第18話 南国土佐に雪が降る

 幸は、食事を無理してまでも、母乳を出そうと努めたが

やはり年齢のせいか無理であった。


乙女の授乳で世話になった南の乳母に改めて

お世話願う事とした。


一人では何かと不便でもあるので

北の乳母もお願いした。

南の乳母が来られない時に代わりに来てもらう。


何としても自分の手で龍馬を育てたかった幸であるが

これだけはどうしようもない。


 龍馬は、南の乳母にすぐ慣れたようで

元気にお乳を吸っている。


 それを眺めて幸せそうな幸ではあるが

体調は、決して良くはなかった。

十分休養を摂る様に長兵衛からも言われていたし

誰に気兼ねのいる身分でもなかったが

今ひとつ気分が冴えない。


身体の芯に疲労が残っていて

何をするのもしんどいようになった。


女中頭が、日に何度となく世話してくれて

自分の用は足せるのだが、龍馬の世話が辛い。


南の乳母は、6人もの子育てを一人でこなした

働き者で、龍馬の世話を小まめにやってくれる。


出来るならば自分も乳母のように動きたいのだが・・・。


春も近いというのに

膝にチビをのせて縁側で日向ぼっこする日が増えた。


「チビよう、チビは、気楽でえいねえ。

 わたしゃあ、おまんが羨ましいわ」


「ニャアゴ」


「龍馬は、南の乳母を母親じゃと思いゆうきに

 妙にあたしを見る目が冷たいようで」


「ニャアゴ」


龍馬は、来る人来る人に誉められる。


愛らしい笑顔が、来る人を魅了した。


「この子は、女にもてるぜよ」


「女泣かせの龍馬ぜよ」


「まあ、きれいな赤ちゃん!抱かして、抱かして!」

まだ首も十分に据わらないうちから

近所の女の人に可愛がられた。


女の子が三人続いていたので

今回の出産は、「どりゃ、どんな男の子かのう」で

男でも見に来る者が増えた。


離れで眠ることの多かった龍馬は

母屋で皆に囲まれて1日を過ごすようになった。


乳母と女中達に龍馬を託した幸は

何やら手持ち無沙汰で心細い。

かと言って、母屋に出向いて人の相手をするのも

気が重い。億劫なのである。


 天保七年も天候は不順で、南国の土佐にも雪が降った。

この冷たさが、出産直後の幸には害を為した。




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