第39話 剣筋

 「龍馬が変わったぜよ」

「おう、わしもそう思う。背も高うなって来て

 おせ(大人)らしゅうなって来た」


「妙に顔つきまで変わってきたぜよ」


「ほんまじゃのう。たいしたもんじゃわ」


「あれは、長さんを抜くぜ」


「うんうん、わしもそう思う」


もっぱらの噂は、龍馬が着々と一人前になるための

修行をこなしている事を証明していた。


 事実、この頃に龍馬は、長兵衛に剣の手ほどきを

受けている。


乙女に習っているとは聞いてはいたが

剣筋は、かなりのものである。


 まず何よりも身体に無駄な力みがない。

腕や肩に固さが見られない。


剣の握りもしっかりしている。


これは、来年くらいには、誰か他人に任せて

鍛えてもらえば、ものになるやも知れぬ。


長兵衛の見抜いた龍馬の素質は、間違いではなかった。


 乙女が薙刀の免許皆伝となり、一度、鏡川の土手で

立ち合わせてみたが、龍馬は、一歩も引かなかった。


普段よりも少し長めの木刀を器用に裁いて対抗した。


最後には何本か決められたが、その剣筋は

誰もが認めるものであった。


 子供の頃とは、目の輝きが違う。


普段は、余分なことは何も喋らぬが、此処一番では

大人顔負けの自説を展開する。


「土佐は小国、日本も狭い。世界に負ける」


暇さえあれば、世界全図を眺めて、うんうんと

うなっている。


それでいて、思いついたように海に行く。


遠くは、安芸まで行く。


近くは種崎、桂浜で泳ぐ。


 水練の腕前も相当なものになり、この間は

種崎と桂浜の間を泳ぎ切ったらしい。


激しい潮に流されながらも、誰の助けも借りずに

一人でやり切ったそうだ。


・・・こんまい時は、この子は、どうなるろうと心配したけんど

取り越し苦労じゃった。

龍馬は、まだまだこんなもんじゃないぜよ・・・。


 長兵衛は、龍馬に大きな希望を感じた。








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