二人道での追いかけっこ
早朝七時
くそ重い五樹のカバンは五樹に返してあるので荷物は軽い。自分の荷物がこんなにも軽かったのを今さらになって思い出せた。
肌に突き刺さるような冷気。
雲は、青空のもと存在感を少なくし、雨でぬかるんだ地面は足場をわるくし、体力を余計に奪う。木々の存在が寒さをより引き立てて、体感温度以上の寒さを感じさせる。
森の動物たちはやはり人間には興味がないようだ。こちらが何をしようと全く攻撃も抵抗もせず、あるものはキョトンとし、あるものは足場のない地面をテクテク歩く。
生態系ははっきりしているのか、食われる者食う者がはっきりしている。食うものは抵抗なく食われ、食うものは当たり前のように食している。植物に関してもそうだ。ラフレシアのようなとても大きな植物に、スズメサイズの蟻が無抵抗に食われたと思ったら、その花を一メートル級の歩くお花が採取していく。生態系は無抵抗に代わり、最終的には人間に帰るようだ。
いや、違う。
人間ではない。その人間を食うものがいる。それが山賊。奪うわけでもないのになぜ山賊なんだ?とは思うが。
ほんとにここは違う世界なんだな。
先ほどの屋敷内での話し合い。その結果、俺はある場所に、あるものを取りに行くことになった。二人で…
五樹とは結局会えた。
そしてそのパートナーは五樹と思うだろうがそうは問屋が卸さない。とある理由で五樹とは別行動になり。代わりに別な者と行くことになった。それは…
「足元…気を…つけて…ください。」
「分かってる。」
とある場所というのが黒の国。取りに行くあるものはここでは言えないが、なぜこの子と行くことになったは話せる。
曰く、護衛だ。
その物の場所が分かるというのがイツキだけで、その道中の護衛をしろというのが、俺の任務である。
静かすぎる山というか森を下りていくのは二人っきりであり、それ以外は誰もがいない。
身を守るものは何もない。と思うだろうが五樹に渡されたカッターがある。これでどうしろと…
草木をかき分けて、道がない道を開発しながら黒の国を目指す。道中、山賊に会わないようにせよというお達しが出ているが会ったらどうしようか。聞くところによると、魔法も武器も効かないというじゃないか!じゃあ俺が殺した奴も死んでいないんだな。どうなんだろうか…
思案に耽るのはやめよう。
思案に浸りすぎておいしくはいただかれたくはないからな。目の前のイツキは、警戒を厳にしながら歩いている。それこそ弱い小動物のように…まあそれが普通なんだけどな。この森が異常なだけだ。誰もが自分が大切なのが普通なのにここは違う。ここを支えているのは生態系だ。食べる。食べられるがはっきりとし、それ以外は許されない世界。やさしい世界ではない。しかし、以上のようだ当たり前なのかもな…
…思案に耽るのはやめたんじゃあないのか?
おれはどうも考えが過ぎる性格をするらしいと、いつも言われるがそうかもな。一人の世界に入っているだけだよと、五樹に注意されるぐらいだし…
「あの…」
「何だ?」
耽るのはこれくらいにしよう。
「そこ…注意…して…ください。…テンツダケ…が…います。」
「テンツダケ?」
見ると足元にキノコのようなものが一つ。
何かのキノコだろうか?もしそうだとしたら気をつけるとは?
「踏ん…じゃう…と…足が…食べ…られる…ので…」
「…気を付けるよ。」
足がどうなくなるのか気にはなるが、好奇心の割に代償がでかい。というか人間は興味がないんじゃないか?
「ツクジカ…と…間違え…て、食べ…ちゃい…ます…から。」
「そうか。」
なるほど間違うのね。
「そういう奴ほかにないのか?あったら教えてほしいんだが?」
そう情報は早めに知った方がいい。あとで足がなくなったりしたら嫌だからな。そういうのを知っておいても損はないだろ。
「そう…ですね。…ここら…辺では…いません…が。月…熊…で…しょう…か。」
「どんな奴?」
「近づくと…死ん…じゃうん…です。」
毒ガスでも出してるのか?
