たった二人の収穫祭
まだ…だ。
体のあちこちが痛い。筋肉痛だと思っていたがどうやら違うようだ。
昨日五樹が来て、カギを酷使したから明日は大変だねといった言葉を吐いたが、はじめてその言葉を理解した。
しかし、耐えられないほどでもないし、それで死ぬこともたぶんない。しかし…大変だったな。そして、今日は収穫祭…か。
今俺がいるところはイツキの客室である。
もともと町長の所でお世話になる予定だったが…
「病人の女の子を一人にさせる気?」
と五樹に言われた。
反論はもちろんした。
「一つ屋根の下で男女が寝ることはいけない事ではないのか?」
と
しかし…
「一回お世話になっている身でそれは使えないよ。あけp。それに彼女は、一度でも君を家に寝せたんだ、彼女の許可もとっているようなものだ。」
まじかよ。無茶苦茶な…
「町長の所では一人しか泊まることができないし、僕は彼女に泊めてもらったことがないからさ。家賃は献身的な介護…でいいんじゃない?」
「それはどちらかというと、あの日のお礼だろうな。」
「じゃああけpだけ宿屋の泊まる?でもそんなものここにはなさそうだけど?」
「分かったよ…」
「理解が早くてよかった。そういうことで頑張ってね?」
颯爽という調子で、町長の所に向かうアイツを俺は止められない。…かった。
そして現在。
ほとんど私室とかしたその部屋で、まだ少し痛い体を動かしながら自分の体操着を取り、脱いだ着替えをかごに入れる。あとで洗濯しなければならないが、洗濯機になれた俺は、洗濯をどのようにした方がいいのかご存じない。やはりもみ洗いか?でも、あれ皺が増えるような…そういえばイツキの洗濯物…どうするか。
一応様子を見にこう。
部屋から出て、イツキの部屋の前に向かう。そういえば朝ご飯作った方がいいか?俺は別にいいが…イツキが起きる前に作るか。
コンコンと数回ノック。
返事は聞こえない。なので、静かに入るぞと言いながらそこに入る。
イツキの部屋は、女の子らしいと言えばらしい部屋であった。ベッドがあり、本があり、ぬいぐるみがある。俺の妹の基準であるが。しっかりしながらもまだ少女なんだなと実感する。
おれと同じようにグルグル巻きにされている。
時々はうなっているが、それは痛みとかそういう感じではなく、何か怖いものを見ているような感じだった。大丈夫そうだな。
さて。朝食を作るか。着替えは…後で用意しとこう。
「干し肉は…あった。あと野菜類だが…ネギと…これ…まさかだが、テンツダケ?あのワニのキノコ部分食えるのか?…まあいい。」
あとは鍋を用意して、材料は、干し肉と、長ネギと、米と、テンツダケ。調味料は塩を少し、
昆布だしとかあればいいのだがそんなものはない。なので干し肉と塩でどうにか味を作るか。ガスなどがないためであろうか、この家の台所は今は珍しいかまどである。使い果たしたのか薪は周辺にはなかった。
家の裏。風呂に入るときにそのような物があったなと思いだして、薪を取りに行った。四本ぐらいでいいだろう。それを補充し、横の棚に紛れていたマッチがあったので、それで火を起こそうとする。しかしうまくつかない。
何か火がつけそうな紙がないかと探していると、棚の引き出しにまとめられた白紙の紙があった。
一度太い薪をすべて取り出し、細い木の枝だけを中に入れる。そして白い紙を数枚重ねて先端に火を点け、中に放り投げる。
マッチは右手で振って火を消した。
最初は渋っていた火も、細枝に勢いを覚えどんどん強くなっていく。そこに薪を二つほど入れると、数分後に本格的に火が付いた。
さて、調理開始だ。
まずは二回ほど米をとぎ、三十分ほどつけおきしておく。その間土鍋を用意。シイタケみたいなテンツダケと、長ネギを切っておく。整理整頓されている居所は使いやすい。家だとすぐにごちゃるからな。弟と妹が…
それにしても、おかゆなんて久しぶりだな。摩訶が風邪ひいた時以来か…。
干し肉はこま切れにする。
しかしこの作業がとても面倒で中々離れてくれない。こいつはとても面倒な敵だ。しかし観念したのか数分後干し肉は小さくなり、食べやすい大きさに変わった。
三十分。
足元のかまどという暖房で体を温め、そろそろいい感じになったかと米を見ると…まあこんな感じか。土鍋の中に干し肉の大半を入れ、つけおきした米を入れ、そこに水を足しておく。そして火にかける。四十分ほど…だ。
その間、タライを見つけ、ワイシャツと一応買った服をもみ荒いして汚れを落とす。洗剤を使っていないせいか、あまり効果はなさそうだが、少しはマシになったと思う。
ゴシゴシゴシゴシ
洗濯機とは洗濯という行為の利便性を飛躍的に向上させたものだという事を、半分主婦である俺は実感した。
もともと、両親は海外出張が多く、その関係で家の中での家事は大半はできるのだが、これも文明が発達したからできたのであろうか…自分の自信に穴が開いたような気持ちだ。もちろん弟たちも手伝ってくれる。俺がしつけたから。しかし…だ。小学一年生の女の子達と小学二年生の男の子の出来る事と言ったら、それこそお手伝いぐらい。ほかの事は任せてはおけない。なので実質俺だけになるのだ。この子育て生活に慣れた時のイツキの言葉が忘れない。曰く…
「子育て中のお母さんだね!」と
一高校生であり文化部部長の俺が「お母さんだね…」だと?
