第9話 転送者
市場にいるうちにお弁当的なものをふたつ分、キョウは買っていた。
そしてそれを肩にひっかけて、わたしのペースで歩いてくれている。道幅も広いし他に歩いている人もいないので、互いに横に揃って歩いている。
道はのどかな田舎道。ふと、自分のいたところの道を思わせるような……たまにある橋やポストっぽいものは木で出来ていて、ちょっと不思議な感じがしたけど。
と、キョウとわたしは何も喋らずに結構な時間を歩いた。
……うーん、黙って歩いているのもなんだしな。
「あ、あのさぁ、キョウはなんでこの仕事選んだの?」
わたしをチラッとみるキョウ。だけどすぐにキョウは進行方向へ目線を戻して、言う。
「俺が選ぶっていうか、選ばれたんだよ、仕事に」
ん――?
仕事に選ばれるってどゆこと?
そんな頭の上におおきな『?』マークをつけたわたしに、キョウは説明してくれる。
「ほら、自分で言うのもなんだけどさ。俺ってかっこいいだろ? そういう容姿の優れた奴は、自分の身体のどこかに印が現れんだ。で、その印に引き寄せられて転送者が目の前に現れるんだぜ。……ここの神さんはその転送者の案内人として、容姿の良い奴をこの世界で選んでるんだろうけどな。よく知らんけどそういう仕組みだ。ってか妙な転送自体なくなれば、もうちょっとマシな仕事をやってたんだがなぁ、俺も」
あ、そうか。
異世界の案内人として、かわいい女の子やかっこいい男の人なんかはよくあるパターンだわ。それがここの世界のシステムで決まってるってことか。
「まあ、俺の担当がイケてないヤローとかだったらどうしようかと思ったけど、初仕事がおまえでまだマシだわ。案内ってどういうものかわからねーけど、とりあえずよろしくな、ちっぱい」
「う、うるっせー!! ちっぱい言うな!! ……まあ、よろしく」
道の真ん中で立ってお互いに向かい合い、握手をする。
うん、なんか案内ってより仲間みたいな感じだなあ。まあ、性格には難があるけど、なんだかんだで面倒はみてくれそうな案内人だし、いいか。
……ちっぱいとかそーゆーのは許せんが。
「転送者が複数現れるってことはないの?」
「一人の案内人には必ず一人の転送者だな。でもここ最近は転送者が多いから、この世界に一人だけってことはないだろな。ゴーシュって国では転送者同士の争いで戦争が起きたぐらいだし」
へぇ……なんかいろいろあるんだなぁ。
「じゃあ、転送者って妙な力を持ってる人ばっかなの?」
「だろうな。望んでここに来たあとは、その妙な力を持ってるらしいぜ?」
魔法だの、奇跡だの、ギフトとかいうことを転送者は呼んでいるらしいが、でもこの世界の人たちの間では、不思議な力とか妙な力とか言ってて、定義はないのだそうだ。ふーん。
「ま、わたしにはそんな力を契約しましょうとかそういうのは無かったわけだし、なにもないよ?」
キョウは、わたしのその言葉を聞いてガックリしていた。え? なんで?
「今の姿は仮の姿でよー、妙な力使ったら超エロ女に変身するとかよー、そういうのがないかなーとちょっと期待してたんだが……」
おいコラァ、期待してたんだが、とかじゃねぇよ。
「キョウさまぁ? ……一度ぶっころされてぇか? オイ」
わたしがそう言ってキョウを睨んだら、キョウは朝のビンタを思い出したのか、ブルっとして
「す、スマン。いや……朝のあれはホントにスマン!」
その後に小声で、でもさぁちょっとは望みがあってもいいと思うんだよなァ、とキョウはぼやいていた。そんなにわたしってアレなのかね……。
なんとなく落ち込んだ気分になったわたしは、それから黙々と歩くのであった。
「そーいやおまえ、名前なんていうんだ?」
ぐはっ、そーいやキョウにはまだ名乗ってなかったわ。
「あまね」
「あまに?」
キョウ、やっぱりお前もか。ユメさんと同じアクセントで同じオメガ3の奴を言いやがったので、キョウにもユメさんと同じように言う。
「あま、でいいよ。言いづらそうだし」
もう、これから先に名乗るときには『あま』と言おう。決めた。
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