黒の国
「すいません!これ通行証なのですが!」
物々しい大きさの囲いとふさわしい門。そこには国の門番といわれるにふさわしい屈強な男たちが守っていた。その屈強な男たちが相手をしているのは年端もいかぬ若い女の子。とてもいい笑顔で門番の方々に挨拶をしている。
「久しぶりだねお嬢ちゃん!」
「お嬢ちゃん、また一人で来たのかい?大変だったでしょう!」
「違います!今日はこの人と一緒に来たんです!」
引っ張り出されたのでしょうがない。自己紹介が先か?
「えっと。初めまして。」
「こんな瘦せっぽっちのお兄ちゃんで大丈夫だったのかい?山賊によく食われなかったね!」
「もっと肉食った方がいいぞ!?坊主!」
「このお兄ちゃんはすごいんですよ!テンツだけで山賊を退治したんです!」
「そいつはすごい!知的な奴というわけだな!」
「兄ちゃんやるじゃないか!」
門番に気に入られたの…でいいだろうか。
「それじゃあ通行証を渡してくれるかい?」
「はい!どうぞ!」
とてもいい笑顔でそれを渡す。
それを受け取ると、門番はそれを…やぶいた!
何してんだとか怒りたくなったが、彼女はにこやかな笑顔を崩していない。すると…
ズン!!
という物々しい音を立てて扉が開いた!
「ようこそ!黒の国へ!」
「少し疲れました。」
「やり続ける必要なかったように見受けられるが?ここではそういうキャラでとおしているのか。」
「いつものだとばれますから。」
「そんなもんか?」
「そんなものですよ。」
町の中はいたって普通。
魔法で作られた道具などが、ビュンビュン飛び交っていると思えばそうではなく、木材で作られた家がヒシヒシと身を狭めていた。大通りなのか、人は混雑していて、見る人すべてが黒髪である。活気はあったが、灰色の村程度ではない、たまに見える路地裏は無法地帯なのか、ゴミと汚れがひどい人が、身をちじこませている。
さすがに現代のような車のようなものはない。全員歩いている。道路は整理されているのか、地面に凸凹の類はない。箒で空を飛ぶというのは妄想でしかないのか。
「大体の人はこの城下町で暮らしています。」
「お金持ちは奥で暮らしているんだな?」
「はい。そうです。あと…」
「分かっているよ。ここでは名前では呼ばない。」
「ありがとうございます。」
「きれいな街だな。一泊止まっていいのか?」
「はい、お金ありますから…」
リュックから。村長にもらった紙幣を出し、満足げにほほえむ。
ちなみに、先ほどの追いかけっこで汚れた制服は脱ぎ、村の服屋でシャーペンの代わりに得た服を着ている。イツキも先ほどの服装ではなく、別な民族衣装のようなものを着ていた。これがこの国に入る条件らしい。
灰色の町の商人かどうかの判断材料だそうだ。
ちなみに、一人だけ着ていればいいらしく、それ以外の俺はどんな服装でもいいらしい。そしてもう一つ判断材料があるのだが…
「黒髪でよかったな。」
「よかったですね…。」
髪だ。
たとえ灰色の町の承認でも黒髪でなくては入ることも許されない。もちろん。商いもだ。
「とりあえず。ミガさんの所に行きましょう。」
「そうだな。そうするか。」
大道りを少し歩き、申し訳なさそうな交差点を左に曲がる。悪臭がし、鼻が死にそうで息ができないぐらいだがそれでも前に進む。オイル?本当にここでいいのかというと、ここで大丈夫ですといい返される。鼻をつまみながら。かわいい。
路地裏はだんだん奥行きを狭め、散乱しているごみも、どんどん狭くなる。裏路地は一本道ではなく所々に交差点がありそのはじには浮浪者がいる。大丈夫なのかと聞きたいが、イツキは、一瞥もせずにテクテクと進む。
すると、ある扉の前で止まった。
大きなひらがなで(みが)
のれんにそう書いている。
何屋さんかも、店の中も分からない。ただただ、みがと書いている。俺が聞いているのはある紙をここでもらってきてほしいと言われているだけだ。
「ここです。」
振り向きこういった。
「早く終わらせようか。」
「はい。」
勢いよく店の扉を開けてイツキが入る。
「お邪魔します!」
「いらっしゃい。カリア。」
偽名はカリアというらしい。俺は今知った。
「今年も宜しくお願いします!ミガさん!」
「はい。よろしくね。それにしてもあんただけだよ。ちゃんと挨拶してくれるのはね。」
「恐縮です!」
「ところでそちらの男性は誰だい?付き添いかい?」
「はい!村の人に暇な男性を借りさせてもらいました!」
「もう村になれたのかい?」
「おかげさまで!」
「そいつはよかった。ちょっと待ってな?」
そう言って店の奥に消えていく。品物を出すためだろうか。
「ミガさんは、とても優しい人なんです。」
「そうなのか?」
「ええ。とても。」
「ただ…」
「ただ?」
「少し過保護なんです。」
ちょいちょいと店の奥から腕が見える。
「そこの人。ちょっと手伝ってくれないか?」
俺のことか?
