生贄の国守り
酔っ払いに絡まれ飲まされ、それでも泥酔を避けて勘定を払い、いつまでもいい飲みっぷりを続けているイツキを強制帰宅させ、ベッドに眠らせた後。
宿屋のベッドの上で横になりながら、天井につるされたランタンがゆれるのを見ている。ここでは電気が通っていないようで、その光は炎の揺らめきを見せている。ランタンの中の火は…浮かんでいる。
これも魔法か。
腕を横に振り、手を開いて閉じる。
それだけで右手に感触が生まれ、それは現れてくれた。本物は重いと言われているが、質量はあっても重さはそんなに感じない。がっしりとした安心感はある。マガジンキャッチはなさそうなので、試しにリロードができるのか、マガジンらしきものを引っ張ってみるが、ガシガシいうだけで、本体から離れようとしない。セーフティとかあるのか探しているがそのような物もない。そのくせ、スライドが引けない。本当にこいつは何なんだ?
まあ今更だな。
こいつの出し方が分かったのはつい先ほどなのだが、その出し方というのが、腕を横に振り、手を開いて閉じるだった。左腕でも同じようなことをしてみたがそのようなことは起こらない。
戻すときは、腕を振るだけで済む。しかし、戻した後、なぜだか疲労感が生まれるのだ。
どれくらい戻したり出現したりできるかやってみると、3回。それが限界だった。あとはフラフラでそのような作業をしても何も起こらない。疲れた。
汗が全身から吹き出し体がすぐに冷える。薪ストーブが焚いているがそれでも寒い。今おれは酔っているのに。
俺は寒がりではないが、この部屋の今の気温はあまり好きではない。人には適切な温度というものがあるだろうが、俺の適切な温度にこの部屋はなっていない。汗が冷え寒い。
スマホはほとんど電池が切れている。
やることは何もない。
しかし疲れているのにもかかわらず、不思議と高揚感はある。酒の影響だろうか知らないが。
瞼が重くなり…そして…
「我々の勇姿を!」
その野太い声の後に起こる、歓声。野太い声。指笛
歓声に指笛が朝の目覚ましではない。そのような目覚ましは頼んだ覚えはないし、好きなはずはない。まだ無機質なジリリリといった迷惑にならない程度の目覚ましで十分である。
「盗賊共は、我々英雄の前で生ごみになってくれるだろう!」
目を開けると、イツキのベットは空であった。
「我々は、勇敢に盗賊という脅威を減らし、国王陛下のため。市民のために戦い、またここに戻ってくるだろう!」
荷物はちゃんとまとめてあり、まだこの宿屋を出てはいない。そして靴がバスルームにある。風呂だろう。
それにしても、この怒号は何なんだ。先ほどから英雄がなんだかんだと。そんなに英雄になりたいなら早く盗賊殺して生首を見せろ。すぐになれっから。
だめだ。
朝という事もあったが、なぜか機嫌が悪い。はらわたが煮え返り、ヒシヒシと殺気がこみあげられる。昨日の酒か?頭も少し痛いし…
「諸君!我々は勇敢に戦い、そして必ず脅威を排除するだろう!そして、白の連中を皆殺しにし、我々黒の国が選ばれた事を示そうではないか!」
「イツキ様に!!」
イツキ?
「あの方は我々をお守りする神である!我々は神に選ばれた人間である!」
窓からその光景を眺めると、それは集会の様子ではなかった。どちらかというと、軍隊の出発式。決意表明のようなもの。それを噴水の横でやっている。
二階から見た景色は黒黒黒。
一面が黒でおおわれている。槍や県で武装したものが半分。そのほかは杖のようなものを持っている。
魔法使いという職業ですか?と質問したい。
それにしても国王制だったような気がするが?国王自らやった方が指揮が高くなるんじゃないか?先ほどから喋ってるのは何か将軍という感じだし…
とりあえず…寝るか!
