EX 新生活1
「そんじゃ式も終わったことだ。行くとするか」
「はい!」
誓いの儀式を終えて。ダストさんが差し伸べてきた手を私は握る。そのまま引っ張られ教会の外へと向けて走る──
「だ、ダストさん!? いきなり何を……!」
「その格好で走れるわけないだろ。お前は素直に俺に抱かれてろ」
──ダストさんに私はお姫様抱っこされていた。
「そ、そう言われたら言い返せないけど………うぅ…恥ずかしいよぅ……」
「そうか? 俺は全然恥ずかしくねぇが」
「と言いつつちょっと顔赤くなってません?」
きゃーきゃーと騒ぐ式の参加者たちの間をダストさんは走り抜ける。ゆっくりとした走りでもそう大きくはない教会だ。すぐに外へと出た。
「ミネア! 準備は良いな!」
その声に応えるのは白銀のドラゴンさん。空から舞い降りた大空の支配者は、私たちが乗りやすいように地に伏せてくれる。
「あるじ、これ!」
「ありがと、ハーちゃん」
私たちがミネアさんの背に乗り終えたころには式の参加者たちもみんな教会の外へと集まる。花嫁衣裳のままダストさんの腕に抱かれながら、私はハーちゃんからブーケを受け取った。
「そんじゃ、族長後のことは頼んだぜ?……族長? なんだよ、そっぽ向いて」
「いえ、私はもう族長ではありませんからね。それにあなたと私の関係を考えればもっと相応しい呼び方があるのでは?」
「えーと……親父さん?」
「もう一声」
「ちっ……わーったよ。んじゃ……頼むぜ? 義父さん」
「任されました」
「それじゃ、お母さん、リーンさん。あおいとハーちゃんの事お願いします」
「うん。可愛い孫娘の事だもの。頼まれなくてもしっかり可愛がるわ」
「族長の仕事やあおいのこと考えたらこれが二人でゆっくり過ごせる最後の時間かもしれないからね。こっちの事は気にせずしっかり過ごしてきなよ」
ミネアさんがいるから二人きりとは微妙に言えないし、スケジュール考えたら全然ゆっくりは出来ないけどね。まぁミネアさんは多分空気読んでくれるし、楽しい時間になるのは間違いないから問題はないけど。
「ハーちゃんもあおいのことよろしくね?」
「ん、まかせてあるじ」
胸を張るハーちゃんは本当に可愛くてなんだか頼もしい。こんな姉がいるあおいが少しだけ羨ましくなるくらいだ。
「…………ダスト……さん? その……行く前にあおいのこと抱いて行ってくれる?」
「それは構わねーが…………お袋さん? 怖いんだったら無理しないでリーンにでも任せれば……」
おっかなびっくりな様子であおいをダストさんに差し出すお母さん。男性が苦手でお父さん以外には近づけないお母さんにしてみればかなり無理した行動だ。
「ん……大丈夫。だって、ダストさんは家族だもの。家族を怖がってなんていられないから」
「…………、だったら、俺の事は呼び捨てで頼むわ。義理の母親…………義母さんにさん付けされるのはむず痒いからな」
…………、呼び方、かぁ……。
「ん? なにボーっとしてんだよ、ゆんゆん。三日間だけとはいえ娘との別れだ。ちゃんと可愛がってやれ」
あおいを抱きかかえるダストさんが、少しだけ心配そうな顔をしてそういう。
「ごめんなさい。…………ごめんね、あおい。少しの間……うぅん、きっと今回だけじゃない、何度もあなたのことを寂しい思いさせるかもしれないけど」
あおいやハーちゃんを連れて行くという話はダストさんと私の中であった。むしろその前提でずっと話をしていた。でもその話をお母さんやリーンさんにしたら止められた。一生に一度の事…………こういう時の為に家族はいるんだからと。
これから先、こういうことが何度もあるんだと思う。私が族長としての役割を果たすためにあおいを寂しがらせて……その度にお母さんやリーンさんにその穴を埋めてもらうことが。
