ミガちゃん家の地下通路

 確かにそう言った。

 イツキはこの少女をミガさんと言った。確かに、そう言われれば似ているようにも見えるが、あの強力おばちゃんが…ミガさんが小さくなっている?

 

 「あんたたち…何しに来たの?」

 

 どうやら状況を理解できていないのは、必ずしも俺達だけではないようだ。ミガさんらしいその少女も状況を理解できていないらしい。目をパチクチさせて、今の状況を炬燵に入りながら考えているようだ。カタツムリみたいに。


 「えっと…」

 「ちょっと。いろいろあってね。それで君がミガさん?あけpは怖がっていたけどずいぶんかわいいね?お兄さんといいことしない?」

 「ジョークでもそれはないだろ…。というか…ほんとにミガさんなのか?」


 炬燵から顔を出したミガさんらしい人物は、顔をしかめ不機嫌に言う。


 「…悪い?」

 「悪くはないが…。というかこの家だけ何で無傷なんだ?ほかの所はボロボロなのに…」

 「悪い!」

 「いや…すまない。」


 何だろう。威厳をなくしてしまうと、人の印象は変わるものなのか?正直、小動物ぐらいにしか見えない。この前のミガさん ではなくミガちゃんといったような感じである。


 「それで、あんたたちはここに何しに来たの?人の家の勝手に入って。」

 「まあ、なんというか…」

 「黒の国から煙が出ていて…気になったんで来てみたら。町が崩壊していたんです。」

 「崩壊…。それで?なんで私の所に?」

 「ミガさんなら生きているかな…と思って。」

 「何よそれ!」


 炬燵から出ようとし、五樹のなだめられる。


 「まあまあ。落ち着いてください。ミガさん。何が起こったかわかりますか?」


 不満があるような顔で、俺の所に


 「私がここで、魔集を編んでたら。急に揺れが来て、ものすごい音で何かが降ってきた…ぐらいよ。町の外へは…怖くてすぐには行けなかったわ。でも、頑張っていこうとしたのよ?…そしたら…急にドアが開く音がして…」

 「それが俺達だったってことか。」


 魔集とは、店で売られていたあれの事か。

 

 「よくわかりました。ではミガさんも行きましょう。ここにいると危ないので。」

 「危ないって?」

 「山賊がいるかもしれません。町のあちこちに何者かに食べられた死体がいくつかありましたので。」

 「…何で山賊が?」

 「分からないがここも危険だ。早く…」


 バン!

 扉が壊れ、たくさんの足音が聞こえる。

 しかもその足跡は何十という数。


 イツキが刀を構え、自分たちの靴を各自に配る。


 「早く出ようか。」


 すごい数の足音は、こちらの部屋に入ろうと押し押せてきた。あるものは撃たれ、あるものは切られ。入り口近くに死体がどんどん作られ、死体でふさがれていく…。

 それを驚いたような目でミガさんが見ている。

 弾がなくなりそうで、どんどん軽くなる。しょうがないので、五樹にすべてを任せようと声をかける。


 「五樹。あとは任せる。」

 「あけp撃ちすぎ。下がってて!」

 「手伝います!」


 死体の山でふさがれているのか。山賊たちはこちらに来ようとしているがなかなか通れない。通ろうとした圧をイツキや五樹が刺すので、穴がふさがれていく。


 「これさ!どうやって出るんだ?」

 

 俺の疑問は…ミガさんが解決してくれた。いつのまにか炬燵から出たミガさんは、一つだけ色が違う床をはずし、その中にある穴を指さして叫ぶ。


 「早くこっちに入れ!」


 その声を聴いた瞬間。

 足の悪いイツキを五樹が抱き、炎の帯を使ってその穴に落ちた。それに続くようにしてミガさんも入っていった。ちらっと見た感じだが、穴はとてもではないが深く、そこがぎりぎり見える程度であった。残った俺は、どうやっても入ろうとする奴らに弾を浴びせ、最後にふたを閉めた。


 その穴は階段が一ついていて、その階段も錆びているのか分からないが、とても不安定である。正直人四人を支えられるとは思えん。正確には二人か。五樹はもう降りたらしく、底の方から「おおい!」と呼びかける声がする。それにしても実際思ったより深い。そして何気に匂う。この香りは下水道か?。コンクリートで作られているらしいその穴の外壁は、所々にコケが生えてある。一歩一歩確実に降りていき、上からアイツらが来ているか時々確認する。そのような気配はなさそうだ。ミガさんも慎重に降りているからなのか、一言もしゃべらずにゆっくりとおりていく。

