうじゃなくて…もういい。」
好奇心は、なかなかに捨てられないようだ。五樹は、ドキドキワクワクといった表情で、こたつの中を…
「え」
開けた。
しかし聞こえたのは、罵声でも怒鳴り終えでもおばさんの声でもない。なんか若い。俺達と近しい年のような声。少し言っておきたいが、ミガさんの声はもう少し、枯れたような声であった。瑞々しさがある。若い女性の声ではない。
目をパチパチしてそこにいたのはミガさんではない少女。…ああ。娘さんかお孫さんか!
そう自分でも納得させ、自分で答えを作り出す。しかし、俺自身が作り出した答えは不正解だという事をこの後知る。
「ミガさん!」
イツキの声で。
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