白の国の住人

 階段から音がする。

 その音は誰かが上ってくる音だ。

 石でできた階段だからか、そのように響いて聞こえる。

 最初は、ニーナさんかなと思った。ニーナさんはさっきの揺れで壊れたであろう城を見に行くといったっきり戻っていなかったから。しかし階段の音は複数のそれで…次に誰か別の人が来たのだと思った。

 だからその時。その声がした時…驚いたんだ。


 「リン。私です。開けてください。」


 お姉ちゃんの声。久しぶりのお姉ちゃんの声。でも何で?階段から聞こえた名は数人の足音。何でほかの人といっしょにいるの?


 「妹さんの名前って…リンなのか?」

 

 次に聞こえたのは男の人の声。それ以外にも人はいそうだ。扉の方に恐る恐る向かい、扉を開けて…そこにはお姉ちゃんがいて…


 「はい。」


 ほかの人たちもいたけど、そこにはもちろん私の大切なお姉ちゃんがいて…

 私は抱き着いてしまった。


 「この子が。妹のリンです。」


 やっと…会えた。




 


  「それで、どうしてここに?」


 まあ、聞かれるだろうと予測されていた質問である。イツキが簡潔に俺たちが体験したことを伝えると、信じてもらえたようで、そんなことが…という言葉を頂戴出来た。


 「それで?俺たちが聞いた話だとここにニーナさっていう方がいるということなんだが?ニーナさんも無事なのか?」

 「ニーナさんはお城の様子を見に行かれました。もうすぐ帰ってくると思うんですが。」

 「そうですか。ニーナさんも無事でしたか。」

 「はい。とうかお姉ちゃん…人前できちんと話せるようになったんですね?」

 「そっ!それをここで言わないでください!」

 「お姉ちゃんも変わったんですね!」

 「…?いつもこんな感じでしょ?」

 「それよりお姉ちゃん。足を引き図って…怪我したんですか?」

 「ええ。少し転んでしまって。」

 「大変です!ちょっと待ってください。今足を固定させます。」

 「いいの。このままでも十分。」

 「どうせお姉ちゃんの事ですから、邪魔で取ってしまったのでしょう?」

 「ごめん。」

 「謝らなくても大丈夫ですよ?お姉ちゃんにはお世話になっていましたから。」


 ミガさんは分かっていらっしゃらないようだ。というか、ミガさんの前ではさらしたくないのか?

 それにしても仲がいい兄弟である。


 「あけpあけp!」

 「なんだ?」

 「リンとイツキって兄弟なんだよね?」

 「お前と俺が兄弟のように見えるからやめろ。」

 「なにを言ってるんだい。僕らはそれ以上の関係じゃないか。」

 「親密な関係になった覚えはない。それで兄弟だからどうしたんだ?」

 「兄弟にしては、似ていないと思わないかい?」


 確かに…兄弟と言われれば、あまり似ていないかもしれない。しかし兄弟なら誰しもが似るといった方程式はどこにもないし、世の中には似ていない兄弟がいるかもしれない。その例だろう。


 「ここで名探偵である僕の出番ですよ。ええ。」

 「お前が名探偵だと?事件をより複雑にするお前が?」

 「僕はそんな事しないよ。」


 樹は低くした声を保ちつつ、俺以外の誰にも聞こえていない事を確認して俺に向かってこういった。

 

 「彼女たちは、本当に兄弟なのか?」


 それがさも重要であるようなことであるように、五樹は真面目な顔で言ったのだ。


 「どういうことだ?」

 「これはあけp達が白の国に行っていた時、白の国に図書館みたいなものがあってね?そこで調べた事なんだけど…」

 「図書館なんてものがあるんだな。ここでも。というか、その図書館とイツキ達は関係なさそうだろ?」

 「最後まで聞いてくれる?」


 まじめな顔で言われたもので、こちらは少ししり込みしてしまうのだが…


 「ああ。」

 「そこで見た国の歴史書にはこんなことが書いてあったんだ。一番最初の所にね?”我ら一族、神に力を与えられ、この地を任せられん”。って。」

 「珍しい事でもないし関係ないだろ。王家が正当であるってことを国民に簡潔にアピールするためのものがどうしたんだ?」

 「そう思ったよ?でもさ、どこにもなかったんだ。」

 「何が?」

 「そういうたぐいの伝説だよ。」


 姉妹たちとミガさんは、別な話で花を咲かせている。


 「伝説なんて付録のようなものだろ?」

 「そうだけどおかしいでしょ?国民が困っていたのを助けたり、強大な敵を倒したからこそ正当性があるのであって、ただ神に選ばれたから俺が王様だって普通ならないでしょ?しかもそれだけじゃない。」

 「それだけではないのか?」

 「そう。王家の家系図を探して、どんな秘密があるかどうか調べようとした。だけどね。それは叶わなかったんだ。家系図がなかった。」

 図書館にあると思ってずっと探したのか?

