妹の…リンです。

 「ちょうどここ等辺ですので。」


  こう付け足す。


 「ここ等辺って…この庭知っているのか?」

 「はい。私の…行ってみればわかります。こっちです。」

 

 そう言って先頭を歩きだす。誰の手も借りず一人の足で…

 足はもういいのか?歩き辛そうだが…

 この庭を知っているのか、イツキはどんどん奥に進んで行く。本当に迷路のようだという言葉が似合う庭である。進む事に、分かれ道、十字路と丁字路が多くなっていく。また、種類が同じな花で統一されているからか、今がどこなのか、それすらも分からない。鳥が鳴いている。それは関係ないか。

 というか思ったんだが…いや失礼か。


 「これ燃やした方がが早くない?やれって言われたらやるよ?」

 「だめです!」


 今まで聞いたことがないほど大きな抗議の声。振り向きイツキに行ったその声により、先程からチュンチュン泣いていた鳥たちが飛び立つ。まあ常識的にダメだよな。まったくなんてことを言っているんだ。


 「五樹。常識的にダメだろ。」

 「だって早いのに…もういいよ。」

 「というか一人だけ浮いているぞ?」

 「これ戻すと疲れるんだけど…わかったよ。」


 元の制服に戻る五樹

 流石の五樹もイツキには勝てなかったようだ。効率化と常識の戦いは、常識の勝利という事か。まあ先程から、好奇心を大々的に出してはいたので、それでイツキのわがままは終了というわけだ。

 それにしても、先ほどから歩いているが本当に広大な庭だ。先ほどから頑張って歩いている俺達からしたら、ただ体力を奪うだけである。そろそろ疲れてきたのか、ミガさんがハアハア言っているが、先ほど銃を使って体力を削られた俺もハアハアである。疲れていずに無傷であるのは五樹だけだ。所々に岩がいるが、不思議と、花々はつぶされていない。

 30分ほど歩いたか?

 明確な時間を忘れるほど俺たちは歩くのに努力を見せ、そのかいあってか、五樹はそろそろ付きます。と俺たちを励ます。


 「本当に…ハァッ…そろそろなの?」

 「お前…ここの出口。知らないのか?」

 「ここだと安全だと思って…いいじゃない。」


  イツキはこの庭の近くに本当の家があるらしい。どのような家か知らないが、方向的に、お金持ちがいっぱいるとイツキが言っていた方向だ。つまり、イツキはお金持ちだった?

 過去形であり、今は灰色の町で一人で暮らしている。そして妹がいる?俺が知っていることはこれだけなんだよな。しかも最初の奴は推測であって確実性があるものではない。金持ちばかりがいる場所といってもイツキは金持ちではなかった可能性も考えれる。


 そんな時


 視界が急に開ける。


 視界の現れたそこにあったのは…古ぼけた城。

 日本の城みたいな感じではない。どちらかというとヨーロッパにあるような、というか、王様がいらっしゃいそうな城である。かなりでかい。

 広さでいえば、灰色の町ぐらいではないだろうか。

 先ほどの手入れされていた庭と比べると、こちらの敷地は…草が生え。荒れ果てている。庭を出ようという境界線でこのように違うのだ。

 腰ほどに伸び切った草をかき分けながら、その城に向かおうとしたイツキを引き留める。イツキは驚いたような顔をしこちらを見る。まさかとは思うが…


 「お前んち。こんな大層な所ではないよな?」


 この家。いや城がイツキが言っていた家なのか…。俺が思ってた豪邸とかそういうものではない。城主である。お姫様である。

 岩に当たったのか、所々に損傷は見られるが、さすがはと言いたい。城の風貌を保っている。

 家が城のような身なりをしても、イツキが城主とは限らない。…な。


 「黙っていてすいません。わたし…」


 「王女だったんです。」


 振り向いた顔は笑顔ではなかった。


 




 城の中は比較的落ち着きのある、早く行ってしまえば豪華な飾りつけなどは全くなく、少し寂しい感じではある。しかし中は毎回掃除されているのか、城の風貌と比べてみるときれいな物ではあった。

 最初に見えるエントランスの印象がそれだ。

 きれいではあるし迫力はある。しかしだ、王様が住んでいる城ですよ!と言われたら、ハァそうですか。といってしまいたいぐらいに威厳がなかった。迫力はあったが…

 

 「ここに住んでいるのは…リーアさんと妹だけなんです。」


 リーアさんというのは召使だろうか。彼だけ広い場内だからな。召使の一人や二人、いてもおかしくはない。しかし、あの荒れ果てた場外の場所は…草むしりをしなかったのだろう。迷路みたいなあそこだけ草むしりをして?近くである城付近をしていない?なぜだ?

