山賊の森

 入り組んだ家々に必然的にできる路地裏を、迷いながらも確実に走る。途中で後ろを振り返ると、追っては撒いたようだった。

 そこで安心してしまい。走るペースを落としすぎて、私は壁に寄りかかってしまった。


「はぁ、は…っ!」


 走りすぎて息が切れるが、それを無理やり抑えた。

 音は最小限に。

 まだ白の国。ここで捕まるわけにはいかない。これを持ち帰るまでは…

体中が痛く、そしてなにより疲労感が体にのしかかる。先ほど抑えた息切れも、もっと重いものになって私の肺を攻撃した。

 汗が止まらない。髪が汗を含み重く邪魔だ。白い色で塗りたくっていたそれは、部分部分に黒が交わっているように見える。そのくせ体中はなぜだか寒い。私がしていることは…

 まあいい。

 とにかく。町に帰らなければ。

 そう思いながらも体を無理やり起こし、灰色の街を目指す。

 しかし、ここからだ。本当の試練は。

 どうか、山賊に会いませんように…



 


 

 土のにおい


 またあの夢かと思ったが少し違うようだ。目を開けたわけではないが、その匂いには臭みの類は一切なく、その代わりに森林のさわやかな雰囲気がただよっていた。

 目を開けると、俺の考えは当たっていたようだ。

 周りはあの駄菓子屋でもなく、とにかく知らないところであった。鳥のさえずりと、虫の気配だけでそれ以外の音はなく、ここが森だという事しか俺は分からない。

 体温的には少し肌寒い。

 先ほどまでの春の陽気はなかったようにされたのか知らないが、比較的暖かったものが、肌寒いという評価に代わった。そうだ。

 そんな事よりも、俺は一人で来ているわけではなかった。連れがいたのだ。その連れの好奇心のおかげで俺は巻き込まれたのだ。まあ、俺の好奇心もあったが。

 

 「おーい。五樹~。」

 「影が薄いキャラになったつもりはないんだけど…というか早くどいて!重いから!」

 なんと五樹は俺の下にいたようだ。わからなかったなあ。

 「すまん。今どける。」

 「そうしてくれよ?お願いだからね。」


 よっこらせと腰を起こし、あたりをよく見渡すがどうやら俺らは山にいるようだ。その証拠に、今いる場所は勾配が緩やかな坂になっており、よく下の方を見ると、その勾配差が急を増し崖になっている。また、生い茂っている木はすべて、俺の街では見たこともないもので…


 「五樹。俺らは山に何しに来たんだ?」

 「確か紅葉狩りに来たんだよ。春だけど…」


 妙な記憶を吹き込まないでいただきたい。俺らは駄菓子屋にいたのだ。確実性のあることだぞ?それは。

 

 「それは冗談だけどさ。まさかとは思うけど僕たちのこれって拉致とかそういうものなのかな?」

 「だれが何の目的でだ。それにお前も覚えているだろ。俺たちがあの訳もかからぬものに吸い込まれたのを…」

 「冗談だよ。それよりもこれからどうする?」

 「スマホで連絡。」


 スマホを取り出し確認。やはりというかなんというか、スマホは圏外…

 

 「山の中だしな。」

 「クソ。人類の栄光という名の特殊兵装が使えないとは!」

 「スマホそんなたいそうな物だったのか?」

 「パパ神が出来ないとは…まったく情けない!僕の失態だ!」

 「パパがみ?」

 「知らないの?パパラッチの神様育成記。訳してパパ神。最近、一部の豚共に人気なアプリだよ!」

 「その一部の豚にお前も入っているだろ。」

 「僕以外のさ!」


 俺達の会話を聞いているのは小動物と木だけ。まったく…空しいとはこの事だな。見事に誰もいない。山の中だからだろうが…


 「とりあえずだ。山を下りなければならないとは思うが…」

 「下は崖だしね…どうする?」

 「横に行くか。山を登るか…」

 どうするか…








 肺と喉が異様に痛い。

 しかし、足を止めることはできない。追手はさすがにここまでは来れないだろう。しかしあいつ等にあったら。山賊にあったら私は殺される。そのためにも早くここを出なくてはならない。

 あいつらは化け物だ。

 人のような身なりをして、決して死なない化け物。

 鈍器でも刃物でも魔法でも殺せない、不死身の化け物だ。

 早く…はや…く








 

 結局のところ。山を登ってみようという事になった。頂上から何か町などが見えるかもしれないという事と、もし見つからず夜になっても、頂上付近ならば、開けた場所などを見つけれるかもしれないというものであった。

