銃弾と日本刀

 暖かい。

 全身が痛いのにもかかわらず、なぜだか暖かさだけが印象に残っていた。誰かの背中。私がいるのは誰かの背中。

 町長?

 違う。あの人は町を離れない。離れられない。

 そしたら別な人なのか。

 だとしたら誰なんだ?この人は。

 背中から見えるのは黒い髪。という事は黒の国の人間という事になる。しかし、黒の国が、裏切り者の私を生かすだろうか?なぜ……。分からない。村の人ではない。こんな服は初めて見た。という事は黒の国のひとでもない?

 何で…私を助けた?

 山賊?

 違う。あいつらは肉しか興味がない。人肉しか興味ない。それに見た限りここは森の中だが。


 「あっ。起きたかい。でもじっとしててくれよ?」


 その人は後ろを振り向き私にこのように言う。

 よく見れば周りに何かがいっぱいある。

 それは…

 不死身であるはずの…山賊の死体だった。


 それは、ざっと見るだけで数百。

 最初は、人間だと思ったが、独特なあの骨格は山賊以外の何物でもない。殺せないはずだ。あの人以外は…何で…


 「永遠と湧いてくるんだけどさ…これが箱の罪?恐ろしい災害だよ。パンドラ…は今は関係ないか。まあ、それにしてもだけど。ほんと、この世界の箱の顔が見たいよ。」


 右手に持っているのは…何か細長い剣。こんなもので…


 「良かったね。パンドラの合鍵が来ていて。これでもう解決したようなものさ。ほんと偶然って大切な物だね。」

 

 ううっといううめき声。前を見ると一匹だけ無傷な山賊がいる。その山賊は…私たちに向かい…襲いかかろうとし…そして…

 

 真っ二つに…


 燃やされた…


 「ただ、生きてたらのお話だけど…


                あけp。早く慣れてくれよ…」





 違う。

 襲われたとき。俺は懐かしいと思ったんだ。

 状況は違うが。このような経験をしたことがある。食われるという恐怖。それもある。しかし、その懐かしさ。その中に、何か違う。別な感情があったんだ。そして俺はこんなときどうしたか考えたんだ。

 腕を相手に向けた。それだ。俺はいつどこでか分からないが、腕を前にあげていた。そして、握ったんだ。そして…

 引き金を引いた。


 そいつは、ただゆっくりと俺の方に落ちた。

 頭を打ちぬかれたそれは、俺に寄りかかるように死んでいる。

 というか…

 「正当防衛か?」

 そう。そこが心配だ。

 向こうはただ追いかけてきただけなのに俺は銃を使い殺した。これは裁判で正当防衛になるのか?どうなんだ。というか拳銃?何でそんな物騒な物を俺が持っているんだ。

 右手には確かに拳銃を持って…いない?消えた?それとも落とした?不思議なこともあるもんだなと現実放棄をしたいが、あいにくそんなことは出来ない。殺したという罪悪感よりも、目の前の物に対する疑問が多くなっていく…

 こいつは誰だ

 なぜ襲ってきた

 あの拳銃は何だ

 そして

 ここは…どこなんだ…


 ただただ疑問だけが離れない…

 

 痛い体を起こす。考えていても仕方ないし、疑問は行動しなければ解決しない。それに、何だろう…こういうのもなんだが…俺は今…少し…


 「楽しい…か。」


 なぜだろう。俺は今とても楽しい。先ほどのことを考えると胸の鼓動が止められないというか…不思議だから。楽しみたくなるというか…

 それにしても腕が痛い。

 よく見ると、先ほど打った右腕が出血していた。流れ出ている量はそれほどでもないが、止血を一応したい。荷物…よかった。バックは二つとも木に引っかかっている。

 バックに向かい、二つとも回収した。荷物は何一つも失わせてはいなく、それに関しては安心した。ここで何か失っていたら。いろいろな文句を言われるからな。五樹に。

 五樹のカバンから包帯を取り出しぐるぐると腕に巻く。これで止まってくれればいいんだが…

 それにしてもこの荷物はどうしようか…持っていくしかないんだろうな…よし。頑張る。俺!

