2番

 痛くない?

 私は転んで、食べられようとされたはずだ。なのになんで死んでいない?いや、ここが死後の世界なのかな?…たぶん違う。

 こけた反動で痛めたお尻はまだ痛いし、何か手に感触と重みがある。

 そして誰かが寄りかかって…

 握っている?私は何かを、右手で握っている?

 そっと目を開ける。

 山賊のおなかが私の顔にあった。右手は頭よりも高い位置にある。

 山賊は私に寄りかかるように倒れていた。寄りかかっていたのは山賊だった。それは分かる。けどなぜ襲わない?もう少しで私を食べられるのに、なぜ襲わない?それに動いている気配もない。

 周りには誰もいない。町長も、五樹さんも、凜さんもいない。なのにもかかわらずこの怪物は動いていない。何で。

 顔を上にあげると、何かが突き刺さっている。何か見たことのあるようなナイフ。こんなもの、私は持っていなかったはず…とにかく抜け出そう。

 成人男性ほどの動かなく無くなった体をやっとのことで抜け出し、そのナイフを放そうとした。しかし

 離れない。

 いや違う。手から離れてくれない。ナイフが手についているのか、引っ張ると、ナイフが山賊から離れ、液体が流れ始める。大量に噴出したそれが、私の服を汚していき、私の肌に直接触れる。生暖かい。気持ち悪い。

 噴水のように流れるそれを呆然として、ただ茫然としてみていた。

 私は何をしたのだろう。

 わかってはいる。私のしたことは山賊を刺したこと。それにより動けなくしたこと。特別ではないはずだ。だけどもなぜ山賊を動けなく出来た?…私は…何なんだ?




 バン!!

 落ちてきた火の玉は、周りの木々を円状に燃やし、山賊のいた場所を蒸発させた。 

 燃やしたのではない。蒸発させたのだ。走っていたはずの山賊は灰になり、土も、砂も、溶けて、蒸発して…きれいさっぱり何もなかったように、消された。

 その球体状の火の中心。

 まだ燃えているそこに何かが見える。

 人?

 しかし、服装はここらへんで見たことない。神社で見られるような…そうだ、何か白い袴の様な物を着ている。そんなもの子のでかいでは見た事…


 「シイナ型二番…五樹。」

 

 周りを燃やしていた火が爆発的に燃えていく。森を丸裸にする勢いで…しかし、俺の方には一切来ない。その声は…


 「あけp。大丈夫かい?」


 五樹だった。




 五樹は手に日本刀のようなものを持ち、灰となった山賊と俺の間に立っている。何だ。俺は、なんていえばいい。…とりあえず。

 「何だ?そのダサい格好は。」

 「ダサいって言わないで。これでもかっこいいと思っているんだから。」


 目の前の男は五樹である。

 声も

 顔も

 俺の知っている五樹である。しかし、なんだその格好は?そしてなぜ…

 「お前は…普通なのか?」

 「一般的…とは言わないね。だから普通ではない…のかな?」

 

 そうか。


 「やはり。…そうか。」

 「驚かないのかい?」

 「お前のことでいちいち驚いていたら友人は務められない。慣れだ。それに…多分そうではないかと思っていた。お前は山賊を殺せるかもしれないって。」


 確信ではなかったがな。


 「どうして?一度も見せていないでしょ?」

 「俺が山賊に襲われたときな、目の前に山賊がいた。転がって山をすごいペースで下っていたのに…だ。そしてそいつを殺した後、山賊にはしばらく会わなかった。来た道を戻ったが…。しかし、俺が会った奴と、追いかけていた奴を別と考えると状況的に合う。つまり俺たちを追いかけていたアイツは…俺の方向に来ていない。」

 「なるほど。」

 「お前らの方に行ったという事が推測されるんだ。そして、いくらお前が体力があるかって、あいつらを少女を背負いながら走ることは難しい。しかもどこにあるかわからんゴールを目指してな。それは俺もやったからわかる。どこかで止まるか休むかしなければいけない、しかし、その状況を自分で作れれば…話は変わる。それが…」

 「追いかけられる状況を壊すことだ。」

 「そこまで考えていたんだ。まるで探偵だよ。あけpは。」

 「だいたい俺ができるんだ。お前が出来ないわけないだろ。」

 「それは過信だね…僕に対する。僕は特別ではないさ。」

 「そんなたいそうな袴をきて、ここを火の海にしてなにを言っているんだ。それで…教えろ。何でおれをここに呼んだ。」

 「初めに言っておくけど、偶然だからね?ここに来たのも何もかも。」

 「力…は隠していたのか?」

 「いや、実質的に使えないだけだった。それはあけpも同じ。分からないだろうけど、僕だけじゃなくて、あけpも相当な特別なんだからね?」

 「特別ね…ところで、俺は今、体に力が入らないので手伝って欲しいんだが?」


 そう言って、右手を差し出す。

 