 そう言えば、ここに来て五樹が黙っている。なぜだ?あの喋らなければ生きていけない五樹が黙っている?


 「あけpあけp。」


 訂正だ。五樹はやはり五樹である。こいつの好奇心を止めることは誰にもできない。好奇心に生きてる男はどこに行っても好奇心に生きるのである。


 「何かさ…RPGでよく見るお城とかじゃなくて、どっちかというと、ホラゲーとかにありそうな城だよね?」

 「離れたら危険だな。」

 「あけp。誰かが死んでも、俺はこんなところにいたくねえって、ひとりで行動したらだめだよ?」

 「フラグを立てないように頑張れと?」

 「そうそう。頑張り給え。そういえばさ、イツキはここで住んでいたんでしょ?何でシャンデリアとかそういう奴がないの?」


 先頭を歩いていた五樹が止まった。そして振り向きこういう。


 「ここでは、もともと披露宴など、華やかな行事が行われていたところでした。華やかな飾りつけもあったのですが、それは…全部売ったんです。いえ。売るしかなかっただけですが…。」

 「王様も貧乏になるときはなるんだね?」

 「貧乏というか…。いろいろあったんです。」


 いろいろね。

 何が起こったかは話したくはないという事か。


 「たぶん、妹は自分の部屋にいるか…ですね。」


 地震と落石?の影響であろうか。場内のいたる場所で屋根や壁が破壊されていた。移動中の廊下では、それ以外にも場内に進入した落石などが目立ち、元々は、古臭くともきれいだったと予想される廊下も、歩きにくい廊下に代わっていた。

 所々に飾られている花瓶は、あの庭から積んできたのか。庭の花が植えられている。それも地震で、ほとんどは下に落下し、花瓶は割れたが…。

 それを見た五樹は、落ちている花を拾い集め一言。


 「日本人の心が僕にあったとは思わなかったよ。曰く。」

 「曰く?」

 「もったいない。」

 「お前に日本人の感性があるとは思えない。それに、お前のそれは、花がこのままでは枯れてしまうというもったいないだろ?」

 「それが僕のもったいないとどう違うのさ。」

 「お前が感じているもったいないは、このままではきれいな花がだめになるっていうもったいないだ。決して地球環境を考えていたり、物の消費がもったいないと感じたりする、日本人の感性におけるもったいないではないだろ。」

 「条件反射でそこまで考えるの?あけpは?」

 「考えない。」

 「だよね。」


 そう言って二人でケラケラ笑る。


 「日本?何言ってんの?」


 そう言えばミガさんには説明していなかった。説明した方がいいか?


 「実は僕たち。異世界から来た勇者なんです!」

 「勇者ではないだろ。どちらかというと迷惑者だ。」

 「異世界?意味わかんない。」


 意味わかんない。確かにそうだろうな。

 こんなこと、最初に何の迷いもなく信じてくれたのはイツキしかいない。ミガさんが常識人であるだけだ。

 

 「イツキ。こんな訳の分からない連中と付き合っているの?」


 こんな訳の分からない連中とは失礼な。確かに怪しいかもしれないが、それは、ミガさんだって同じだろ。おばさんになったり少女になったりする方が訳が分からない。魔法というものを目の前で見ても…だ。まあこの場でいうのは失礼だろ。そう思い、俺の思いは自重した。


 「あけpからミガさんはおばさん的いたんだけどさ?ほんとは女の子だったんだね?それこそ訳が分からないよ。」


 俺は自重したといったな?しかし俺の相棒が自重するとは言っていない。つまり俺は悪くはない。そうだ俺は悪くない。


 「あんた達には分からないよ。」


 立ち止まり、声を抑えて吐き出すように言う。

 ここで終わればいいのだが、余計な事を畳みかけるのがうちの友人である。好奇心というより情報の亡者。末恐ろしい。


 「だって僕たちはミガさんじゃないからね。」


 当たり前でしょと。

 それを言えるのが当たり前ではない。人には必ずしも見られたくはない秘密というものがあると言われているが、ミガさんのそれは、見られたくない秘密だろう。ならば外部者である俺が詮索する日いつ洋物ないし、詮索しない方が有効的な関係を維持できると思えば、そちらの方がいいだろう。