 決意を新たにし…俺は山を登っていった。


 2時間ぐらい歩いたか?

 五樹がどこにいるか分からないが、頂上の話をしていたので頂上付近にいるだろうという俺の楽観的思想は、二時間たっても頂上に着かないイライラでかき消される。まだ着かない。そしてまだ森である。

 喉が渇いた。

 昼食を多めに食べたせいか腹は大丈夫だが、とにかくのどが渇いている。それに体がひどくだるい。疲れた。川でもないかと思うが、このまままっすぐ進んでも川がある気配はない。


 それにしても奇妙な森だ。

 先ほどから出会う昆虫類も爬虫類もみな見たことがない。サソリ?のでっかいような奴や、ちっちゃいウサギのようなものや…こんなにも多くの動物たちが、見つからず新種になっていることはあり得ない。つまり、ここは俺たちがいた所ではない…っていうのは早すぎか…

 ザッザッ。木々と木の葉による足音が森の中に響く。あの食人鬼はここら辺の民族なのか?まあ、アマゾンとかにそういう民族がいるという事は聞いたことがあるが、あいつはどう見たってひとりだったしな…

 いや、はぐれたっていう事もある。それに団体行動をしないだけで、単独行動を好む種かもしれないじゃないか…

 興味を持つのもいいが、あいつらが集団でこられたら逃げきれないかもな。何か武器があればいいけど…

 檜の棒はいつの間にかなくなっているし…あそこだ。包帯巻いたところだ。それ以外に武器は…拳銃?あれもなくなっているし…というかあれは何なんだ?現れたと思ったら消えて…ほかに身を守るもの…あった。

 五樹もこういう時は役に立つな。いや、あいつの闇の部分は。

 バックをまさぐり、目的の物を取り出す。

 テレッテレー

 包丁~

 とふざけている場合ではない。これは身を守る手段でふざけるようなものではない。

 先ほどからいる動物の中には、俺よりも図体のでかいやつはいたが、どいつも俺を襲わなかった。俺よりも小さな奴の肉を食っている奴がいたという事は、肉食の動物もいるだろうに…

 ただ単に、生態系の頂点だとか?

 ただこの山。というか森は、人が入った形跡がないんだが…

 ゴツン

 「痛って!」

 考えていて、前を見ていなかった。

 目をあげるとそこは切り立った崖。ここを上ることはできない…か。

 横に行くか…そう思った時、水の音が聞こえた…まさか!


 草花がぼうぼうと生えている道をかき分け、水音がするところに向かう。その音は、川の音というより、滝の音に近かった。

 喉に吸い付くような感じで呼吸がうまく出来ない。それでも走る。そして森を抜けようとした時。俺はその勢いを殺し、また草木に隠れた…

 そこにいたのは…


 殺したはずのアイツ…いや

 あいつらだった。







 「あの子?パンドラの合鍵は?」

 「そう。名前はあけp。ごく普通の高校生さ。」

 「こうこうせい?」

 「カルスの生徒の事。僕たちの世界で分かりやすく言うと。」

 「懐かしいな。」


 風が強い。町の見張り台から見える小さなあの合鍵が、本当に…


 「君が最初でよかったよ。もちろん。快く引き受けてくれるんだろ?町長さん。」

 「俺にだってかなえたい願いはあるんだ。」

 「じゃあ。引き受けない?」

 「できる事ならな…」

 「でも。君の贖罪はほとんど失敗しているんだよ?抜け道も見つかっていないのに…」

 「諦めんよ。俺は。」

 「見殺しにするんだね。あの子も。」

 「…ああ。」

 「無理やりにでもするよ…ここを…セーフティーにね。」

 「勝手にしろ。」

 「ああ。勝手にさせてもらうよ。」


 勝手な奴だ。ここは俺の世界なのに…

 