 「サプライズだったのに、なんで驚いてくれないのかな?僕の友人は。」

  

 差し出した右手は、イツキの右手に握られて…イツキが俺を立たせてくれる。


 「さて、イツキちゃんの方に行くか。まあ心配はなさそうだけどね。」

 「ああ…そうだな…」


 火の海は収まりそうにない。



 



 「待ってて…ください…イツキ…さん!」

 この力があれば。

 五樹さんの邪魔にならずに、助けれるかもしれない。

 右手にじっと吸い付いているナイフをぎゅっと握り、腕と足で五樹さんのもとに向かう。距離的にはもう少し先…だった。

 轟音

 空の一部が一気に明るくなる。

 その轟音は、前から聞こえた。森に煙が立ち込めて…明るい火に包まれている。

 あれは、五樹さん?

 魔法で燃やしたとしてもここまで燃えるはずはない。

 とにかく行かねば。

 足を頑張って動かそうと…


 ガシッ


 掴まれた。


 その勢いを殺しきれずに、正面から地面にダイブしてしまう。とっさに構えた両手でどうにか地面にぶつかることは避けたが、それでも両手を擦りむいてしまう。足が引っ張られたように痛い。

 つるされる状態になる前に、どうにかしなければ。

 ナイフを盗賊の腕に刺そうと、足を曲げようとした。しかし…

 曲がらない?何で?

 足に何度も何度も命令する。

 曲がれ曲がれ曲がれ!

 しかし足は曲がるどころかピクリとも動かない。何で!何で動いてくれないの!?

 どう頑張っても足は動いてくれない。ピクリともだ。

 その間にも、山賊は私を引き上げ私を食べようとする。よだれをたらしそれが地面を濡らしている。

 足が痛い。

 でも足は動いてくれない。何で?





 ああ…

 ここで…


 ”ダン”







 「あの火をどうにかしてもらいたいもんだ。消せないのか?」

 「消せないよ。いいじゃん助かったんだから。結果論だよ。結果論。」

 走る事は何とかできる。そのたびに体は痛みを増すが…

 袴姿のイツキは、その格好であっても走りやすそうだ。本当に…いつもとは違うな。

 「俺たちがいない間何をしていたんだ?別件としか聞いていないが?」

 「何、お茶を飲んだりゆっくりしていた…わけじゃないから大丈夫だよ。ちょっと白の国に行ってきただけ。」

 「…目立つ格好でか?」

 「ちゃんとカツラをかぶって変装していったよ。それに鍵は使っていない。」

 「鍵って…まさかその日本刀か?」

 「そうそうこれこれ。あけpが持っているその銃もカギだよ?知らなかったでしょ?」

 「何も聞かされていなかったからな。お前に。」

 「これはあそこでは使えないし。あけpは目に見たものは信じるけど、見るまで信じないたちでしょ?」

 


 走っているのに話は弾む。

 そろそろイツキに会ってもいいが…

 ん?

 いた!

 しかも山賊に捕まっている。足を持たれ宙づりの状態に…落ち着け。五樹を撃たないで、山賊だけを狙う…それだけを集中させろ。


 ダン!


 それは山賊の左バラに当たり、そして…

 滑り込むように五樹がイツキを保護。ズザーとよく滑る。ナイス保護?何とか木に足を置くようにして止まり、ピースサイン。イツキの意識はなさそうだが。


 「だいじょうぶか?」

 「町長が助けるはずなんだけどな?何してんだろ?」

 「タッキーさぼり癖か?」

 「僕の予定とは違うね。ほんといい加減にしてほしいよ。」


 今行くねとそれだけ言い。こちらに上ってくる。お姫様抱っこという奴か?全国の女子の憧れという奴も、持っている奴の格好でダメになるものなんだな。正直、変な奴にしか見えない。

 