そんなことを考えていると森を出た。
滝の音がする。そこは、団体様一行でいらっしゃった滝に間違いがなかった。少し濁った川の水は、勢いを増し流れていく。
今日は団体様はいらっしゃらない。それが一番いいのだが…
「それで、この道を添えばいいのね。」
「はい…それが…近道…です。」
川石は、というかこの大きさなら岩か?ねちょねちょして歩きにくかった森とは違う歩きにくさを感じさせられる。先ほどの歩きにくさは、地面に吸い込まれる歩きにくさだという所だが、この歩きにくさは全く逆。硬化された歩きにくさといったような感じで、また、ぬかるんだところで得た泥のおかげでよく滑る。俺は滑らなかったが、イツキは所々に突っかかり、滑り、よく転んでいる。そのたびに、大丈夫ですと一人で立とうとするので手を貸すと、ありがとうとお礼を言うのだ。
本当にいい子だな。
川をだいぶ南下すると、石の形状もだいぶ変わり丸っこい石。小さい石に代わっていった。それにともなり、周辺の林の様子もだいぶ変わっていく。最初は木々がふさふさという感じだが、だんだん、緑が少なくっていった。
「…!」
五樹が声を出しそうだったので、失礼ながらその口をふさがせてもらう。声の理由は完結的に話すと…いた。
人間の手が見える。
胴体は、今お食事中なのかここ等辺からは見えないが、夢中でムシャムシャしている。いや、もう食べ終わったのだろう。川にぽいと投げた。頭のない屈強な死体を遠目から見るに腹だけを食べるらしい。すべて食べるわけではないようだ。
「気づいていない。大丈夫。」
そう小声で言うと彼女は少し落ち着いたようで、呼吸音を浅くしてくれた。しかし、彼女には悪いが気づいていないという確信はない。やさしいウソ…になるか分からないが、やさしいウソとしたい。
さてこれからどうするか。
思案をしようとしたところで、こちらに山賊が振り向いた。
そして…
「逃げるぞ!」
川石が蹴られる。
呆然と立ち尽くす彼女の腕を下り駆け出した。
川を上るという選択もあったが、俺はその時、森に入るという選択をした。障害物が多少はあり、追いつかれにくいだろうという考えもあったが、何より、黒の国に早く近づくためだというのが大きい。
「はっ。はっ!」
やはりイツキの足ではきついか?
しかし、俺も文化部で体力があるわけではない。さすがに中学生には負けないが、それでも高校では遅い方だ。
ぐんぐん追っかけてくる。
あいつ早い。今まで感じなかった思いが出る。早く走らないと追いつかれる。追いつかれないためにはどうするべきか。
グシャッと何かを踏んだ音がする。何を踏んだのか分からないし、確認する余裕はない。俺はどうする。どうするべきか。
…イツキを見捨てる?これは選択肢にないから安心してほしい。
戦う?
いや、強さは分からないが、屈強な死体があったという事はそのような奴でも負けたという事だ。つまり俺が勝つことは…拳銃?
いや。期待するな。
それで期待し二人とも食われたらどうする?お前は二人で心中しろと言っているんだぞ?
何か…ん?
テンツダケ
それを使えば!
どのように食われるのか確認できるし助かるかもしれない!
幸いにして、テンツダケは先ほどからあちこちで見られる。誰かが通ったような形跡がある道の中に生えているのもある。奴が踏むのを待つ。そのためには…
イツキを急に引っ張り無理やり背中に預けた。…つまり
おんぶ状態。
これは彼女を責めているわけではないが、先ほどから彼女を引っ張って障害物をよけている。これではおれの負担も彼女の負担がすごいことになる。つまり…効率化されていない行為だ。
負担は大きいが、先ほど程度ではない。そして、俺の腰と足はまだ許容範囲を超えていない。五樹のあの荷物で俺はこんなにも鍛えられた。どんだけ重かったんだあの荷物。一日で少女も楽々とかそんな感じで売り出せれるな。
草木に覆われた所では見たことがない。地肌が見えているところでは見たことはあるが、それ以外では見たことない。さいわいにして、今走っているところは地面。砂の上。土の上
所々に生えている。
息が上がる。
「大丈夫…ですか?」
息の関係で返事が出来ない。仕方なく背中をポンポンする。
その時、
地面からズドンという轟音。
落ちる音ではない。空から何か落ちたのではなく、落とし穴に落ちたわけでもない。地面から上に上がったのだ。あまりの爆風でほかのキノコも揺れ…そして…
ズドン!
ズドン!
ズドン!
森が茶色一色に染まった。
爆風により吹き飛ばされ、二人とも飛ばされそうになったが、何とかイツキを腕の中に収め、木に背中からぶつかった。そして、一瞬その横をなにかが通った。そしてそのあとに暖かい何かがかかる。液体?
一瞬の衝撃に体が痛みを覚え、そして全身が痙攣する。しかし見えた。
そこから湧き出た動物は…ワニ?