「はい。わかりました。」
何の用だろうか。
俺はその時、不信感などなかった。ただただ、足を進めただけなのだ。
店奥に入ると、突如壁に叩きつけられる。
先ほどの衝撃を思い出す。それほどではないが、それでも痛いには変わらない。全身にみしっという音がこだまする。
「かはっ!!」
「あんたらはあの子を不幸せにするのかい?ええ!?」
なにを言っているのか分からない。
そして首を持たれているので、息が出来ず反論もできない。しかも静かにそんなのことをされているので。イツキに助けも呼べない。
「あんたらは!あの子を!…もういい!」
解放されるのも突然だ。
「痛っ…!」
「今度あの子を連れてきたら…殺すよ!」
物騒なことを言われ免罪だと釈明もできない。言葉から町の人と何かあったんだろうが、残念ながら俺は町の人ではない。一般的な高校生だ。すまん。怒るのなら俺以外にしてください。
そんな願いはかなわないのが現実。ミガさんは、恨めしそうにおれを見下している。
「ほら、さっさとこれを持って出な!」
小包を放り出し、さっさと五樹の方に向かっていった。
「ごめんね。ちょっとお話していて。」
「大丈夫です!お代は置いておきますね!?」
「はいよ。荷物はお兄さんに持たせたから。」
早く行きなという目線。わかりましたよ。
あざを隠すように手を添えて店奥を出る。
イツキは…わかっていたのか。安心した表情を浮かべ、お金の入った袋を置いて、俺の方に駆け寄る。
それを見たミガさんも店奥に出た。
その横は、安心したような顔であった…なぜか。それを考える余裕は、その時の俺の頭にはなかった。
「申し訳ありません。ミガさんが迷惑をかけて。」
「急に来られて少しビビった。」
「ほんとは優しい人なんですが。私が迷惑をかけたせいで…」
迷惑…ね。
「灰色の町に行くのを手伝ってくださったんです。その時から少し…過保護になってしまって…私が村のお手伝いでここに来るときも、村の人の悪口を言うようになって…なんというか…感謝はしているんですが。」
「愛が重いのか?ヤンデレかよ。」
「やんでれ?」
「こっちの世界の言葉だ。愛が重い人の事なんだけどな。だいたいは他人に迷惑をこうむる存在だ。」
「悪い人ではありません。」
「だろうな。あの人は悪い人ではない。ただ、俺の性には会わない。ただそれだけだ。」
小包をバックに入れ、チャックを占める。多少なりとも重くなったそれを肩に担いで、行くかとイツキに振り返った。
路地裏は汚いところだけかとも思っていたが、それだけではなかった。
先ほどの大道りではなく、別な通りを目指し細い路地裏を先ほどから通っているが、ここは異臭を感じない。清潔感はあった。しかも人が住んでいる跡があるのにだ。
通りでここまで違うという事を始めて知れた。
路地から出て見えた大道りは前面石畳の清楚感あふれる大道りであった。先ほどの砂肌が丸見えな明治時代とは違い、こちらは、ローマとかパリとかに近い。外国している。
坂道を下ると。脇に小さな川が流れているのに気付いた。
源流は、俺たちがいた灰色の国だろうか…川の底を見てみると、魚が泳いでいる。だいたいさんまぐらいの大きさで、鯉よりは小さいぐらいのそのおさかなは、川のコケをムシャムシャと食べていた。
「この川のおかげなんです。私たちが…。灰色の村の人たちが生きていられるのは…」
「…源流を抑えているからか?」
「はい。だから攻められないんです。黒の国も、白の国も。」
「対等以上の関係という事ね。」
「それに…山賊がいますから。攻められないんですよ。物理的にも、倫理的にも…」
「この国は、白の国と仲が悪いそうだが?なぜなんだ?」
「髪の色の人種問題が大きいです。けど、一番は資源なんです。」
「資源?」
「白の国はたくさん鉱山があるのですがここは全くない。反対に、ここでは作物がいっぱいとれるのですが、白の国ではあまりそういう産業が得意ではない。土壌の関係でですが。」
「その橋渡し役が…灰色の町?」