 そして、今は森を二人旅。

 大切な持ち物は教科書類と筆記用具。体操着。スマホ。少しの現金。そして…


 「学校に余計な物は持ってこないという社会的倫理観を持ち合わせないヤツはバカだと思う。」

 「頭を使う事になるものは全て社会的倫理観にかなっていると僕は思うんだ。」


 なぜだかこいつのカバンにはいろいろな玩具が入っていた。ヨーヨーにけん玉。

将棋にチェスにオセロ。さらにはカードゲームまで。しかも底が見えないんだが。

 

 「というかそれをどこで使うんだ?一人ですべて遊ぶのかよ。」

 「主に今の教育論に対する消極的な反抗材料として使っているよ。」

 「この量は消極的ではない。」


 途中で見つけた檜らしい木の棒を装備し、鞄を背中に預けながら愚痴を言う。体操着の方が動きやすいとは思ったが、体操着だと寒い。俺が。


 「律儀に全てもってっている君とは違うんですよ!まじめか!」

 「こんな奴に負けたとは思いたくない。」

 「期末のことはいいじゃないか。次勝てば。」


  このように遊び惚けている奴が俺よりも学力が上なのだ。まったく…世の中理不尽である。

 それにしても、この森は少し不気味であるな。

 なんか変な感じがする。何だろう。とても妙な…

 そんなことを考えていた時だ。

 森が開けたのは突然であった。平地だ。そこには野花が咲き乱れている平地があった。その正面には岩肌が見えている崖。よく見ると平地の一部に何かがある。あれは…

 

 「エイリアンの宇宙船!?ポット!?」


 五樹が飛び出してそれに向かう。それは先ほど五樹が言ったようにエイリアン。宇宙船。ポット。で検索すれば出てきそうなほど、そのような物のようだった。俺もそれに興味もあったし、できるなら走りたかった…が

 正直、歩き疲れていた俺はそのように走るほどの力はなく、ゆっくりと、ただゆっくりとそれに近づいて行った。





 平地に出た。村までもう少し…

 そう思った瞬間だ。体に力が入らない…急に私は倒れてしまった。痛い。体中がいたい。どこかで休みたい。でも、山賊に見つかったら。私は…

 意識が暗くなる。

 だめだここで寝たら。

 痛い体を這いずらせながら、隠れれる場所まで移動しようと頑張る。けど…意識が…きれ…






 「中に何かいそうだね。そうする?宇宙人だったら。」

 「研究機関に高く売れそうだな。」

 「ちがいないね!でも、それもおうちに帰れたらだけどね。」


 鬼が出るか蛇が出るか。そのポットの中身は全く見えないが何かがいる気配がする。さあ…


 「どっちが開ける?」

 「先ほどの扉のこともあるしね。凛!君しかいない。」

 「襲われたら助けくれよ?」

 「僕はちゃんと逃げてあげるよ。」


 扉に手をかけると。鍵はかかっていないようだった。扉は、鉄の重さを残しながら、金属音とともに開いていく。

 扉が半分ほど開いて見えた。

 人の足だ。

 そして、ガシャンという音。

 扉が開きった。

 そこにいたのは…

 

 「拉致?というか、この子…」

 「…障害現場に居合わせることはめったにないと俺は思っていたぞ。」


 体中に傷がある。中学生ぐらいの少女であった。






 


 

 「目を覚まさないってことは、死んでいるのかな?」


 黒髪に少し白が混ざった少女を見つけて3分ほどたった。

 その間、ほおをぺちぺちと叩いたり、つんつんしたり、いろいろな方法で起こそうとしたが、まったく起きない。起きる気配もない。しかし体温は暖かいので死んでいるわけでもないだろう。


 「包帯とかあればいいんだが…すごい傷だ。」

 「あるよ?」

 「はあ!?」


 すごく大きな声で怒鳴る。何もってきてんだ。


 「こんな事もあろうかとではないけどさ…ちょっと待って。」


 ガサゴソガサゴソ。いろいろな物をカバンから放り出しながら、包帯を探す。放り出されたものは、先ほどのようなものとか、それ以外の遊具とか…ハサミ!…カッター!?……包丁!?なんだ?お前は何と戦おうとしてんだ!


 「あっ…あった。!」

 「はさみとカッターは分からんでもない…なぜ包丁?誰かとやる気かよ!」

 「僕にも闇がありるんだよ?」

 「聞きたくない。」

 「ははっ。そうだね…それがいい。」

 

 自分の友人にこれほどの恐怖があったとは。


 「そんな事より早くしなよ。彼女、本格的にやばいよ?」

 「分かっている。」

 

 包帯の巻き方は保険でやったからな。相手は五樹だったっけ?