冗談言わないで家に来て手伝ってほしい。そちらの方が俺的には効率的だ。それにいくらしつけたといっても、そこはやはり子供である。忙しさを勉強や読書やお手伝いに振ることなどしない。ほとんどを鬼ごっこやかくれんぼやいたずらに使う。どんなに怒ってもだ。
手を出さない俺が悪いかもしれない。
子供だからと、お手伝いはちゃんとしているからだと自分に言い聞かせ、お尻ペンペンなどもしたことがない俺が悪いかもしれない。
しかし、料理中に話しかけられるのはやめていただきたい!
「お兄ちゃん!かくれんぼ!」
はいはい。お兄ちゃんは今お肉を焼いているの。危ないから美瑠と遊びなさい?
「お兄ちゃんバンバン!」
そのでっかいドラグノフはお兄ちゃんのだよね?どこから持ってきたのかな?押し入れに隠していたんだけど?
「お兄ちゃんおしっこ!」
わかった今行くから少し待ってね?もう少しで焼きあがるから!
今はあの鬼どもがいない。世間では、お兄ちゃんは素晴らしい物との認識があるが…少々。お兄ちゃんであることは、少々つらい事だという事をわかっていただきたい。血のつながりがある妹や弟は、義務感が生まれる見捨てられない存在だという事を知ってほしい。しかし…
ここまで考えて何だが、俺は今ホームシックという奴になっているのだろうか?妹と弟の事を考えているという事は…
…確か、両親は一か月はいるといった。だからあいつらが飢える心配はないし、泥棒の心配もない。ただし、一か月で戻れたら…だ。
雑念を振り払え。
今おれは何をしているんだ。洗濯物を洗っているんじゃないか。鍋!忘れるところだった。
最後にワイシャツを絞り、洗った洗濯物を干す。きちんと皺が出来ないように、バンバンと二回ほど水けを取ってからだ。この行為にも慣れが出来た。
洗濯物をすべてやり終え、おかゆがそろそろできたかを確認するするために台所え向かう。するとそこには五樹がいた。
「何をしている泥棒!」
「人の家に勝手に寝泊まりした奴に言われたくないね。あとこのおかゆ味見させてっもらったけど、少し薄くない?」
「…お前も食べるか?」
「もちろん。あけpの料理は久しぶりだね。」
食卓に普通に座るイツキを俺は止めることはできない。
粥を確認すると…まあこんなもんだろう。あとは、斬ったネギとテンツダケを入れ、少しかき混ぜて、そこにあまりの干し肉を上に乗っける。十分。弱火でコトコト。
かまどの下を見てみると、先ほどよりも火が弱くなっている。このままでいいかとも思ったが一本だけ薪を足した。
「それにしても、家主が寝込んでいるのに、君は呑気にご飯を作っていてもいいのかい?…お姫様はキスで起きるそうだよ?」
「頭の中がメルヘンになったか?」
「勝手に食材を使ってもいいの?」
「お前が来なければ、イツキの分だけだったんだよ。」
「ごはんするつもり?」
「お前らのところに押しかけてやるつもりだ。」
「それはいい。二人で全部からにしちゃおう。」
「俺は作るだけだろうがな。」
「僕そんなに大食家ではないよ?」
はぁ
とにかく。洗濯物はしたからあとは掃除ぐらいか?まあ毎日掃除されているのか塵もないがな。この家。
「あけp。お母さんの顔だよ?」
全く
「こちらも居候をさせてもらっている身だ。何かしら手伝わなければダメだろ。」
「同じ居候でも、僕とあけpとじゃ考え方が違うようだね。」
「お前みたいにのんびりとできないんだ。おれは。」
「さすが。お兄ちゃんなだけはあるよ。」
「世の中で求めれられているお兄ちゃんの基準がオーバー何だが?」
「確かに。世の中すべてのお兄ちゃんが料理、洗濯、子守ができるわけじゃあないしね。」
