第3話 御神籤
潮江天満宮の宮司 宮地氏は、長兵衛の親戚筋である。
仲人もしてくれた有難いお人で
坂本家にとっては、生き字引のようなお方である。
本日は、宮地のおんちゃんも忙しい。
拝殿でのお祓いもあるし、豆まきもある。
二人がお参りをしている間も、忙しそうに指図している
おんちゃんが見えた。
幸は、御神籤を引き、食い入るように中身を改めている。
長兵衛は、又、日を変えて伺おうと振り返った。
幸が、なにやら青ざめた顔色でさきほどの御神籤を
樹に結び付けているが、うまく縛れない。
長兵衛が、手を添えて小枝に結わえた。
「おう、おう、お二人、仲が、えいのう」
宮地のおんちゃんが傍に来て、声を掛けてくれた。
「いつもお世話になりまする」
と、長兵衛が頭を下げると
「なんちゃあ、なんちゃあ そんな他人行儀なこと、しなや。
今日は、どうしたがぜよ、二人して」
「はあ、ちくと先生にご相談が・・・・」
幸も行儀良く両手を前で合わせて恐縮している。
「人生はのう、真剣に生きないかんけんど
深刻になったらいかんぜえ」
「はあ・・・」
「まあ、母屋にぜんざいをこしらえちゅうき、食べて行き。
今日は、落ち着いて話が出きんき、わしが2,3日うちに
行くわよ」
「お忙しいところ誠に・・」
「なんちゃあ、なんちゃあ、たまたま今日が忙しいだけで
普段は、暇を持て余しちゅうき心配しな。
2,3日のちでもかまんかえ?」
「ありがとうございます」
二人して、母屋のぜんざいを戴き、帰りの天神橋で
幸が言った。
「おまさん、すまんけんど、もうひとつ別の神さんとこへ
連れて行っとうぜ」
「何?なんつぜよ?神社の梯子かよ?」
「さっき引いたおみくじ、・・・凶、やったんよ」
「ええーっ? あーーっ、 ほんでか、妙に顔色が
冴えんと思いよったんよ」
「妙に不安で・・・・」
「他へ行くちゅうてもこの近所やったら山内神社しか
ないぜえ」
「・・・・・・・」
「まあ、気にしなや。そんな事もあるわえ」
「・・・・・」
幸の機嫌が直らないので、仕方なく二人は
鏡川の北にある山内神社に再びのお参りをした。
幸の引いたおみくじは、中吉であった。
幸はその御神籤を大事に持ち帰り
庭の梅の樹に結わえた。
その梅の樹の小枝にに、メジロが二羽、どこからともなく
現れて、土佐の春を告げている。
幸は、障子越しにそれを眺め
小さな溜息をついた。
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