 「ただの誘拐犯のようにしか見えない。それもかなり変人の。」

 「外見で判断してはいけないっていう言葉を言ってほしかったな。僕は。」

 「お前が持ってくれるのか?」

 「まさか。僕は護衛ではないから。護衛の任務は、あけpがしなきゃダメでしょ?」

 イツキを降ろす。

 しょうがないから俺が背負うとすると…

 「大丈夫…でした…か?」

 「気づいた?」

 「気づいたようだね。イツキちゃん。」

 「山賊…は…」

 「あいつらなら五樹が処理した。」

 「処理っていう言い方はないよ。僕が悪い人っていうか暗殺者みたいじゃないか!」

 「だいたい似たようなもんだろ?」

 「あの…凜…さん…」


 弱弱しい声でイツキが、俺に声をかけてきた。


 「どうした?どこか痛いのか?」

 「怪我…は…」

 「お前の腕と足よりは大丈夫だ。」


 足は膨れ上がり青あざのようになっている。

 腕は擦り傷で血まみれ。

 とにかく町まで運ばなくてはいけない。腕を肩にかけると、ぬちゃっという音。血が頬を濡らし、痛みでイツキがうなる。

 鉄の生臭さが近い。

 早く…町へ行こう。







 体中が痛い。

 しかし、なぜだか安心感がある。私は今眠っているはずで夢の中まで痛みは来ないはずだ。でもそんなことはどうでもいい。

 私は…少し…疲れた。





 歩くごとに地面がへこむ

 それでも足はとられない。一歩一歩確実に町に近づく。そのたびに五樹の唸り声、そして赤い血が肌にかかる。揺らさないように心象にしているが、それでも痛いのだろう。


 「もう少しだから頑張ってね。あけp。」

 「分かっている。そんな事より足を動かせ!」

 

 河原が見える。

 森を出たんだ。もう安心…ではない。

 河原には俺たちの前に先客がいたようだ。

 山賊

 しかもぞの数100以上。気づかれた!!

 

 「イツキどうにかしろ!」


 滝の洞窟に向かいながらも慌てて叫ぶ。

 俺は今、イツキを運んでいてそれどころではない。このまま、あの軍勢と戦う事はできないというより難しい。


 「あとで購買のメロンパンね?」

 「チキンカツもつけてやる!」

 

 これくらいサービスだ。命が助かるのならば財布の事は考えなくていい。それに、夏のバイト代を引けばどうにかなる。チキンカツぐらい。痛くない。


 「行くよ!あ、巻き込んだらごめんね?」

 「思いっきり!…やれ!!」

 「了解!」


 突如後ろを向いた五樹は、刀を山賊たちに向けた後、一言。


 「消えちゃえ!」


 瞬間。


 ズドン!!


 隕石か何かが落ちてきたような音がし地面を揺らす。

 俺は後ろを向けなかったからわからんが、突如熱風を感じた。それは俺の足を速め、浮かせ、滝の洞窟に無理やりに入れる。

 それだけではない。

 何回か転がった。

 バランスを崩し、転んでしまった俺は洞窟の中で何度か回った。それはイツキも同じようで、爆風に更紗得た俺たちは、横に回りながら、梯子のところまで飛ばされた。梯子に当たる瞬間。イツキをどうにかして抱きしめ、自分が梯子に当たる。胸を圧迫させられた。


 「かはっ!!」

 

 痛い。

 しかし五樹は…

 腕の傷がさらにひどいことになって、出血量も上がっている。しかし生きている。大丈夫ではないが、ひとまずここまで来たんだ。


 「兄ちゃん!だいじょうぶか!」


 上から、村の人の声が聞こえる。


 「おっ。俺は大丈夫です!イツキの状態がやばいので手伝ってください!」

 「分かった!ニーア呼べ!誰か手伝ってくれる奴はいるか!あと荷物用のあれ持ってこい!」

 「了解!」

 「それにしてもアレは何だ?火の柱がたってやがる。」

 

 どうにか医者に見せることができ、ある程度の応急処置をした後、人動クレーンでイツキを引き上げた。


 「ちょっと五樹が気になるので…後宜しくお願いしてもいいですか?」

 「友達の方かい?わかった。行ってきな!」

 「ありがとうございます!」


急いで階段を下りイツキのもとに向かった。



 洞窟の爆風はやんだが入口が明るい。

 水のカーテンがあり、薄暗くなるはずの入り口が…だ。

 進む事に明るさは一本の線を引いていることが分かる。洞窟を出た瞬間。それは見えた。

 それは…一本の火柱だった。

 しかも、それが絶えず燃えているのだ。ゴウゴウと周りの木々を吸い込むようにして吸収し、そしてこいつは…成長している。


 「どう?すごいもんでしょ。」

 「いつの間にいたんだ。あとあれどうにかしろ。先ほどの森を焼いた事よりもひどいことになるぞ。なんか成長しているし。」

 「僕は好きなんだけどな?」

 「お前の好き嫌いでやるな!」

 「しょうがないな。これ、チキンカツの分にしてあげるよ。」

 

 手を横に振り、日本刀を消す。

 すると、いつもの制服に戻った。どんな仕掛けだよ。

 目の前の火柱はまだ燃えている。しかし数秒後、突然と消えた。


 「ほんとお前はすごい奴だ。」

 「君ほどではないさ。」

 「またそれかよ。」

 

 俺たちは、何とか村につけたんだ。

 





 



 


 


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