 「図書館でももちろん探したけどさ、少し聞いてみたんだよ町の人に。そしたらその答えが面白いものだったんだ。曰く。」


 「リン様だってね。」


 リン様?


 「店の人とかいろいろな人に聞いたんだ。全部答えがリン様。前の王様もその前の王様もすべてリン様なんだよ。」

 「そういう風習。というわけではないのか。」

 「ではなさそうだった。そして、王政では必ずっていいほど必要な…象徴みたいな…そんな場所を興味本意で探したんだけど…誰も分からなかった。というかそんなものはなかった。」

 「くまなく探してもか?」

 「そう。くまなく探してもそんなものはなかった。周到に隠されていたんだよ。工場の奥に城があるって信じられていたんだ。結局はなかったけどね。」

 「じゃあ。どうやって政治をしているんだ?王政が実は民主国家だったのか?」

 「それがさ、そういう政治をするような場所もなくて、でも毎回法律は改正され、規定が毎回出るらしい。何処からかは分からないけど。」

 「それで?リン様という事が関係あるとは分かった。でもそれがリンだという事は確実性がないだろ。」

 「ここからが重要なんだけどさ、そのリン様っていうのは、どうやら神格化されているものなんだ。」

 「どういうことだ?」

 「さっきも言ったように、白の国には伝説や昔話の類が一切ない。それなのにもかかわらず、リンは無条件で神様扱いされているんだ。しかもこれだけ神格化されているのにもかかわらず、リンは容姿だけが伝わっている。曰く。

 白髪で。顔に黒子がある12歳ぐらいの少女。」


 そこまで言って、イツキは軽く息を吐いた。

 だいたい理解はした。こいつが言いたいことはイツキやリンの事ではない。まあそれも少しあるんだろうが…


 「お前の話は分かった。イツキも大体そんな感じだったしな。そして主題が分かったよ。お前は、イツキとリンが兄弟かどうかという話をしたかったんじゃない。本当に言いたかったのは…王政ではない。そのように見せた政治体制ではないのか…という事か。」

 「そう。白の国に、始めから王様なんていなかった。そしてこう思ったんだ。なぜ王様がいないのに、王政の政治をまねる必要があったか。」

 「しかも城を建てずにか?」

 「うん。もし王政をさせて、自分が…もしくは自分たちが影から操ろうとするんだったら、そのような目立つお飾りはとても大切だと思うんだ。でも、そんなものもなく。作らなかったじゃなくて、作っても意味がないとしたら?」

 「お前…まさかとは思うが?」

 「政治をする場所が…別な所にあるとすればこの謎は解けるんだ。つまり…」

 「つまり「もともと政治をする場所がここだと言いたいのか?」」


 結論を言うのは俺の方が早かったようだ。

 

 「そう。だと考えた!」


 そういう五樹は、元の不真面目な五樹に戻ったようだ。


 「お前の考えには穴がありすぎる。」

 「そうだと思うけどさ…名探偵の力ではこれくらいが限度かな。」

 「だいたい、最初の仮初の定義はどうした。」

 「あれは仮初なだけさ。」


 イツキ達が兄弟だとか、この世界がどんな政治システムだとか、俺にはかかわりない物であり、関係ない事であった。それにどんな政治体制であろうが…


 「維持できる人間が死にすぎたからな…」

 「違いない。」


 政治がどうあれこうあれ、黒の国では人がほとんど死んだ。国の全てを見たわけではないが、多分ほとんどいないだろう。


 「さっきから何の話をしているの?」


 ミガさんが、睨めっ面でこちらを見てくる。先ほどの話は聞かれていなかったようで、少し故郷が懐かしいなという話をしていたと発言したら、興味もなさそうにまたイツキの方に戻っていった。

