少女抱棺

土蔵の隅に置いてある

小さな黒い木のひつぎ

少女はそれを抱きしめる


空っぽだから棺だが

やがてひつぎに変わるだろう


少女はふたを押さえつけ

なんにも入れぬと力をこめる

あるいはそれは中からの

終わりの訪れ止める行為もの


箱の中からやってきて

彼を引き込む死の腕は

ふたさえ開けねばだいじょうぶ


あの子はまだまだげんきだよ

しんだりなんかするもんか


にじむ涙がひたりと落ちて

木目にすべる悲しみは

誰も知らない闇の奥


今日も彼女ははこを抱き

やがて疲れて眠りつく


彼女が知らないあとのこと

影が近づく腕が抱く

少女は父の腕の中


ごめんな

ごめんな

俺があまりに早まった


父が謝るその声は

今日も彼女に届かない

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