 話したいことはまとまった。

 しかしこれをミガさんの前で馬鹿正直に話した方がいいというのか?答えはNO

だ。こんなことをイツキの前で説明するか?そしたらミガさんの中の選択肢が二つ増えるだけである。ならば傍観者になるしかない。しかし、傍観者になったとして、この言い合いになりそうな光景を止められるとは到底思えない。というか絶対止められない。


 「私だってなりたくてなっているんじゃないよ!」

 「だからその理由も方法も分からない僕たちからしたら、よっぽど変な風に見れるっていう事を言いたいの。」

 「あんた達だって山賊を殺しているんじゃない!そっちの方が気色悪い!」

 

 あーだこーだ。

 これが喧嘩するほど仲がいい夫婦だったらなと俺は実感している。しかし現実では恋人でも親友でもましてや夫婦でもない。ほとんど赤の他人である。そして、お互いの印象は最悪な物である。…めんどくさい。それも十分たつと怒りになるようだ。


 「お前ら!静かにしろ!」


 このようなことで体力を使いたくはないという俺の気持ちは、沸々と湧き上がる怒りを消費せよという欲求には勝てなかったようだ。


 「以上とか言っていないで歩け!キンキンうるさい!」


 怒ったのは、双子ちゃんが一個上のお兄ちゃんをサンドバックにした時以来であろう。もともと双子ちゃんの間で、やさしい、怒らないで通っていた俺の印象が、お兄ちゃんをいじめると、お兄ちゃんに怒られるといった認識を示させた。まあ暴力的合事はしていない。そのかわり夜ご飯を抜き、正座で四時間怒っただけだ。これだけ聞けば、俺が何か虐待のようなものをしていると言われるかもしれない。しかし、俺も四時間正座し夜ご飯を抜いたのだ。さすがに目の前で食べるのは鬼かなと思って…


 「そんな事よりイツキの妹を探すぞ。それが今やるべきことだろ。」

 「その通りだね。ごめんね発熱しちゃって。」

 「…ふん。」


 というか、ずいぶんと移動していることに早く気づくべきだな。今いる場所は、先ほどの場所から遠く離れた、渡り廊下のようなものを渡っている。


 「イツキ。先ほどから階段を上ったり廊下に行っていたりするんだが、本当に妹さんの部屋はこんなところにあるのか?」

 「はい。私の妹も、私と同じで少し特殊なので、少し離れた所に自室があるんです。」

 「そこにいるかもしれない。か。」

 「あまり外に出ない子なので。半年ぶりなんです。彼女と会うのは。」


 見えてきた入り口にそびえ立つのは塔。

 ただでさえ城は崩れやすいのに、こんな地震の耐久性もなさそうな場所にいるんだったら…いや、何かおかしい。

 その塔も、城と同じような外見で風化されているような印象がある。しかしだ。城のあちこちには瓦礫などがあり、一部は屋根などが崩落していた。しかし、この党の周りには瓦礫があるのにもかかわらず、塔には一切の崩れた様子もない。どういうことだ?


 「たぶんこの中にいます。」

 「妹さん。とリーアさんがかい?」

 「ここが一番安全なので。」


 一番安全と言われた塔内は、なんというか。先ほどの城よりも不気味であった。石で作られた階段が不気味というのもある。しかしそれ以上に、張り付けられた…これは…


 「まさか、これ全部魔集か?」

 「あたり。頭いいね。」


 ぶっきらぼうにミガさんが言う。

 そこにあった魔集は、塔の壁一面にびっしりと貼られていた。階段を上ろうとすると、その階段の段差にもあられている。まるで…


 「何か封じているのかよ。」

 「ちがう。父さんが作ったこれは、塔を強化しているだけ。だからこの場所も無事だった。本当にいい腕。」

 「これ全部かよ。」


 魔集がどのように作られているのか分からないが、このような量ははっきり言って異常である。

 階段を進めば進むほどに、魔集の種類が多彩であるという事が分かる。同じ白い紙ではあるが、書かれている文字などが少し違う。

 階段を登りきると扉があった。

 木の板で作られたそれは簡素な家でありそうなそれで、その扉をたたいてイツキはこう言った。


 「リン。私です。開けてください。」


 リン?


 「妹さんの名前って…リンなのか?」

 

 振り向き。俺の疑問を言葉にした。


 「はい。」


 出てきたのは顔に黒子がある白髪の少女。

 何かおとなしそうなその少女は、俺たちを見ると少し驚き、しかし姉がいる事に安心したのか、姉を抱いた。

 少し幼いぐらいの少女を自身に近づかせ言葉にする。


 「この子が。妹のリンです。」


 

 


 



 

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