第3話 エロ女

 失礼なイケメンがわたしの肩に手をかける。ええい、こうなったら……!!


 ゴガンっ!!!


 イケメンの顎へ頭突きをHITさせる。ふふん、チビだからって油断したわね、このスケベ女ったらし! まあ、本当はイケメンのおでこに頭突きする予定だったけど、身長差で顎になっちゃった。まあいいか。頭突きの衝撃で下がった眼鏡をくいっと戻してわたしはドヤ顔をする。

 そのイケメンはしゃがみ込み、顎を抑えながら、わたしを涙目で見上げる。ざまーみろ。今は無様なただのイケメンだ! このやろうっ!


「ってぇ……。金貸してやったら頭突きかよ。ひでぇ女だな」


 そう言うとそのイケメンは立ち上がり、わたしの首根っこを捕まえて、落ちてたわたしのピンク色のリュックを拾う。


「ついてこい、っていうかもう運んでるか。こっちに来い」

「いーーーーーやーーーーーーーー!!」


 わたしはそう抵抗するものの、身長差30cmはあるイケメンの力には叶わなかった。



 酒場を出ていかがわしい路地裏を拉致される、いたいけな乙女……なんてことはなく、薄暗い路地を首根っこ掴まれたまま移動するわたしと変なイケメン。口は喋れないようにしっかりとイケメンの手により塞がれている。路地は民家が密集して出来ている狭い路地で、人がすれ違うのがやっとの狭さだ。


 今の時間……おおよそ夜8時すぎだろうか、民家からうっすらと漏れるろうそくの光の明るさで、歩いている道はぼんやりと明るくて喧騒もなく静かな路地裏だった。土が踏み固められているような感じで、ボコボコしてるけど歩きやすいみたい。わたしは持ち上げられて、足がぶらーんとなってるから、イケメンの足取りで判断しているけど。そこの路地裏の奥に赤い提灯を掲げたちょっと大きな民家が見えた。


「よし、ここだ! 邪魔するぜ」


 イケメンがわたしを民家の土間に転がす。リュックを抱きしめたまま、ゴロゴロと3回も前転してしまった。

 土間の終わりの家への上り口はどこかの受付みたいになっていて、そこには艶やかな着物姿の女性、つまりはエロっぽい女がいた。


「なぁによ、キョウさん、いきなり」

「このガキ、いくらになる? いやの代わりになんねぇ?」


 はぁ!? イケメン……落ちる所まで落ちてるわね! 人身売買かっ!!

 ブチ切れたわたしは、そのふざけたイケメン、キョウとかいう男の顎を狙って、再び頭突きキャノンを繰り出す。キョウは不意打ちされたようでその場で伸びてしまった。一回地獄へでもいっとけ!


「あはははは、えらく威勢のいい娘だね。でもウチじゃ、あなたみたいな娘が働くのは無理だよぉ」


 エロっぽい女がカラカラと笑う。髪の毛をゆるく結び、後れ毛が胸元まではだけた白い肌に落ちて得も言えぬいい香りがする。真っ赤な口紅と薄紫色の薄い着物、そして豊かな乳と尻が一体となって……エロい! 非常にけしからんエロさだ!

 わたしがエロ女をじろじろと観察していると、そのエロ女もわたしを値踏みするように見てくる。どうせ次の言葉はちんちくりんの子は無理よーとかなんとかでしょ。どうやら、ここは娼婦宿っぽいし。この前の大河ドラマでこんな風な場所見たし。

 いきなり本読んでたと思ったら、変な場所にワープしてて変なイケメンに拉致され身売りされて一生不幸に生きるのか……イヤ過ぎる。

 ん? 本。本はどこいった!


「本をがっちり掴んで、キョウさんに頭突きかますわ、変な服は来てるわ……どこからどう突っ込んでいいのかわからないわよぉ」


 あ、よかった。本の手触り良すぎて持ってるの忘れてた。ていうかちょっと待てぇ! 変な服って……。下を向くわたしの視線の先には真っピンクの生地に勘亭流で胸元に書いてある『猫☆愛』のトレーナー。もちろん胸はあんまり出てない。自分がワープしてこれたんなら、胸だってちょっとぐらいデカくなってくれても良いものなのに。そして派手な文字の下にはダルンとした猫が描いてある。履いているものは中学校時代の小豆色のジャージだ。もちろん裸足。うええ……。

 ただでさえチビなのに、ますます小さくなるわたし。そんなわたしを見たエロ女は


「まあいいわ、おいでなさいな。キョウはここで拘束しとくからさ」


 と奥の部屋にわたしを迎え入れる。もちろん足の裏の土は雑巾で拭いてからだけど。

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