 それにしてもだ。早く移送しなくていいのだろうか。


 「そろそろ行きたいっていう顔だね。あけp」

 「ミーアさんが来るまで待っていましょう。」

 「そのミーアさんがまだ来ないのだが?」

 「たぶんそろそろだと思います。ミーアさん少しのんびりしている所があるので。」

 「マイペース?」

 「たぶんそうだね。」


 そうして一時間ほど待った。

 そして階段から足音。


 その足音は複数ではなく。単独の足音であった。そしてノックの音が部屋にこだまする。


 「リン様。ミーアです。お入りしてもよろしいでしょうか。」

 「あっ。はい!」

 「失礼しま…っ!何ですかあなた達!」


 入ってきたのは、俺達よりも少し大人びた女性。リンの反応で、この人がニーナさんだと推測出来た。

 最初にニーナさんの目に映ったのは、リンではなくイツキだった。そのせいか、ニーナさんが驚き声をあげたのだ。


 「僕たちは怪しいものでは…」

 「そのカッコ!どう見ても怪しい者でしょ!」


 そう言えば、樹は制服のままであった。日本の高校生の正装である制服も、場所が違えば正装ではなくなる。


 「イツキ様!戻られていたのですか!?それでこちらの者たちは?」

 「えっと…友達です。」

 「イツキ様がお友達を!」


 そんなにも驚かれることなんだろうか。


 「あのイツキ様が…三人も…。信じられません。」

 「何か俺には悪意が感じられるのだが?」

 「そんな…イツキ様が…これは…」


 一人でこのようなことをぶつぶつ思考していらっしゃるので、こちらとしては恐怖も少しいだいてしまう。


 「おめでたい!」

 「はあ?」


 少し口調が荒くなってしまったことは、仕方ないと感じつつも、俺よりも大人であるだろうこの人に敬語を忘れてしまった。


 「イツキ様が、このようなお友達を三人も!今日は私腕を振るいます!さあ早くお昼を作らなくちゃ!」


 そう言って、階段の方に急ぎ行こうとしたところを、リンが腕を取り、何とか止めた。


 「そんなことをやっている場合ではないんです!この国が!」

 「?」

 「大変なんです!」




 「そんなことが…」

 「はい。ここも安全とは限りません。早く移動しましょう。」

 「どこに?」

 「白の国に行くしか…。」

 「あそこも、聞いた限り安全そうではなさそうですが?」


 ミーアさんもリンも同じ反応であるという事を発見した。特に意味はないが。それよりも、これからどうするかだ。


 「その事なんだけど。僕も白の国に行くべきだと思う。」

 「町長を探しに…か。ほんとにお前は何を隠しているんだ?」

 「いろんなこと。」


 そう言って五樹はとぼける。


 「でもこれだけは信じてくれるかな?町長を見つけなきゃ、僕たちは帰ることも、ここを救う事も出来ない。」

 「帰る…とは?」

 「お前は、知っているわけだな?元の世界に変える方法を。」

 「詳しくは話せないけど。」

 「…信じるしか方法がないんだが?」

 「ごめんね?」

 「何謝ってんだ。まさかここに連れてきたことについてか?」

 「ここに来たのは偶然さ。本当に。」

 「元の世界ってどういう事?」

 

 淡い表情というのはこういう表情の事を言うのか。イツキは、そのような表情をし、彼らしくもなく俺に謝ってきた。


 「俺はいいが。ほかの人はどうだ?」

 「ちょっと!無視しないでよ!」


 ミガさんが叫ぶ。


 「何だ?」

 「何だ?じゃない!今なんて言ったのよ!元の世界?どういうこと!?」

 「どういう事…と言われても…」

 「まあそういう事ですよ。僕たちはこの出会の人間じゃないんです。」

 「はあ!?」

 「と言われましてもですよ。信じてもいなくてもですけど。」

 

 イツキの発言に、ミガさんは怪訝な顔をする。


 「あんた達…。灰色の町の人じゃないの?」

 「はい。」

 「ああ。」

 「じゃあ。あたしが首を絞めたのって…」

 「…すごく痛かった。」


 冷や汗である。今、多分流れているのは冷や汗である。


 「…ごめん。」

 「大丈夫ですよ。」


 誤解も一つ解けた。

 まあ自分が殺気丸出しで首を絞めた相手が、人違いでやんすだったら、誰でもこうなると思う。そのおかげか、関係がギスギスしたようなものから少しは仲良くなれたと思う。

 そのあとも話し合いが行われた。しかし

 結局は俺たちの意見が通って。俺たちは白の国を目指すことになったのだ。

 




 




 

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