詩集「星のかのかを傾けて」

雨地草太郎

星のかのかを傾けて

今宵、空の暗幕はひときわ落ち着きの色をたたえ

星々の無名むみょうのかがやきを

またたくままにまかせている


暗幕下の広い客席、小さき観客たる私

赤いさかずきは片手に乗せて

庭先の岩の、苔むしたのも気にせず座り

ただ星たちの自由奏にひたり

ときおり酒を傾けて

心と喉を満たしてゆくのみ


今宵、蒼くどこまでも空は遠い

すべてを成せば、星は静かに流れ去る

その中で、

さかずきに似た朱星あけぼしがいつまでも残り居座るのが映る


ちっか、ちっかとまたたく星を

さかずきですくう私の酒は

星の色香も拾いあげたか

匂いがふぅと強くなる


はいの水面に揺れる朱星

暗くまた明るく、色はうつろう

それは火の花咲くようで

酔いて床入とこいり前、花火のたまを傾けるもまた一興か


やがて終演しまいが近づいて

最後の酒を杯に満たす


澄める暗幕

燃える朱星


私は杯を高くにかかげ

星のを傾けて

客席そっと立ちて出てゆく

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