自分の布団にもぐり、深みにはまるのはすぐであった。
何か重い。
その重さは体験したような気がする重さで、あれ、何かそれよりは軽い?でも質量はある。重みはある。
「…て…さい」
よく聞こえない。寒い。何か抱いてる?あったかい。
「起きてください。」
イツキの顔が近くに…それに少し濡れている。なんだ?そして俺は何をしている?イツキを…
「すまない!」
慌てて謝る。妹と他人ではこんなにも勝手が違うのか。
「そろ…そろ…行き…ましょう…」
「そうだな。もう出発するか。」
イツキは何も感じていないような様子で俺から離れると、自分の荷物を取り、身支度は済んだと言いたげに俺の方に向かう。
バックを持ちそこから出たのは、だいたい十時ぐらいだと思う。
門番さんに挨拶をすました後、俺たちは山を目指してまた歩き出した。森はない平原。動物たちの姿はあちこちにみられるが、その中に盗賊の姿はない。その横を川が流れ、さしずめピクニックといったような感じであるが、そんな生易しいものではないというのは経験としてある。ここからはサバイバルだ。身を守るものがあるというのはいいものだな。しっかりとそれを握りそう思う。
イツキは今度は後ろに歩かせている。
こっちの方が守りやすい。それだけの理由だ。
慣れてきた緊張感を厳にし、どこに何があるか、状況判断だけは常に気を付ける。森の横の河原に入ってからもそれはもちろんそうだ。
「昨日…は…すいません…。羽目…を…外し…すぎて…しまい…ました…。」
「お酒大丈夫なのか?国のルール的に。」
「12歳…から…大丈夫…です…。だから…いいん…です…。」
「…女性に年齢を聞いて大丈夫か?」
「12歳…です…明日…誕生日…ですが…」
「酒場に連れていかれて少しビビったよ。どこかの飲食店かと思った。昼のな。」
「ほんとに…すいません…」
酒の飲みすぎで起こるという頭痛はない。それはイツキも同じようで、きちんと俺についてくれる。ふらふらしてもいない。あんなに飲んだのに…。
酒に強いのか?
「そういえば、イツキは魔法が使えるのか?」
「少し…です…。それに…私は…特殊…です…から…。」
「特殊?」
「普通…では…ないん…です…。」
寂しそうで。
「そうか。まあそうだろうな。」
イツキがこちらをじっと見る。前だけを向いているのに、それだけは分かった。
「特別な奴ほど、一人にはなりにくいからな。」
あいつに似ているな。五樹に。
「ただ、追いかける方は大変なんだ。勝手が過ぎるんだけどな…」
「五樹さん…ですか…?」
「あいつもお前だよ。いろんな意味で特別なんだ。」
「愛されて…ますね…。」
「友人としてだがな。」
下りとは違い。上りは足と腹に負担がそれほどかからない。そして腰に効かない。今日は快晴というほどではないが、雨の降りそうな気配はない。地面はもう乾いている。歩きやすいと言えばやすい…ん?
右前方。
森の方に人影が見える。
右手でイツキを止めその方向に構える。その人影はもろの出て…髪は茶色。髪が茶色に染まった人間は見た事がない。山賊以外は…いや。まだこちらに気づいていない。決めつけるな。たとえ盗賊の常備品のパンツのようなものを履いていて、上半身が裸だろうと…ほとんど決まっているが。
森に入ってまたレースか?
それともバトルか?
集団ではないなら勝てるであろうが、どれぐらい撃てるのか分からない。残念だが試したことがない。暇と場所がなかったし。
いや
言い訳はよそう。試さなかった俺が悪い。生きていたら試そう。うん。
もったいない精神がある日本人らしく、弾を節約し、森に逃げようとした。節約。いい響きだ。日本人の心だな。
しかし、世の中不条理な物で。もったいない精神をどうしても捨てなければなアない時がある。
気づいたのは、森に入ろうとしたその時。
ニタって笑った。
石をけりながらこちらに来る。
ここで逃げて使わざる負えないより、早めに使用しよう。最初のころの罪悪感はどこで抜けたのか。今考えるとわからんが、まあ、いいや。
どんどん迫ってくる。
しかし心は落ち着いている。これが確実に身を守ってくれるものがある安心感か。
引き金は載せるだけだ。
あとはイメージで狙え。
引き金を…静かに引く。
ダン!
