第22話 母との間合い

  極めて緩やかで、暖かい・・言わば海の中に居るような感覚。

その感覚がものすごく好きで、龍馬はいつまでもその気持ちを

味わいたかった。

手放してはならない貴重なもの。

それが自分の傍にある間は、何もかもが愛おしい気持ちになれる。


だが、ひとたびそれが自分から離れてしまうと

なかなか戻って来てくれぬ・・・。


頼りない不安が、全身を襲う。

何を持ってして、その不安に対処するか・・・。


幼い龍馬には、為す術がない・・・。


乳母にしがみついている間は、それでも何とか気持ちの安らぎを

得られるけれど、乳母が帰り、母と離されるとたちまち不安が

押し寄せて来る。


姉の乙女が、一生懸命あやしてくれるのだが

残念ながら、かゆい所に手が届かない・・・。


そういう点では、この世に生まれ出る前の方が

まだ気持ち的には、楽であったように思える。


 何故、母は、いつも自分の傍に居てくれぬのであろうか・・・。

乳児から幼児に成長を続ける龍馬の心には

常に一定の距離を保つ母の姿があった。



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