「母親失格かもしれないけど…………それでも私はあなたの事愛してるから」
心苦しさはある。でもそれが私の選んだ道だ。
「愛して…………あなたが自慢できる立派な族長になって見せるから」
親が族長だったことで私は小さい頃何度も寂しい思いをした。でもお父さんやそれを支えるお母さんを恨んだことは一度もない。
非常識でも族長として里をまとめ率いている二人は私の自慢の両親だった。
だから、私はその座をいつか継ごうとそう思い続けたんだから。
「……じゃ、そろそろ行くぞ」
「はい」
あおいがダストさんからリーンさんに移る。移った時に少しだけぐずったけど、ハーちゃんがよしよしとしたらすぐに笑い声に変わった。
「出発だ、ミネア! 世界一周の新婚旅行に!」
翼を羽ばたかせ、魔力によってその巨体が大空へと舞っていく。私はダストさんに抱きかかえられながら家族や友達……私たちの為に集まってくれた人たちに手を振った。
「…………ねぇ、ダストさん。一つだけお願いしていいですか?」
手を振り続けながら。私はダストさんに話を切り出す。
「んだよ? お前の頼み事って言われるといろいろ嫌な予感がするんだが……」
「別に難しい頼み事じゃないですよ」
うん。ハーちゃんの事でダストさんが凄い大変な目に遭ったのは分かってるけど、そんなに毎回身構えられても困る。
「ただ…………せっかく結婚したのに呼び方が出会った頃から変わらないのはちょっと寂しいかなって」
今日、私たちの関係ははっきりと変わった。なら、それに合わせて呼び方も変わってもいいんじゃないだろうか。
「ま、お前がそうしたいならそうすればいいんじゃないか? 別にお前になら何と呼ばれてもいいさ」
「それじゃあ…………ダス君って呼んでいいですか?」
あ、ダストさんの顔が苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「……………………好きにしろ」
「はい、好きにします」
ダストさん…………ダス君は、甘やかしてくれるお姉さん系に弱いから。ろくでなしなこの人の手綱を握るためにも年下の姐さん女房を目指したい。
それに、普段はろくでなしでも、もしもの時大切な人を守るためなら誰よりも頑張る人だから。そんな時疲れたダス君を癒してあげられる存在でありたいと思う。
「本当、お前には頭が上がらなくなりそうだな」
「大丈夫ですよ。私ももう離れるのが考えられないくらいあなたにやられちゃってますから」
だからきっと私たちの間に上下関係はない。それが恋人で悪友だった私たちの夫婦の形だろう。
「本当に…………幸せです」
「……そうか。じゃ、その幸せを分けてやらないとな」
話している間に、ミネアさんの上昇の動きは止まっていたらしい。ここからは世界を一周するために飛んでいくことになる。
「はい。……これを受け取った人が幸せになれますように」
願いを込めて私はそれからウェディングブーケを落とす。
それは紅魔の里に伝わる言い伝え。花嫁が投げたブーケを受け取った女性が次の花嫁になる。
本当は後ろを向いて投げたりするみたいだけど、私たちは空高くからそれを落としていた。
「じゃ、もう行くぜ?」
「はい」
誰が受け取ったか少し気になるけど、時間はあまりない。三日で世界一周するんだから過密すぎるスケジュールだ。
「…………でも、誰が受け取ったのかも気になるけど、そもそもちゃんと誰かが受け取れるのかな?」
当然ながら空高くから落とせば風の影響を強く受けるわけで……。
「ま、大丈夫だろ。それくらいで諦めるような奴らじゃねぇし」
多分一番争うのはめぐみんとアイリスちゃん。地味に本気で狙ってるのがダクネスさんで…………もしかしたらアクアさんも狙ってるのかな?
