落葉樹を愛でると、言葉が落ちてくる。

たとえるとして――。
『帝都つくもがたり』はお化けが出ると噂される鬱蒼とした森の中を、男二人が怖がりながら怖がらずながら駆け抜ける話。
『帝都つくもかさね』は美しくも妖しげな草木に誘われて、一人の女の子が迷いながら進みいき、やがては木漏れ日の下に帰ってくる話。

ひるがえって『帝都つくも』シリーズ番外編は『帝都つくもあつめ』は少し歩みを止めることが出来る話といったところでしょうか。
仮に、世に不思議が溢れている全体像が「森」であったとして、その只中にあっては俯瞰することは叶いますまい。
けれど、一本の木のみならず、そこから離れた落ち葉を愛でることはできましょう。具体的には上記の事件(物語)を経て、歩き方が少しうまくなったかもしれない愛おしき人々の人生の一ページとか。

つまりは連なる物語でなくて独立した一篇として構成されているので、佐々木匙先生の落とされる言「葉」の美しさを存分に味わうには最高という寸法ですね。

言葉と落葉を掛けただけでここまで書けてしまいましたが、ああ去らないで。ここがオチではないのです。
シリーズでお馴染みだったりするキャッチ―なキャラクターな描写ももちろん健在ですが、作家大久保やブンヤ関の人生のごく一部、ひらひらと落ちてくる非日常に似た日常風景の切り取り方が実に何気なく、自然体でなんとも素晴らしいのです。
例えばもっと、彼らの人生を見てみたいと思わせるくらいには。

総じて、ごく自然に、気負うことなく読める輪にかけて優しい物語なのです。
不思議への感動や恐怖を入り口に、ユーモアとペーソスがお隣さんですよと主張するような、派手さはないけどさみしさとたのしみが心に染み渡っていくような心の動きはなかなかないんじゃないかと。

番外編と銘打ちつつ、本編とはまた違った読書体験を経験でき、もちろんどちらかでも入っていける間口の広さ、どれを取っても一級品だと感じつつ、ちょっとしたレビューを終わります。

追伸。
追憶の秋を控え、この物語は恐怖の夏だけとは限らない、季節を選ばないのかと思いつつ。
どうか、作者氏も作中における大久保同様、冬になって言葉が全て落ちてしまわれませんように。