君、モノを語るのみならず五感を騙るか

 古き良き日本への郷愁もあれば、現代と地続きの近代の価値観に前近代の蛮性を併せ持った不思議な時代、それが昭和初期だと思っています。
 狂言回したる仕掛け人の外道記者「関信二」と怖がり役のアル中「大久保純」はいかにも悪い大人と駄目な大人の二人組ですが、胡乱さに対しての社会の許容度が高いだろうこの時代、薄暗がりに入り込める強かさがあって実に面白い。

 まったく頼もしくはなく、自身が怪異の孵化装置の前に立っている危うさもあるのですが、やはりこの職に就いている輩はスパイかこの手の類と思うと、闇の王道を歩まれる設定、ある種の安心感があります。
 
 ちなみにこのレビューを書いたのは第一話読了時点です。
 読むという作業はてっきり視覚のみに頼るのかと思っていましたが、いつの間にかその当時を歩いたこともないはずの帝都に放り込まれた錯覚を覚えました。
 じわり、脊髄や腹、心臓になにかよくわからないものが貯まっていく感覚があり、奇妙な味が口の中に湧き出てくるようです。
 
 ある種のユーモアもあり、恐怖のみならない不思議な読後感を受けました。今後の怪異譚も、実に楽しみでなりません。

その他のおすすめレビュー

東和瞬さんの他のおすすめレビュー40