「そうです。灰色の町は、その二つの国の橋渡し役のようなものです。野菜を黒の国で作り、それを灰色の町まで運ぶ。それを対価。つまり、鉄くずなどに交換してもらい、また国に持っていく。」
「運ぶ量が限られるだろ?それに山賊に襲われて終わりだ。」
「はい。そこで、二つの国が発展させたのが、魔法と工業生産です。もともと黒の国、白の国は魔法と工業生産技術が使えたようなのですが、白の国は工業製品を作ることに特化する教育を行い魔法を捨てた。黒の国は逆に魔法に特化することを選び工業生産を捨てた。」
「大多数か?それとも国民全員?」
「一部の人は陰ながら物作りしていますよ。だから工場とかも裏路地に少し残っているんです。あの匂いはそういう事です。そして特化させたことにより、魔法で工業生産の代わりができるようになりました。白の国は、食料問題を解決することができた。量産体制のおかげでです。なので、最近は昔ほど商人が行き来はしていないです。」
「じゃあ町にあった作物は?」
「自分達で育てているんです。さすがに山の上なので、寒い所に強い野菜じゃないと作れないのですが。あっ、ここです。」
宿屋 ツツカゼ
そこが、俺達が泊まる宿屋であった。
「まさか同じ部屋だとは思わなかった。」
「いや…ですか?」
この宿屋は安全なのか、話し方をいつものようにしてくれる。聞き取りづらくはあるがこっちの方が俺には合っている。
「いやではないが、妹を思い出す。」
「妹…さん…。いらっしゃったん…ですか…」
「双子。あと弟がいる。」
「手が…かかりそう…ですね…」
「兄弟。いないのか?」
「妹が…います。…けど…もう…姉妹…では…ありません…。」
店に入った時の反応は、比較的簡単である。
最初に喜び。
次に懸念
奥に連れていかれてまた殴られそうになり
今回はイツキが止めてくれた。
さすがにオバちゃんとムチムチのジェントルマンでは違うだろう。おもに威力が。制服みたいなものの下に見えた立派な筋肉が、俺を殺さず良かったよ。
誤解は解け、俺が村の人ではないとわかるとジェントルマンは謝ってくれた。そして部屋を手配してくれたのだが…
相部屋だとは予想していない。一つ屋根の下で寝たことはあったが、それは仕方がない事である。そして、よくあれだけしたのに相部屋にしたな。間違い犯してみろという事か?そういう事か?
「リン…さん…。夕食…いきませんか…?」
昼食は軽くサンドイッチ?のような中身はなんだか紫の濃厚なソースがかかったものを食べた。なぜだかエビの風味が強くて、そのあと牛肉が主張をする不思議なそのサンドイッチは、それほどおい!しい!というほどでもなく。まずいわ!これ!でもなかった。まったくの以外。普通。食えるなぐらい。
そして…肝心の夕食だが…
今目の前の物は、俺がもう少し大人にならなければ目に入れられない。もしくは、体験できない事であった。
そこは、グラスを合わせ大人たちがワッハッハしているところで、未成年の俺は、確実に来るべきではないところである。いろいろなグラスがカウンターに並びその横に飾っているのは高貴な大人の飲み物。つまり…酒場である。
今目の前の料理は、確かにおいしそうな物である。しかし、そこにある飲み物はアルコールが入っているお酒という悪魔的な飲みものだ。それをちびちびではなく、グッグッと一気に飲み干されるのを俺は黙って、イツキを止めることもできないままその行為が終わるのを見るしかなかった。
「おい坊主。お嬢ちゃんがいい飲みっぷりをしているのにおめえは飲めねえのか!?」
「そうだぞ!?おめえも飲め飲め!」
「ちょっ。やめてください。」
そう言ってジョッキを顔につけられるから酔っ払いは嫌だ。どんどん口の中に流し込まれる。イツキは、黙ってぐびぐびしていてよっているのか分からない。
うおっ!今度はダブル!?
というかビール的な奴と別な飲み物を混ぜるな一つにしろ。
くそっ。俺は…。
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