ワニが、空中で盗賊の足を食いちぎりそして飲み込んだのだ。つまり横を通ったのは…上半身?
ワニの口の先っぽにはキノコが申し訳なさそうにつけられている。どのように獲物を捕るのかが見えた、それに上半身だけなら動けないだろ。というか死んだだろう。 痛む体とは別に思考はこのようなことを考えていられるのがすごい。イツキは大丈夫かと思ったが、怖い体験をしたからか震えているだけで、外傷はなさそうだ。俺はすごい痛いが…。
木にいつまでもへばり付いてるわけもなく、そのまま地面に落とされる。それ自体ならば、しりもちぐらいで済んだだろう。
「っ…!」
声にない痛み。
体中の痛みが慣れていないのに、落とされると効果は倍増するらしい。とにかく痛い。しかし歩けることは歩ける。
ふらふらになりながら立つと、あたり一面のワニはまた巣穴に戻ろうと後ろ足で砂をカキカキしている。それだけ見ればかわいさも多少はあるだろうが、あれを見た後での評価は変わらんだろうな。パクッしてポイだ。怖い怖い。というかこいつの主食はツクジカなんだろ?それも見てみたいな。
「イツキ。黒の国はどっち?」
「この…道…を…まっすぐ…です…。」
いつの間にか黒の国の道に入っていたようだ。
「遠い…方…の道…ですが…。」
「それでいい。」
ワニの横を通るというという行為に、スリリングさをかけるとこのような気持ちになるのか?
こいつらのせいで体が痛いんだが、それでも助らえたからな。感謝の気持ちは忘れない…と。
ずりっ
…何か聞こえたのだが?何か…這いずるような…
後ろをふと見ると…這いずりながら…あいつが…
追いかけっこは…終わっていない…
しつこい! しつこい! しつこい!
ストーカーの類なのか!?俺のもとに帰ってきてくれなのか!?ふざけんなあんたとは別れたんだよ!
先ほどとは違い一本道で走りやすくアイツにも入りやすいのだろう。どんどん勢いを付ける。しかし、おれは先ほどの奴で引っ張ることしかできない。腰が痛い。無理かも。
その時。
横から乱入者。
誰かが、どの動物か分からないが助けに来てくれたのではなかった。
「アウッ」
会う?じゃねえよ!おまえら早くどっかいけ!ストーカー共!
そいつはまた山賊だったのだが、テケテケではない完全体。先ほどのテケテケよりは早い。どんどん追いついて来る。その時。
「あっ…!」
その声は、
俺の声でも
テケテケの声でも
完全体の声でもなかった。
その声は…
「イツキ!」
イツキが転んだ。
そこは平地で何もない所で転ぶ要素はどこにもなかった。いや、地面はぬかるんでいた。俺が引っ張っていたからかもしれない、しかし転んだ。転んでしまった。これは結果であった。
ズサッという音に反応したのか。それとも足が遅いイツキを最初に食べようという腹なのか、そいつらの目は、行動はイツキに向かう。
とっさに足の方向を無理に変える。ヌチャリとした地面が滑り、思ったほど足を止められなかった。滑る滑る。
何とか勢いを殺し、イツキのもとに向かった。
ぬかるんだ地面が終わり、今度は部分的に乾いた地面が顔を出す。その部分的に乾いた一つに、イツキは転んで。テケテケが乗っている。彼女は覚悟を決めているのか顔を守ろうと両手で被せるようにしている。間に合わない。
完全体はただ見ていただけ。テケテケだけが、彼女の両手を力ずくでどけ、彼女の顔を…
する前に何かが突き刺さる。顔に、それは…俺が護身用にもらったもの。カッター。
間に合えと投げ込んだカッターはあろうことか、テケテケに当たり、そしてその頭に突き刺さった。…すごいな俺。
それだけでは終わらず、その顔面に蹴りを入れようとした。したんだ。
止められた。
格完全体に。
完全体は俺をブランブランさせ。
テケテケは、刺さったのにも関わらず。頭にカッターがっ去ったのにもかかわらず。イツキを食べようとする。
どうする。
おれは…。
手に感触。それが感覚器官とその神経に伝わる。
…どちらを先に殺す。
両手でそれを持ち、まずはイツキのテケテケに狙いを絞り…撃った。
倒れるあいつ。
おれを持っているそいつは関心を示さない。
「すぐに関心を示させてやるよ。」
そいつの顔面に。俺は…撃った。
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