 「お前はもう。願いを叶えたのか?」

 「うん。これで二回目。安心してほしいけど、僕のカギは君の箱に合わない。というか君が開ける箱は誰なの?教えてよ。」

 「少なくともお前ではない。」

 「そりゃあよかった。もう一つ聞きたいことがあるんだけど…」

 「何だ?」

 「ここの合鍵は…誰?」





 滝の傍。

 あいつが、いや違うアイツらが数百。団体様御一行でいらっしゃった。すべてが同じ顔だ気持ち悪い。というかそんなことを思っている場合ではない。のどがカラカラで水がほしいと感じているのだが、先ほど思った通り仲良く団体行動していらっしゃっている。

 あの集団に勇敢に立ち向かったとしてもさ、数百の刺身にされて食べられることしか頭に浮かばない。

 どうするか。

 いや。俺の頭の中ではこのような考えが浮かんだ。

 どうやって飲む?

 ひとは、喉が渇くと考えが変わるようだ。普段の俺ならばすぐに立ち去るであろうこの光景を見て俺が思ったことは…

 どう攻略する?


 奴らは声に反応するという事は分かっている。いや音?どちらかは分からないが、反応することは少女の件でもう調べはついている。

 というか何しているんだ?

 よく見ると食人鬼たちは、川の水を飲んでいるようだった。それはもう夢中に、馬のように。そして滝の音で大半の音は消されている。まて?普通に行けるんじゃないか?これ。

 滝の音で足音は消されるし、あいつらの視覚に映っているのは水だ。そして味覚は水に集中している。感覚と嗅覚は分からないが、たぶん大丈夫だろう。たぶん。嗅覚で分かったら焼きそばパンだな。

 そっと足を出す。

 ジャリッという石がこする音がしたが、食人鬼はどいつも気づいていないようだ。仲良く水を飲んでいる。

 こいつはいけるぜ!とか言って調子に乗らず。慎重に慎重に川に向かう。ジャリッジャリッうるさい。しかし、気づかれていない。包丁は手の中だ。いざとなったら孤軍奮闘する所存でありますではないが頑張ることは誓う。

 ジャリッ

 ようやく川に着いた。

 とても透き通っているその川を見て、すぐに飲もうと水を両手ですくったが待て…寄生虫とかやばくないか?

 たぶん大丈夫。

 うん

 大丈夫。

 自分にそう言い聞かせ、水を一口…



 …俺は…生まれてきて…よかったー

 心の中で叫ぶ。

 もう寄生虫とかどうでもいい。むしろウエルカム。俺は今最高に機嫌がいい。水はこんなにありがたいものだったんだ。

 感傷に浸っていた。

 だから…

 横の食人鬼に気づかなった。


 「ハッ。」

 横からそんな声が聞こえ、反射的に横に飛んだ。

 俺がいた所に土ぼこりを蒔きながら飛んできた。人いや食人が。

 包丁は飛んだ時に持っていたから失くしてはいない…けど…。

 なぜ横にいた?あの団体に気づかれていたのか?しかし団体様は、今もなお水を飲んでいる。右手はまだ痛い。包丁は左で持っている。利き手ではないから威力は半減するが…いや…逃げよう。

 ムクリと起きようとしている食人鬼を一瞥しただけで、背を向きかけ出す。動きにくい服装をしている自分に反吐が出るが、体操着では寒いのだ。仕方ない事なのだ。

 追いかけっこは、また始まった。









 全く…

 痛い右手を振りながら、自分が強制的に鍛えられている感が半端ない。そして五樹たちは無事なのか?

