第9話 やまもも
幸は、寒くて夜明けに目が覚めた。
梅雨だと言うのにこの冷たさ・・・。
身体が冷えている。
チビが傍に居てくれるお陰で何やら
救われる思いがする。
その時節、天保六年は、大飢饉の年でもあり
冷害、水害、火山の噴火等、日本全体が
不安と恐怖の二重の暗雲に覆われていた。
そんな世情でも、自分はこうして休みながらの毎日を許されているし
土佐坂本家は隆盛を極めている。
これも本家の才谷屋、ご先祖の方々のお陰と
幸は、秘かに手を合わせるのであった。
・・・・・どうか丈夫な子が授かりますように・・・・・。
冷夏は、時に幸の身体にとっては有難い気候となった。
例年のような猛暑が来ることもなく
過ごしやすい日々が続いた。
鏡川、北側の岸辺には、大きくて立派な山桃の樹が5本ほどあり
幸が望むと、長兵衛が枝ごと獲って、すぐに食べさせてくれた。
山桃は、粒が大きく、黒ずんでいるものに独特の甘みがあり
それらは、獲り難い上の枝に固まっている。
ある時、長兵衛は、木登りに長けた少年に
枝の先にあるのを獲ってくれるよう頼んだことがある。
「おんちゃん、あの辺のは、獲りにくいき、枝ごと揺すってみるぜ。
足元に落ちるき、着物、気つけちょってよ」
少年は、器用に山桃の樹に登り、横合いから枝を揺すり始めた。
「おいおい、山桃の樹は、さくいきに、太い枝でも簡単に折れる。
あんまり、がいにせられん。そおっとなあ、上手になあ」
バラ、バラーッと山桃の実が落ちてくる。
二人はそれを夢中で拾った。
「おまさん、なんか、餅まきみたいやねえ」
幸も上機嫌であった。
土佐は、まだ平穏であった。
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