第4話 カポーン!
「ゔあぁぁ……」
少し熱めのお湯が身体に染み渡る。わたしはおっさんみたいな声を出しながら、湯船に浸かった。
ここは
ここの風呂は半露天風呂みたいになっていて、紅灯籠の庭園が石の灯籠の明かりで照らされ、とってもムードがある素敵な開放感に溢れた高級温泉宿みたいな感じだった。
カコーンと音がして、さきほどのエロ女、ユメが風呂に入ってきた。きっと男子だったら鼻血を大量に噴き出すようなエロいスタイルで、シナをつくりながら風呂場の石畳を歩いてくる。くそう……なにか色々負けた気がする。
「あま……にぃ様は勝手がわからないかと思ってぇ」
ユメさんは、わたしの名前を、あまねって教えても発言出来ないみたいで、ちょっと聞いた感じはあまにって発音する。それって体にいい油の名称よね? オメガ3でしょおお。それにユメさんは何度練習しても「あまにぃ」みたいな感じで、かなり言いづらそうにしてたので、
「あの、呼びやすい名で呼んでくれていいですから」
「そっか、なら あま って呼んでいいかな?」
呼び方なんてあだ名と一緒でどうでもいいから、はいはい、と適当に返事をしておく。お風呂は気持ちいいし、ユメさんはすっげー美人でスタイルよくて、そんなお姉さんとお風呂に一緒に入ってられるならなんでもいいわー。
「ところで、キョウさんとはどんな関係なの? 妹さん?」
「げっ! アイツの身内だなんて一緒にしないでください。ただの他人ですよ。た・に・ん! ……ただ夕食を奢ってもらった、ような感じだけど、がめつくて嫌いなタイプです。軽薄そうだし。か、顔はちょっとイイなとか思っちゃったけど……ゴニョゴニョ」
「ふーん、それならいいんだ……」
とユメさんは庭を見ながら言う。いいんだ、の語尾が小さくなって呟きというか吐息になってたのがまた色っぽい。そんな横顔のユメさんは真っ黒の長い髪がしっとりと首から胸まで張り付き、一枚の絵のようだった。
ちょっとユメさんに見とれてしまったけど、それより良い機会だ。色々とユメさんを尋問して、ここがいつなのかどこなのかを聞き出さないと。
日本風だけど日本じゃない。そして路地裏を荷物のように担がれていたときに観察して気づいたけど、わたしが住んでいるような時代や場所でもない。SFとかなら電車に乗ってたら知らない世界だったとか、異世界転生なら移動した先で勇者さまっ! とか言われたりする。でもここはわたしはわたし以外の何者でもないし、魔法が使えるようになったり、ジャンプ力が数倍に跳ね上がったなんて言うものもない。別世界だからこそ、命の危険や貞操の危機なんかもたくさんあるわけだから、すぐに自分の時代に戻れるか確かめる必要があるのだ。それはとても急務なのだ。
うんうん、と一人で自分に相槌を打ってから、ユメさんに質問してみることにした。
「あの、ここっていつの時代で、どこの場所なんですか?」
わたしの質問に一瞬きょとんとしたユメさんはそのあとコロコロと笑って、
「時代なんてわからないわよ。場所はそうね、カロウトって呼ばれている場所よ」
うーん! あかん! わからん!! どこだよカロウト。ユメさんにはありがと、ってとりあえずお礼を言った。でも、悩みはじめたわたしは湯船に口をつけてブクブクして、なにか名案がないかを考える。
はっ! そうだ! あの本なら色々書いてあるんじゃないかな。いちおうガイドブックだし!
ピコーン! と頭に豆電球が浮かぶ勢いで名案が浮かんだ。よっしゃあ!
ブクブクをやめてわたしは思いっきりザバーと立ち上がる。手は腰の位置でグッと握ってヨッシャアァァ! のポーズだ。かっこつけても全裸だけど。
「なあにそれ? おまじないかなにか?」
「……あぁそうですね。スッキリするおまじないです」
適当にごまかした。
わたしがゴソゴソとリュックからタオルを出して全身を拭いたあと、下着を着けて猫☆愛トレーナーを着ようとしたときに、ユメさんがその格好じゃ目立つからこっちになさいな、と薄い桜色の着物のような上着に、紺色の袴っぽい感じのキュロットスカートをくれた。袴の斜め半分ぐらいにキラキラとした刺繍が入っていてすごく可愛い。足には踵のない茶色のブーツ。サイズがピッタリで歩きやすい。
着替えたあと、脇の脱衣所の鏡を見たときに映っていたのは、明治時代の女学生コスをした自分の姿だった。
「うん、いいわね。これなら女性として扱われないから出かけても安心よ」
女性に扱われないって……。女学生コスが? 某サ○ラ大戦の主人公が? まだよくこの世界の価値観には慣れてません。でもユメさんみたいな薄絹の着物じゃなくてよかった。スケスケで下着も着てないものだから、あれで外歩いたら痴女だよ。まったく。
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