 だいぶ降りたなと認識し、下を見るとその奥は一つの明かりがあった。どうやら五樹の炎らしい。


 降りたそこは下水道のようなところ。

 生活の汚い部分で埋め尽くされて衛生的とも言えなかったが、それは下水だけの話。比較的道は整備されているのか案外きれいではある。そこに松明がかけられており、明々と道を照らしていた。しかしそれでも暗い。そのかわりか分らないが、五樹の帯があたりを強く照らしている。そして横風がつよかった。幅は…一人が入れるぐらい?だが少しは余裕がある。


 小動物の気配はする。

 しかし気配はそれだけ。それ以外のものは微塵もない。


 「あいつら何なんだ!急に店に入って!」


 まるで俺たちがいることを見越してきたかのように…だ。


 「分かんないけど、少なくとも僕たちを食べようとしていた。これに尽きると思う。というかここは?下水道のように見えるけど?それにしても、追いかけられた下水道って…これじゃあゾンビゲーだよね?」


 五樹。ゾンビゲーは今は関係ないだろ。まあそうではあるがな。


 「あんた達…何者なのよ。山賊を…殺すなんて。」

 「ちょっと普通じゃないんだ。僕たちは。それよりもここはどこ?」


 見ての通りだろう。


 「見ての通り。下水道よ。町の汚いものが流れる唯一の場所。」

 「何でこんなものに行く階段がお前んちの真下にあるんだ?」

 「仕方ない事なの。仕事上でね。」


 下水道を使う仕事とはすごい興味はあるが、それ以外の聞きたい疑問もある。しかしこのようなところで聞くことは…なんというか、違うだろう。自分の好奇心を抑える。押さえろ。


 「これからどうする?というか出口とかあるのか?」

 「出口ならこっち。付いてきて。」


 


 30分後

 松明の明かりだけ。というのは、正直心細いもののようだ。その証拠に、細かい角などはあまり見えず、五樹の細長い明るい帯が、そのような細かい所も照らしてくれている。

 水が落ちる音が聞こえる。

 それだけで緊張感があがるが、その緊張感を壊すのが…


 「やっぱり育成するんだったら、吉野卓三よりも永道雄介だよね?あけpこれ見て。あけpだったら、どっちのおっさんを育てたい?」


 この男。五樹である。

 緊張感を出し、とにかく警戒しながら人がるいているところを、奴は自分のバッグから出したスマホの写真を見せてどちらがいいかどうか聞いてくる。しかも後ろ向きである。危ない。

 「五樹さん静かにしてください。」

 「うるさい。」


 このようなことを女性から言われても…


 「うん分かった!…でさ。この吉野卓三のスキルがさ、味方おっさんの事務力をあげるっていう奴なんだよね?でも、僕的には事務力をあげてもそんなにパーティーには影響しないかなとか思っているんだよ。それだったらさ、中間管理職のスキルを持っている奴を入れたほうが、全体的にストレスも増えずに済むしいいかなと思っているんだけど。あけpはどう思う?」


 「反射神経なのか?脳に介していないのか?というかスマホの終電まだ切れていなかったのか?すごいなお前のスマホ。」

 「あけp知らないだろうけどさ、町長んちの所だけコードがあるんだよ。それ見つけた時発狂したね。これで毎日有楽町の男たちの画像が見られるって!…そんなことはいいんだよ!あけpだったらどっち育てるの!?」

 

 まあ俺だったら…


 「この禿かな?なんか強そう。」

 「ええ!吉野卓三!? んーでもなー。今、売上金そんなにないし…ここで吉野卓三を育ててもなー。」

 「そんなに弱いのか?」

 「いや、弱いとかじゃないんだよ。体力も髪の毛もあるし、育てれば離婚リスク軽減っていうスキルを覚えるから。でもさ、ぶっちゃけ今結婚している職員がいないんだよね?だったら別な奴にしようかな…と。」

 「ゲームの内容がいまいちわからん。」

 「会社を立ち上げてどんどん大きくするゲーム。離婚システムとか不倫システムとかあって面白いよ。ただ。離婚とか不倫とかほかの部下にばれたら信用度がどんどん下がっていくんだ。だけどそれをしなければ上に行けないから、どんどんして見つからないように部下たちが頑張るってゲーム。」

