第16話 スリ犯確保!

 それからキョウはわたしを10分ぐらい抱きとめたあと、襲い掛かってきた冥闇を退治するために無言でわたしを離し、そのまま戦っていた。

 わたしといえば、なぜかボーっとしてしまい、また冥闇に取り込まれそうな状態になってたはずだけど、キョウがうまく立ち回ってくれて危機的状況にはならなかった。


 キョウに話しかける空気ではなく、そんな空気の中ではわたしの勇気もなく、キョウは朝まで無言でずっと休みなく冥闇と戦っていた。



「っあ――さすがに疲れた」


 冥闇を倒して、朝日が差したころにキョウはその場でごろんと大の字になった。そしてお金をわたしに渡してくる。


「ほら、金はお前がもっておけよ。お前は慎重っていうか目立たないから、俺より盗まれることはなさそうだし」

「……うん」


 キョウの手からお金をうけとる。

 なんとなくさ、あんなことがあったからってわけじゃなくてさ、わたしを抱きしめていたときの、キョウの無言の態度が気になっていた。なのでキョウがなにげにひどいことを言っていても気にならなかった。


 ……キョウは冥闇に対してなにか因縁があるんだろうな。

 それをはっきりと聞けないことが、なんとなく嫌だった。でもそのことはわたしから聞いてはいけないことで、キョウが自分から話してこない限りは聞いちゃいけないことなんだろう。


「なんだよ、いつも通りうるさい小娘じゃねーのかよ。ひょっとして家族に会いたいとかそんなことを思ってるんじゃねーだろうな」


 キョウにそう言われた。

 ……たしかに家族には会いたい。

 でもそれ以上に気になっていることはキョウのことだったけど、わたしは言い出せなかった。


「まーいいや。お金も溜まったことだし、武器をさっさと見繕って早く休もうぜ」


 ブンブンと頭を振る。

 こんなところでへこんた気分になってたってしょうがない。

 わたしは両手で自分のほっぺたをバチンバチンと叩く。


「しゃあ! 気合入ったわ!!」

「お? なんか元気出たのか? よくわからんけど、ちょっと休んだら早速ナーソで豪遊するぜ!」


 いやあの、豪遊するまでのお金は溜まってないですけどね。



 ナーソの市場に来た。

 武器屋までわたしたちが歩いていったとき、向かい側からどこかで見た……スリ野郎が歩いてくる。


「キョウ、あの人……」


 キョウはわたしに目線をあわせて頷く。そしてその男に向かって行き、腕を掴んだと思ったらそれを捻り上げる。


「……っ! なにするんだよ」

「なにするってな、金を返してもらうんだよ」


 キョウが男に対してそう言うと、男は昨日のことを思い出したのか青ざめた。そしてキョウから逃れようと暴れるが、力が弱いのか振りほどけていない。


「おい、お前……女だな……!」


 はだけた胸元を見てキョウが言った。その一瞬の間断をついて、その女はキョウの顔を引っ掻いて離れ、逃げようとした。


「そうは問屋が卸さねぇっ!!……いやおろさないわよ!!」


 わたしはリュックの中に入っていた、猫☆愛トレーナーを女の顔に巻きつける。そしてキョウに再び捕まえられた。我ながらうまい連携だった。

 しかし、うっかり言葉遣いが悪くなってしまった。反省。

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