スプラッシュ・フロッグ
上り坂をだらだら歩き、
知らない街の通りへ出てみると、
ゆっくり近づいてきた雲が雨を落としだし、
通りをゆく人の足が早まり、手は頭を意味もなく隠し、
誰も街角にたたずんでいるぼくのことになど気づかないでいる。
ぼくは傘を開いて、
壁に寄り添って、
耳を澄まして、
目を開いて、
落ちていく雨、
その一粒一粒に、
無数の景色を見る。
しばし動かないでいると、
側溝からカエルが這い上がって、
白い膜を揺すぶりながら、
通りのほうへと跳んで出てくる。
雨が強くなって、
地を打つ水は飛沫を大きくし、
大きな一粒から細かな一粒へと姿を変えていく。
そこに出てきたカエルよ、
君の道筋は車の道筋でもある、
ああ、
だめだ、
いけない、
それ以上は、
お願いだから、
もう動かないで、
そして、
カエルは、
迫る車輪に、
呑まれ消える。
黒い車輪が彼に重なり、
アスファルトを叩く雨にも似た、
激しく刹那的な飛沫、ただし透明ではない、
どこまでも赤い、先の見えない濁ったなにかが、
一面にばあっと跳んで広がっていったのだ、
ぼくはまだ壁に肩を預けていて、
破裂をただ眺めただけ。
そしてまた、
何事もなかったかのように、
雨の中を歩き始めるだけなのだ。
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