あとは微妙に婚期を気にしてるレインさんに若返ったとはいえ結婚願望は相変わらず強いルナちゃんあたりもあわよくばと狙ってるかもしれない。
ウィズさんはいつも出会いを求めてるけど争いは好まないしバニルさんに誂われて参加するかは微妙な所だ。
「お前的には誰が本命だ?」
「…………そけっとさんかなぁ」
でも、誰が受け取りそうかと聞かれたら私は里で一番美人と評判の占い師さんを推す。
「その心は?」
「風の魔法が里で一番得意ですから」
そろそろ里一番のニートとゴールしてもいい気がするしね。
────
「リーンさんは参加しなくていいの?」
竜に乗り空へと昇っていく娘に手を振りながら。花嫁の母親は赤子を抱く隣の少女に話しかける。
「あたしは…………いいです。言い伝えは聞きましたけど、別に今は結婚したいとか全然思えないし」
花嫁のブーケが落ちてくるのを待つ未婚の女性たち。その輪に加わらず、リーンは花嫁と花婿が遠くに上っていく姿を寂しそうに見つめるだけだ。
「…………、ねぇ。リーンさんはどうしてあおいやジハードちゃんを預かるって言ったの?」
「だって、新婚旅行ですよ? 子どもがついていったらそれは家族旅行になる。一生に一度のこと……二人の思い出を作って欲しかったから」
そう前にも言ったはずですけど、とリーン。
「うん。リーンさんがそれを本気で言ってるのは分かってる。私が聞きたいのは、そう思える理由。…………リーンさんもダストさん……ダストの事が好きなんでしょう?」
「…………はい、好きですよ。ずっと認められなかっただけで……ずっと好きだった」
「じゃあ、どうして……?」
辛いはずでしょう、と。
「でも、あたしはゆんゆんの事も好きだから。大好きな二人が幸せになれるなら辛くてもいいかなって」
それに、とリーンは続ける。
「あの子はあたしを裏切らなかった…………どこまでも誠実でいてくれた。だから…………あたしはあの子を裏切れない。親友として、今は家族としても」
空からブーケが降ってくる。風に揺られながらも大きくずれることなくまっすぐに。
(…………こっちにくる?)
それはリーンの元へと来ていた。少し動いて手を伸ばせば簡単に取れるように思えた。
リーンはそれに無意識で手を伸ばそうとして──
「…………、大丈夫だよ、あおい。お母さんはいなくてもママはちゃんといるから」
──ぐずりだす赤子に自分の手が何を抱いているか思い出す。
風が吹く。リーンの元へと落ちてきていたそれは、風に乗り彼女の元から離れていく。けれど、もう彼女はそれを目でも追おうとはしなかった。
そこに幸せはあるのかもしれない。それがいらないと言ったら嘘になる。
けれど、ここにある温かさを……託された命を放ってまで追いかけるものとは思えなかったから。
「知ってますか? ダストってあたしのこと好きだったんですよ?」
「ええ、知ってるわ。その気持ちが今も変わっていないってことまで」
「だから…………はい。今はそれでいいかなって。あたしは負けたんじゃない…………ただ、勝てなかっただけだって」
それを自分の幸せにするつもりはないけれど。でもそれが慰めにはなると。
「…………、一緒に探しましょうね、リーンの幸せを。きっと見つか──って、どうしたの? いきなり笑いだして」
「くすくす……いえ、やっぱり親子なんだなって」
昨夜、花嫁に言われたことを思い出して笑いだすリーン。
「でも…………はい。よろしくお願いします、お義母さん」
空を見上げる。そこにはもう白銀の竜に乗った花嫁と花婿の姿はない。
そのことを寂しいと思う気持ちはある。辛くないと言ったら嘘だろう。
でも、後悔する気持ちだけは一つもなかった。
その日から三日の間。世界各地では大空を翔る白銀の竜の姿が目撃されたという。
──ダスト視点──
「あー……やっぱ三日で世界回り切るのは流石にきつかったか。体が重い」
「確かに疲れたね。でも……楽しかったよね?」
「それは聞くまでもねぇだろ」
里に帰ってきた俺たちはミネアから飛び降りる。二人分の体重とはいえ、着地の時に少しだけふらついちまったし、思った以上に疲れてるらしい。
