第37話 龍馬変身

 土佐 鏡川 夕方の嵐は、やっと治まり、雲間に夕焼けの橙色が見てとれる。


 和馬が松の樹の大きな根っこに辛うじて、綱を括りつけ舟を停めた。

堤を走り抜けて九反田(くたんだ)の庄屋宅に飛び込んだ時には

夕暮れが迫っていた。


 丁度、嵐を避けて集まっていた近在の百姓達に運ばれて

龍馬は一晩庄屋で寝かされた。


外傷は無かったが、意識が戻らず一人で、うめき続けた。


 本町の坂本家に使いが走り

長兵衛や兄姉達、小西の先生、天満宮の宮司まで駆けつけた。


翌朝早く、龍馬の意識が戻った。


「おうおうおう、龍馬!気がついたかや?」


長兵衛の声かけに龍馬はかすかに微笑んだ。

その直後、再び安心したかのように眠り始めた。


小西の先生が

「もう大丈夫ぜよ。みな安心しい。気は戻っちゅう。

 次に目覚めたら、白湯を飲ませちゃって」


 その日の夕方 龍馬は家に帰り着いた。


母屋の玄関で幸はずっと待ち続けていた。


「龍馬  龍馬  龍馬!」

龍馬を一目見た幸は、玄関のたたきで失神した。


長兵衛が急いで離れに寝かしつけて

坂本家は、てんやわんやの大騒動であった。


無事に帰れた龍馬を皆が取り囲む。


「頭は大丈夫かえ?どうもないかえ?」


「おう、大丈夫ぜ。げにまっこと恐かったぜ」


「よう命があったわ。ほんまに。わたしゃあ

明日天満宮にお礼に行くぜ」


「良かった 良かった。ほんまに良かった」


「命拾いのお客をするぜよ。今おるもんでやるぜ。」


「よしよし、やるぜよ。飲もうじゃいか。

 皆で飲むぜよ」

「えいのう、えいのうほんまに目出度い!」

口々に皆が龍馬の生還を祝ってくれて

土佐の夜は、更けて行った。


 勝手口の和馬と二人の少年に笑顔を見せて

龍馬は大きく深呼吸をした。


「明日、堤から飛び込んじゃるき、見にきいよ」


少年達はお互いに顔を見合わせてキョトンとしている。


??? 龍馬の何かが、変わった・・・。


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