 手持ちゼロで、あの子を背負いながら追いかけっこだろ?大変だな。俺がこっちでよかったわけないけどな。こっちはこっちで大変なんだから、おあいこだろ…

 倒木が俺をこけさせるように迫るが、左手でその倒木を超えるようによける。坂道だからか多少滑るが、生えていた木をうまく使い勢いを殺し、また走り出す。

 汗がシャツにしみこみ、着替えたいと切実に思うようになった時だ。

 突如広場に出た。

 先ほどの広場に似た底には、また、先ほどのポットもどきがある。しかし、色が違う。先ほどは黒だったのに対しこちらは白。つまりここは別の場所?

 というかどうする?

 俺はもう疲れてへとへとだ。

 もう走りたくないと思えるほどは走ったし、このままでは追い付かれて…

 後ろを振り向くと。奴はいなかった。

 …どこで撒いたか知らないが、とりあえず着替えよう。あれ使って。

 目の前にあったのはもちろんポットである。


 体操服。

 それは運動性能に特化した戦闘服ではないが動きやすい事には変わらない。今いるのはポットの中。

 ここは案外広く、人二人ほどは入るぐらいの集積能力はある様に見えた。

 そこで少し体を休めている。

 疲れた。

 眠気がある。

 も…う

 


 


 

 


 寒い

 なぜ…こんなに寒い。

 なぜ俺はこんなところで…

 …寝落ち?した。だいぶ疲れていたんだな。俺。

 ポットの外は…雨…か。

 ザーという雨音で目が覚めたわけではないが、雨のおかげで気温が下がり、そのせいで起きたとすれば、雨のせいだ。

 空は薄暗くなっている。

 顔を出しても周りには誰もいない。しかしこの雨はどうしようか。傘のようなものは持ち合わせておらず、五樹の何でも鞄にもそのような物は持ち合わせていない。

 歩きたくはない。がしかしだ。

 五樹もこの雨の中、ひたすら俺をまっているかもしれない。

 ならば俺も行動しなければならないのじゃないか?

 友人として

 それに…だ。

 あいつは俺にジュースを奢らなくてはいけない権利がある。食人鬼に食べられたりしたらその権利が失わされてしまう。

 ならば…

 探して帰る。それだけだ。



 雨は勢いを増している。その中に俺は身を投げた。

 雨は鞄と俺を勢いよく濡らし、ただ強く体温と体力を奪っていく。走るごとに全身に痛みが出始める。今までの疲れが全身に走るなと命令する。しかし

 それでも足は止められない。

 走ることをやめることはできなかった。


 森を走るのにも慣れてきたころ。荷物を背負っている感覚がマヒしてきたころ。雨の雑音に、少しの音が混ざっていた。

 夢中でその音の方向に向かうとそこには…また、滝があった。

 しかも姉妹のように似たような滝だ。

 しかし何かが違うそして、よく見ると空洞が…

 どうする?

 先ほどからぐるぐる回っているが、切り立った崖意外に上に上る方法が分からない。しかし、このまま体力を減らし、あいつらの夜ご飯にはなりたくない。そろそろ何も見えなくなる。滝に入るか…

 滝は、人ひとり入れるような幅があり、そこには何者かの足あとが無数にあった。なかは、洞窟であった。しかも電球できちんと明かりがついている。文明のありがたさをここで確認できた。

 奥に進むにすれて、洞窟は狭くなっていった。

 だが、電球以外の物。例えば、布類など。そのような破片が徐々に見つかっり、きちんと生活している文化的な民族がここを通っているという確かな証拠に胸をなでおろす。

 人がやっと入りそうな狭さになった時だ。

 雨音が聞こえた。

 丸い円滑上に濡れたそこに、一つの梯子のようなものがある。

 迷わず、木で作られた梯子のようなものを登っていく。

 その木製の梯子というのが案外長く、たいかんで100メートルぐらいあった。 途中腰が痛くなり、右手が死にそうになるがそれでも上る。

 やっと上り終えて見えたのは…町だ。

 震える体に鞭を打ち、自分にがんばれと命令する。

 右手が痛い。腰が痛い。足が震えている。しかし確実に歩いている。

 町に入るか入らないかくらいで…

 俺は…

 




 


 

 

 



   


 

 












 

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