第12話 ラーメン注意

「おまえ……すげぇな。なんだよその技……」


 ガクーンと外れた顎をキョウは自力でなんとか戻し、わたしの手のひらの上のお団子をひったくって食べる。


「……うめぇ」


 毒味をさせたつもりはないんだけど、食べたら紙の味だったなんてヤだったから、キョウが食べてくれてよかった。

 問題がないことを確認し、メモ帳をまた一枚破って『ラーメン』と書き、そっと畳の上に置いて、ラーメンになーれー! と念じる。


 ………。


 あれ? さっきみたいにぼふーんというふざけた音がしない。


「ちぇ、なんだよ。一回だけかよ」


 がっかりしたようにキョウが言う。おっかしいなー。


 紙に文字を書くだけで、どんな法則でどんなものが作れるのか今すぐ調べたかったけど、こんな宿で色々やるよりはもっとゆっくりできる場所のほうがいいだろ、とキョウに説得されてしまった上にお小言をもらった。


「だいたい歩けねぇぐらい疲れてるんだから、さっさと寝ろ。明日ははえーぞ」


 ……はいすいません。了解しました。


 埃っぽい布団を2枚、微妙に30cmほど離して敷く。幽霊が出そうな怖さとわたしの貞操を守らねばという2つの気持ちがないまぜになって……の30cmである。

 女子はいろいろ難しいのである。


 昨日と違って布団の間にガードするものがないので、心許ないがあれこれ文句を言っても始まらない。


 しっかりと着物を着直し、袴の帯を締め直す。何かあってもすぐに逃げたり対応出来るように、身の回りのものは手の届く範囲に置く。眼鏡もしたまま眠りたかったけど、前に眼鏡をかけたまま眠ってしまったときに眼鏡をブチ壊してしまったので、頭のすぐ上に置く。


 よっし。大丈夫だ。

 昨日と同じようにリュックを抱きしめる。キョウは剣を右側に置き、わたしと同じく服は着たままで掛け布団の上にゴロリと寝転んだ。

 そして15秒後にはすうすうと寝息をたてはじめた。


 寝入るの早いなぁ、と思いつつわたしの意識もなくなってきた。

 あ――キョウのこと、寝入りが早いなんて言えないわ……。




 明くる日、またキョウはわたしの布団に入ってきやがってた。


 ……またかーーい!!


 2度めはパニックにならずに冷静に……と思ったけど、キョウの左手はわたしの……ちいちゃいアレをモミモミして、さらにグフフフと妙な笑いをしてやがった。


 なので、再びキョウに左手ビンタをクリティカルヒットさせた。キョウは吹っ飛び障子にぶちあたったけど、奇跡的に障子を破ることはなくキョウは目を覚ました。


「ぐがっ! ……あれ?」

「……おはよう」


 昨日と同じ流れのようになったけど、囲炉裏はなかったしキョウの顔も灰まみれにはならなかったので、お互いに無言で出かける支度をしたあと、そそくさとわたしたちはその宿をあとにすることにした。


 下卑たおっさんはわたしをジロジロみて残念そうな顔をしていたが、多分もう会うことはないだろうから、挨拶もそこそこにさっさと先に進むことにした。


 宿を出てしばらく歩くとお腹がグキュルルーと派手になる。……だよね、わたしは昨日の晩御飯食べてないし。


 わたしはどうにも我慢できなくなって、メモ帳を1枚ちぎってお団子を作る。


 ぼふーん!


 ……ちゃんと変わった。

 キョウにも同じお団子を出して、2人でお団子を大きな口で一気に食べてしまった。


「しかしこう、毎日団子じゃ飽きるわ……」

「しょうがないでしょ、昨日ラーメン出そうと思ったけど無理だったし」


 ラーメンという単語で一気に脳内にラーメンが浮かんだ。

 鶏ガラスープのうまみと醤油の香りが平打ちの縮れ麺に絡みつき、ズズッと啜ると麺のプリプリした食感とスープのうまみが一気に口の中に広がる。

 そしてあっさりと仕上げた豚肉ロースのチャーシューを出汁の効いたスープに漬け込んで大きな口でひと思いにパクっと……。


 グゴゴゴゴゴキュルゥゥゥググぐぅぅ……


 人生の中で覚えてる限り、最大限にお腹が鳴った。うはぁ。恥ずいわぁぁ。


「……おまえも一応女ならさ、その腹なんとかしとけよ。っていうかラーメンっていうのはそんなにうめーのかよ」


 キョウに超呆れられてしまった。

 いや、今回のはラーメンが悪いよ。ラーメンのせい!


 辺りには何もない、キョウが言う大通りを歩きながらわたしはラーメンラーメンと思っていた。いいやラーメンラーメンと口にしてた。確実に。

 

「ああくそ、気になるなラーメン。ラーメン」


 キョウはラーメンがどんな食べ物かわからないのに、わたしに合わせてラーメンラーメン言っていた。

 そのうち2人で思いっきりズズズッとラーメンを頬張りたいなぁ。


 お団子だけでは満たされないお腹を抱えながら、キョウと2人で道を歩くのだった。

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