銃声は大きく森にこだまし、だんだんと消えていく。
そのあとにたおれる山賊。的確に頭のど真ん中を打たれ、そこから血のような液体を流している。ピクリとも動かない。動く気配もない。
五樹はそれを見て、少し怖がっている。俺に…ではなく動かなくなった山賊に…。
薬莢は飛び出していない。スライドもピクリとも動いていない。それでいて衝撃はある。がそれだけである。それ以外は何もない。本当にこれは拳銃なのかと疑いたい。拳銃の形をしている何かにしか見えない。
山賊の近くに弾は落ちていた。
貫通したので遠くに行っている物かと思ったがそうでもない。そしてたまに触れると蒸発?のような感じで消えるのだ。何が何だか分からない。
「行くか。」
短くそういうと五樹が頷いてくれた。
森には森の生態系があるように、皮にも川の生態系がある。
その生態系の本質は同じだ。食うもの食われるもの。人間に対しての天敵が山賊しかないこの世界では、平和といっていいのかダメなのかわからなくなる。
「凛さん…」
河原の大きめの意志をジャンプでよける。と、イツキが声をかけてきた。
「どうした?」
「リンさんのそれは、魔法ですか?」
そう言えば説明していない。事情を話していなかった。どう返せばいいのだろう。魔法?そんな感じの物か?わからん。
「俺にも分らないから魔法だろ。たぶん。」
「そう…ですか。」
「気になるか?これ。」
そう言って彼女に向ける。もちろん打つ気はない。
「持ってないと消えるし疲れるからな。触るだけならいいぞ?」
「ありがとう…ございます…。」
ついでに休憩しようと進言すると、半分ぐらい来ていますから休憩しましょうか。と返された。
座るのにちょうどいい川石を見つけ二人で座る。魚がいるのか、ピチャピチャ跳ねている。その川に水を飲みに生きたのか、シカみたいなやつが水辺に来ようとし…
ズン!
なぜだか落ちる。意味が分からん。
「あれが…ツクジカ…です。」
「ツクジカも大変だな。」
ワニに食われ。落とし穴に落ち…
同情の念を抱く。
「人間には…やさしい世界。ね。」
山賊がいなければ…だがな。
まあ。
平和か。
森の中であるというその場所は、緑が生い茂り動物たちがたくさんいる楽園ではなかった。
「ずいぶん多いね。ざっと五百人ぐらいはいるんじゃない?」
崖の下の景色は、黒い髪と白い髪が争っている地獄絵図。かたてを失いながらも相手を殺そうと武器を構える、しかし、その瞬間雷に打たれ肉塊に早変わり。それを日開に変えた当事者である魔法使いも、次には茶色の髪の毛に食われる。
その森では、三つの人種による殺し合いが行われていた。
一つは黒髪の
二つは白髪の
そして半裸の怪物。
徐々に人数を減らしていき、その数は少しずつ。だが確実に減っていった。半裸の化け物以外は…。
「傍観者でいいのかい?このままじゃ彼ら死んじゃうよ?いくら悪者でもさ。」
「一応俺の村だ。守るべきものは守るさ。それに奴らは減らされるための人間だ。どうでもいい。」
「空箱は空箱しか見れない。本当に悪い人。」
「友人に本当のことを言わないで、のほほんとしているお前よりはいい奴だ。」
「凛には楽しんでもらいたいだけさ。」
「便乗しろ。」
「了解。覚悟は決まった?」
「変わる覚悟なら…な」
うわっ。
内臓食われながらもこっち見ている。きもい。でもさすがに力尽きたのか、口をパクパクしながら血を吐いてそれっきり。あと生き残りは二~三人ぐらい?でもそれでも戦おうと武器を取り滑空を切り。そして止められ食べられる。真っ赤な水たまりのそこは、ここからでも新鮮な鉄分の香りで臭いを激しくしている。これでゼロ。
あとは、化け物だけ。仲良くパクパク食べているのはいいことだけど。顔をそんなに真っ赤にしたら怒られるよ?幼稚園ではね。
「掃除はするなよ。」
「お二人さんが来てからだろ?分かっているよ…。はぁ…。ヒーローは苦手なんだよな。」
さて、
凜は今頃、ここに向かっているよね。
滝のすぐ近く。
あれから盗賊とは会っていない。よくあったのは動物であった。その量と種類。さまざまな生態系は、行きよりも楽しめたと思う。歩く事態に娯楽がないのだ。このようなことでしか、自分の好奇心は満たされていないと思うと何か悲しくなる。
しかし、ここら辺に来ると何者の気配もない。
滝野周辺には何者の気配もなかった。動物も、何もかも…臭い。
その匂いは森の中から匂う。この匂いは…血の匂い。山賊と最初にあった時と似ている。この匂いは…
鉄の匂い。
それを濃くしたようなこの匂いは…
銃口を森の中にむけ、イツキを後ろに下げた。
反対側から曲がるか?そちらの方が安全だ…しかし…。
俺の好奇心は…他よりも強いようだ。
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