 「すまん。いまいちわからん。ていうか聞いたこともない。」

 「知名度そんなにないからね。でも楽しいよ?部下たちの不倫をどうやって隠すとか、選択次第では、修羅場になったり、殺人が起きたりするし。」

 「普通の職場ではないな。」

 「普通の職場から大きく変化させるのが趣旨だからね。」

 「二人とも黙れ。」

 「静かにしましょう。」


 怒られてしまったった。


 「ごめんね二人とも。でもね。緊張感なんて出すだけ無駄さ。だって楽しくないもん。」

 「あんたは楽しければ死んでもいいの?」

 「うん!」


 即答である。

 これにはイツキも心配そうな目で見ている。


 「それに…僕は殺されないから。」

 「何か?」

 「何でもないよ。それよりこっちでいいのかい?」

 「ええ。この下水道を進んでいくと大きなくぼみがある。そこまで行けば梯子があって、そこを上ると地上に出られる。」


 下水道には路地などが見当たらない。俗に言う一本道であった。その一本道は、軽い坂になっていて、どこかに…彼女が言ったくぼみに向かい水が流れているようだ。

 外はまだ明るいはずである。そして、下水の先からは光が見えてきた。あの奥に行けばもう少しだ。


 「さて諸君。もう少しだ。もう少しで我々は外に出れる!では張り切っていこうではないか!」

 「張り切って…なのか?」

 「そう!もっと元気よく行こうではないか!」


 張りきるのは勝手だが、それはほかの人の迷惑を考えて張りきってほしいものだ。…辛気臭いよりは…いいのだろうか。

 

 「そういえばここって国なんだよね。王政の。王様ってどんな人なの?」


 ミガさんはこう答えた。


 「ひどい奴よ。自分の事しか考えない困った人間。」


 ひどい言われようである。

 しかし、ここでイツキが口をはさんできた。


 「そうでもないですよ。確かに厳しい所もありますがやさしい人です。」


 人によって印象が違うのか…


 「あんた…あれだけされて…。はぁ。」


 これは重症だなといった顔。あれだけという事がどのような事であるか分からない俺からしたら、比べることはできず、何も言えない。

 下水の先の光はどんどん姿を大きくし、それが出口であるという事を大々的に表していた。光を見ると、不思議と人は行動が軽くなるようなものなのか。みな速足でその入り口に向かう。

 行動力が高い五樹を先頭に、もう少しでこの下水道を抜けると思った時。

 五樹が消えた。


 突然いたのが消えることはそうそうない。実際消えた様に見えて五樹は青い穴の中に吸い込まれ…ようとし、赤い火の帯で助かっていた。


 「大丈夫か?」

 「一瞬フワーってなって気づいたらピュン!」


 何を行っているのか分からない。というかお前が落ちている穴?違うその場所は正面から見てもただ空というか青で。下を見ても真っ青で。穴というより、空間がそこで終わっているような感じで…


 「こいつは…すごいな。」


 見事に何もないそこに、汚れた水がザーザーと落ちていく。そこの無い青に吸い込まれていくそれらは、どんどん存在をなくしていき一点に絞られている。この島というか、この場所が浮かんでいるというような事ではないようで、陸はちゃんと下まで続いている。

 つまり、切り立った崖だ。…特大の。


 「そんな呑気なことを言っていないで助けてくれますか?」

 「自分で上がれるだろ。」

 「冷たいな…あけpは。」

 

 そんなことを言って、予想通り自分でもどる。

 

 「それにしてもスリリングだったよ!やっぱり宙に放り出されるって印象的ではあるよね!」

 「お前の印象的が、少しほかの人と違うと思うのは俺だけか?」

 「ほんと…何なの?」

 「階段はこっちですね。」


 イツキが差した場所にはもちろん階段がしかも長い。

 俺は高所恐怖症ではない。

 しかしあれを見て、この長い階段を上ろうとするには少しばかりの勇気が必要だなと思ってしまう。

 その階段を怖がりながらものぼると、そこは…どこかの庭であった。

 村長の家にも庭があり、そこも大層なところではあったが、ここは、別な華麗さを秘めていた。

 こだわりのある人が作ったのだろう。

 花は全て一つで統制されているが、色が違う事で庭の個性を出している。しかし迷路のようなところだ。二メートルぐらいの茂みに隠れてほとんどどのようなところか分からない。花は茂みに一つ二つと咲いていた。

  

 「ここ。何処だ?」


 当然の疑問である。


 「庭だね。」

 「庭よ。」


 当然分かっているところである。俺が聞きたいのはどこの誰の庭であるかという事だ。


 「ここがどこか分からないから。出ることが優先だよね。」

 「そうだろうな。早く町に戻って確認しに行くぞ。」

 

 その時


 「すいません。ちょっといいですか?」


 珍しくイツキが言葉をかけてきた。


 「どうした。」

 「少し安否を確認したい人がいるのですが…」

 「誰だ?」

 「私の妹です。」

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