本作は、特殊な「害獣」が蔓延る世界で活躍する「害獣」退治専門家の少女たちを書いた小説です。
かつて「害獣」に敗れてしまった姉への想いを胸に戦う主人公の少女の姿は、気高く、雄々しく、そしてどこか痛々しくもあります。そんな彼女を嘲笑うかのように「害獣」たちは絶え間なく現れます。そしてついには人語を介する個体まで登場し、戦いは熾烈を極めます。
しかし悪いことばかりではありません。彼女には戦友がいます。同じ「害獣」退治専門家である少女たち。主人公を師匠と慕う一人を除いてただの同業者でしかなかった彼女たちが仲間となった時、際限なく広がるように思われたパンデミックは一つの収束を迎えます。
個性的で魅力的なキャラクターや手に汗握るアクション描写が作品にのめりこませてくれる良作です。タイトルやあらすじに不可解な面が目立つかもしれませんが、まずは是非一度、騙されたと思って読んでみて下さい。
※なお本作における「害獣」は空飛ぶパンツです。
あらすじからして恐ろしくシュール。ともすれば一発ネタ的に見えるが、その内容は驚くほど正統派のバトル小説である。クレイジーな世界観を土台にしながらも物語全体の雰囲気は常に理知的であり、圧倒的密度で描かれる戦闘シーンは圧巻の一言。
この作品の登場人物の殆どがプロの下着屋(パンター)であるため、パンツが空を飛んで人を襲うことについて今さら何かを感じる者など作中には存在しない。
この「ツッコミ不在」という要素が本作の狂気を高めている一因であることは間違いなく、我々読者は「あれ?ハーブでもやってるのかな?」と思うような展開に出くわしてもとにかく目の前の状況を受け入れて読み進めるしかないのだ。
謂わば我々は偶然にもマリファナパーティの現場に迷い込んでしまったのと同じであり、こうなれば当然一緒にマリファナスッパスッパする他やることはないのである。
無論、マリファナはいけない。カクヨムは青少年に開かれた健全なサイトだ。だがしかし、パンツならばどうだろうか?健全なサイトでもパンツパーティなら許してくれるのではないか?
その答えがこの小説である。パンツなら、スッパスッパしてもよいのだ。
みんなも気軽に、パンツでトリップしよう。
空飛ぶパンツが人々を襲う世界、それと戦う少女たちがいた。
パンツ……じゃなくてワンフレーズで描き切ってしまうにはもったいない頭のおかしさですが、実際その一言を元に現実との相違を見事に肉付けしていて、大真面目、かつナチュラルに狂った世界を描き出しています。
言葉遊びと言うか、現実の言葉や事物……なんでしょうが、カバン語というか二重の意味を持たせてツッコミどころとする手法が冴え渡り、日本語の神髄を見た気がしました。
よくぞパンツからこうも説得力のある世界を生み出されました。
実際、作中でも度々触れられていますが根源的(プリミティブ)なものをパンツに見出してしまうのは全く不自然ではありませんから。
姉をパンツに奪われた主人公が平然と、いや疑問を抱きながらも不条理な現実に挑むそこに憤り、焦り、怒り、様々な感情を想起させ、共感させます。
戦い、傷つく女の子たちの痛々しさはホンモノで、読者として世界観やナチュラルに挟まれる小ネタに対し自然と笑みは浮かぶのですが、戦いに茶化しは無粋と思わせ、追体験させる筆力が素晴らしい。
私はパンツと戦ったことはありませんが、実際こういった非常時にはかくあるべしという心構え、教本として職場に配りたい、そう思うほどにリアルな心情、筆致は素早くに目を躍らせます。
読みやすく、奥深い。映像が脳裏に浮かぶ、お約束の展開もそうと感じさせずむしろ王道、ワンダフル!
えっと、わたしの気が狂っているわけではなく、本当に↑のとおりなんです。信じて下さい。
色鮮やかに空を舞うパンツたちは、人間に危害を加え、やがては廃人化させてしまう悪しき害獣。
そんなパンツに立ち向かうのは、悲痛な過去を胸にバトルアックスを振るう少女・織野小春。
ガワだけ聞けば、正気を疑われかねない内容ではあります。
しかし、描かれる世界・繰り広げられる戦いは極めてシリアス。
戦闘描写のそこここに相手がパンツならではの工夫が盛り込まれ、
小春ちゃんが峻厳な覚悟で戦えば戦う程、異常な絵面が想起されて笑いが込み上げてきます。
――あるいは、この作品こそが真のパンツなのかもしれません。
『害獣パンツ』。『パンツを狩る下着屋(パンター)』。『悪の組織・下着同盟(アンダー・グラウンド)』。
それらの強烈な単語は言わば、ひらひらと揺蕩いわれわれを惑わせる蠱惑的なスカートのよう。
しかしてその薄布の向こうには、正統派な戦闘描写(純白スタンダード)・魅力的なキャラ(水色ストライプ)・クスリとくるギャグ(ピンク水玉)・シリアスな過去(オトナな黒レース)など、様々な絶景が待っているのです。
さあ。
貴方もこのページ(スカート)を捲り、めくるめくPANTS-de-micの世界(パンツ)を目の当たりにしましょう。
※このレビューは犯罪を教唆するものではありません。
登場人物はシリアス! でも敵はパンツ!
このギャップがたいへん面白いです。我々読者からどんなに珍妙に見えたとしても、作中世界ではパンツは真実おそるべきモンスターであり、立ち向かう人々もまた誇り高き戦士なのだ……!
素晴らしいのは、二つの魅力を見事に両立しているところではないでしょうか。
頭のネジが外れたかのごとき設定の通り、読んでまず第一に襲ってくるのは笑いの波です。なんじゃそりゃあ!? と言わずにはいられない、「我々からすれば」愉快な下着屋たちの珍道中。
しかし一方で、それだけではない。因縁ある怪物に立ち向かう少女の物語。精緻かつ鮮やかなアクションシーン。そういった正統派の魅力すらも、この作品には十二分に込められている!
果たしてこの先どうなるのか。どうなってしまうのか。
もはやパンツから目が離せません。