第6話 電気がない

 2階の、まるでイメージはしっぽりとした温泉宿の一部屋。だけど明かりは部屋の四隅に置いてある行燈であり、若干薄暗い。

 そして、部屋の隅にしつらえてある囲炉裏に吊るされた鉄瓶で、お湯を沸かしてあった。うーん、雰囲気はいいけど、やっぱここの世界には電気とかそういうものはなさそう。

 とりあえず落ち着こうと思い、座敷卓に置いてあるお茶セットから急須にお茶っ葉をいれ、鉄瓶のお湯を入れる。


 2つお茶を淹れたところで、片方をキョウに差し出す。ていうかなんでキョウまで一緒の部屋なんだよおおおお!!! ついクセで普通にキョウの分のお茶まで淹れちまったじゃねぇか!


「ちょっとなんであんたと一緒なのよ……」


 わたしはキョウにため息をつきながら言う。が、目の前のくそイケメンは涼しい顔をして、わたしの差し出したお茶をずずっと啜って言った。


「食い逃げされたら困るし、俺さ、ここにいっぱいツケが溜まっててさ、お前が一緒に泊まって宿代を支払うってことにすれば、俺に宿代、ていうかツケは追求されねーだろ?」


 こいつ……さっきの酒場では金払いが良かったのになんでだ? というか食い逃げとか……そもそもわたしは逃げてねーよ! ガッデム!!


「ツケをしねーのはな? あそこの酒場のヒトミちゃんていう給仕の娘の連絡先をまだ聞いていないんだぜ。カッコ悪いところ見せたくねぇからな。そのヒトミちゃんの尻はデカくてかわいいんだぜ」


 そういうとキョウはスケベそうな顔で思い出しニヤリをする。うーん、こいつって軽薄な女ったらしドスケベイケメンすぎるわ。


 ……まさかわたしまで襲われるとか!?

 さっきの酒場でもいきなり迫ってきたし、女なら見境なく襲ったりとか……。そう思ってわたしはジトッと胡乱な目でキョウを見る。

 その視線に気づいたのか、キョウはわたしを指差して言った。


「おめーは範疇外っ!! 俺の好みのタイプはエロくて胸と尻が大きい女だし! ていうかそもそもおめーは女なのかよ。胸が……」


 キョウのストマックにわたしの拳がヒットする。キョウは潰されたカエルのような声を出して、みぞおちを抑えている。


「ぐえっ……おまえやっぱり女じゃねぇよ」

「う、うるっさいわ!! これでも胸がちいちゃいのは気にしてるわーー! バカーー!!」


 追撃の頭突きをかまそうと思ったけど、わたしとキョウの間には座敷卓があり、距離が遠くて頭突きキャノンをかませないので、わたしのこころの中の閻魔帳につけておくことにした。あとで覚えてろよ。



 妙な間を開けて、ズズーッと音を立ててお茶を2人で飲む。キョウはまだわたしの、特に身体的なことに関して愚痴を言っていた。この変態イケメンめ。

 もういろいろと疲れてきて、その悪口にいちいち反応をする気力もなくなって、わたしはとりあえずキョウを放っといて寝ることにした。


 部屋を見ると、畳の上に布団が2組。妙にくっつけてあったので、それをぐいっと移動させ、間に座敷卓を挟む。ついでにお茶のセットもドンっと卓上に置く。さらに部屋の片隅にあったゴージャスな金屏風もついでに座敷卓の脇において、防御して寝ることにした。


「うほ、隣はハナちゃんといつものアイツか」


 わたしをほったらかしにして、隣を覗き込んでいるキョウは放っといてリュックから耳栓を出し、装着した。

 うーん、リュックを抱きしめて寝ると気持ちいいな。音は聞こえないし。ついでに異世界のあるきかたも枕のわきにおいてほっぺに当たるように置く。マジ気持ちいいわ……。


 そんなことを思いながら、わたしの意識はすうっとなくなった。

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