「あれは子守という優しい物じゃない。お前。揚げ物中に袖を引っ張られて催促されたことはあるか?お兄ちゃんご飯って?」
「ご飯を作っているんだよっていうと?」
「待ってなさいといって待っている子供はいない。それにそういうとまた来るぞ?お兄ちゃんご飯って。」
「じゃあどうするのさ。」
「家の場合は…子供部屋に監禁だ。」
「犯罪者だ。」
「揚げ物はさすがに危ないからな。しかもうちのガキどもは、刃物の恐ろしさもやけどの恐ろしさも知らない無垢なガキどもだ。少しばかり危険から遠ざけただけで犯罪になるなら、俺は日本政府に法の改正を進言する。」
「無垢ではなく無知じゃないの?」
「どっちでもいい。めんどくさい。それか…少し遊ばせて夢中にさせるという手もあるな。」
「というかあけpんちってゲームはしないの?それで大体おとなしくなるじゃん。」
「飽きる。最低でも一週間は稼げるがそれでも飽きるんだよ。しかもうちのガキは、運動系だからかけっこやかくれんぼが大好きなんだ。」
「それに来てお兄ちゃん大好きか。愛されるって…罪だね?」
「この前なんか、俺の部屋からp90とガバメントを持ってきて、子供部屋で打ち合いしていたからな。子供は学習する怖い生き物だと初めて知ったよ。あいつらにセーフティーなど効かないんだ。」
「怪我しなかったの?」
「してない。俺は多少被弾したが…な」
「お疲れ。」
「押し入れに隠すと持っていかれる。部屋にカギをかけると、どこからか合鍵を取り出し、部屋に入る。自分の兄弟の生末が心配だよ。」
「親は怒らないの?」
「俺の両親を見てその発言をしたお前には失望するよ。」
「あっ…。デレデレか。」
「そうだ。帰ってきては子供に甘え。夜になったら大人の時間な両親だぞ?無理だろ!」
「たしかに。じゃあ、僕はこれで失礼するよ。」
そう言って席を立つ。
「喰わなくていいのか?」
「朝ごはんはもう食べたし。じゃあ頑張ってね?」
結局何しに来たんだ?
その疑問も晴れないまま。五樹は帰っていった。
「ナガル豚はまだか!」
「おい!こっちに来てねーぞ!」
あちらことらから聞こえる怒号。賑わいの中に少し残るそれを、遠巻きに聞きちびちび水を飲むのもいいもんだ。
電球で鮮やかに化けた町は、カラフルな色で作られた家々をさらに飾るように華やかである。鮮やかで華やかとは世間的には印象が高い事であり、とても良い事ではある。ここからでは見えないが。イツキがそのように言っていたので、たぶんいい景色だ。
昼頃目覚めた彼女は、ご迷惑をかけてすいませんと家事をやろうとした。しかし、足と腕のけががひどく、休んだ方がいいと諭すように言うとそれに従い。今はベッドでくつろいでいる。
昼と夜はおかゆを食べさせた。
五樹からは味が薄いなどという不興の言葉が寄せられていたが、彼女はおいしいですと、喜んで食べてくれた。
「リン…さん。」
彼女が急に話しかけてくる。
なので飲んでいたコップを脇に置き返事を返した。
「どうかしたか?具合でも悪いのか?」
「いいえ…。そうでは…なくて…。お祭り…行かないんですか…?」
「行く理由もない。それに病人を放っても置けない。祭りはイツキが勝手に盛り上げるだろうしな。」
「そう…ですか。」
「それにロクな思い出もない。子守ぐらいだよ思い出なんて。」
「…ありがとう…ございます」
「お礼なんていらないさ」
外は一層騒がしくなる。誰かがバカ騒ぎをしている。
しかし俺たちにとって、これは。この時間は。
この町で一つだけの
たった二人の収穫祭であった。
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