 とにかく、薬類はなかったので、包帯で傷の部分の隠すようにぐるぐる巻きにするだけ。少女の傷跡は、何かで焼かれた後。斬られた後。さまざまな傷跡があり、一部は膿がたまっているような感じで…ひどい有様だった。


 「これで…よし。」


 一応処置は終わったが、早く医者に見せたほうがいいかもな。ていうか見せるべきなのだが、ここは森というか山の中。医者がおもに生息するのは街の中。ここがどこかも分からない。


 「それにしてもこのファンタジーな服装は何かな?コスプレ中にさらわれた?こんな趣味の誘拐犯?」


 少女の服装は、なんというか…アニメのような。現代社会ではあまり着ない、それこそ先ほど五樹が言った。コスプレ。のような感じの物であった。洋風と和風のコラボレーションではないが、中間といったその服装は、俺は見たことがなかった。

 

 「どうする?」

 「どうしましょうね?」








 背中の荷物がくそ重い。

 その荷物は二種類あるのだがその中の一つ。五樹の荷物がすごく重い。あいつこんなものを持っているのかよ。どんな筋肉?

 五樹は五樹で少女をおぶってすいすい進む。よく疲れないよな。俺と同じ文化部だとは思えん。

 それにしても肩が痛い。

 そろそろ休みたい。

 その時。五樹が止まった。

 

 「何だどうした?」


 五樹は、固まっていた。


 「早く進んでくれ。肩が痛い。」


 それでも固まっている。

 先に行くぞと、進もうとした時。五樹に止められた。文句を言おうとし、俺も固まる。

 その先にいたのは人だった。

 上半身裸で、何か布の様なものを蒔いているだけの人であった。

 しかし、周辺には散らばっている何か赤い、生臭い液体が散らばっていた。それ以外にも、生気を感じない肉の塊。そして、何かおいしそうにムシャムシャしている。それは…


 「絶対分かり合えないタイプだと思うんだが?」

 「そうだね。見つからない方がいいやつだよ。」

 

 そっと。見つからないように。そいつは夢中になってそれを食べてた。見つからないように横を通る。夢中に食べているそれは…人間で。

 血の水たまりで音を立てないようにそっと横を通る。背中が重い。背中の汗が寒い。生臭くて吐き気がでる。この光景も大きいのだが。

 ムシャムシャ。ピチャピチャとここまで音が聞こえる。その時、死体の一部が見えた。内臓がすべて食われ、それ以外にも頭が食われている。血を流している死体もいくつもある。最近殺されたようだ。

 食人主義が日本にいたのかと思ったが、その男は茶髪。それに顔つきは違う。呼吸が自然と浅くなる。

 その時だった。  


 「うっ。ううん。」


 五樹がこちらを見る。

 いや俺じゃ無えよ!という事は…


 食人主義はこちらを見ている。そして。

 ニタァ


 笑った!


 瞬間

 持っていた人間を放り出し、俺らの方に向かってきた。


 「逃げろ!」


 どちらが言ったか分からない。

 そして、俺たちは走り出した。









 「このいかれ野郎!クソビッチ!」

 「文句言わないで走れ!」


 暴言を吐く余裕があることはいいことだが、その余裕も死んでしまったら意味がない。それよりも肺に酸素を送ることに集中しろと言いたいが、言う気力は全て走ることにつぎ込んでいる。


 「嫌だなぁ。あけp。そこは不快な奴だと日本語でいう方が正しいだろ!でしょ?」

 「お前のその元気を分けてほしいな!」


 木々を避け、ある時はしゃがみ。転がり。ジャンプし早く早く逃げるように足を動かす。それでも追いかけてくる食人鬼に反吐が出るが…


 「もうこの荷物放り投げていいか?」

 「貴重な物資を投げちゃだめだよ。一文無しほど怖いものはないからね!」


 ろくに整備されてない森を走るのはこんなにきついとは今知ったが、それにしてもきつい。早く休みたい。その時だ。


 ドンという音。

 木々が倒れた音

 カバンを持ち、倒木の下をころがるように潜った時だ。勢いを付けすぎて、ぐるぐると地面を駆け回る。

 回転数があがり、傾斜部分に体が打ち付けられまくる。

 バチン

 地面にノックアウト。

 体中がきしみものすごく痛い。

 それでも顔をあげると、五樹がいない。当然か。いや、っていうか何で…先ほどの男。ニタニタして俺を見てそして…

 口を開けた。生臭い。口の中の赤いものが汚い。どんどん迫り…そして…


 乾いた…銃声。


 何が起きたか分からない。俺の目の前にあったそれは…

 俺は…拳銃を握っていた。



 

 


 




 




 

 




 

 

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