「あれ? そう言えばミネアさんは降りてこないの?」
「ん? ああ、あいつもずっと人を乗せて飛んで疲れてるだろうからな。休む前に思いっきり自由に飛びたいんだろ」
三日間ずっと移動の連続だったからな。観光してたりする時間も当然あったし夜もちゃんと休んじゃいたが、それだけに移動は本当に全力だったし。
「そういうことなら、先にありがとうって言っておきたかったのに……」
「別にいつでもいいだろ。遅くても夜にはミネアも帰ってくるだろうし」
家族で一緒に暮らしてんだ。そんなに気を使うことはない。
それに、地獄でのことを経てあいつもゆんゆんのことを俺の伴侶として認めてる。気にしすぎる方が失礼ってもんだろう。
「そっか。…………ところで、ダス君? そろそろ降ろしてくれない?」
「んー……なんか降ろしたらマジで新婚旅行終わる気がしてだな。もうちょいこのままお姫様抱っこされててくれねぇか?」
「もう……お家に入るまでだからね?」
「了解」
と言っても、族長宅は目の前だから本当すぐなんだが。
「ただいまー」
「おう、お帰り」
家に入りゆっくりとゆんゆんを降ろす。
「もう……ダス君?」
「はいはい、俺もただいまっと」
「はい、お帰りなさい。…………誰もいないのかな?」
俺らの帰宅の声に応えるものがない。なんかトラブってんのかね。
「声……はするね。家に誰もいないって事はないみたい」
「じゃあやっぱなんかトラブってんのか」
とりあえず声のする方に行ってみるか。
「あ、ダスト、ゆんゆん。お帰り。ごめんね、お迎えできなくて」
「いや、リーン。それは別に構わねぇが…………この状況は何だ」
居間には普通に家族の姿があった。あおいを抱くリーンにその隣にジハード。義父さんと義母さんの姿はないが部屋にいるかでかけてるんだろう。
問題は──
「お前、ロリーサ。そのどっかで見たことある幼女はなんだ」
「それは私が聞きたいですよー……」
──ロリーサの後ろに隠れてる、小さな幼女の存在だ。
「ナイトメア……だったか?」
俺に話しかけられてナイトメア?はジハードより少し小さな体をびくっと震わせる。
「ナイトメア? 何言ってるのダス君。ナイトメアは馬のモンスターだよね?」
「いや、それは俺も知ってるがリリスがそう言ってたんだよ」
サキュバスと同じ夢魔……列記とした悪魔らしいんだよな。
「あー……メア様はサキュバスと違って受肉していない完全な精神生命体ですからね。馬のモンスターはバニル様と同じような仮の姿だと思ってもらえれば」
「ああ、そういうことか…………ん? ナイトメアって別に固有モンスターじゃなかったよな?」
普通に何度か討伐されたり複数体が確認されてたはずだが。
「メア様は一人でナイトメアという種族を背負っていますから。今も地上でナイトメアは人に悪夢を見せているはずです」
「普通に極悪非道の化け物じゃねぇか」
いや悪魔がそういう存在なのは知ってるが。何でそんな物騒な奴が家にいるんだ。
『あぅぅ…………いじめる?』
……まぁ、びびって震えてるこの幼女がそんな物騒な存在には全く見えないんだが。
「で? ロリーサ。説明しろ」
「私にもよく分かってないんですよー……。リリス様がメア様の面倒を見るようにと私に命じられただけで」
「…………何考えてんだ、リリスの奴」
バニルの旦那と処遇を決めるとか言ってたのは覚えているが。その処遇がロリーサに面倒を見させる? 訳が分からん。
「おい、ゆんゆん、お前はどう──って、こら。何してんだお前」
「んー……何ってあおいの事抱いてあげてるだけだけど?」
「ずりぃだろ! 俺だってあおいやジハードを抱っこしてやりたい……って、そうだな。先に俺はジハード抱っこすりゃいいのか」
リーンの傍にいるジハードに向けて俺は手を広げる。ジハードは俺の意図が分かってかすぐにとことこと走ってきてくれた。
「ん……らいんさま、くるしいよ?」
「んー…………悪い悪い。久しぶりだったから。いい子にしてたか? ジハード」
「ん。ちゃんとあおいのこと、みてたよ?」
「流石お姉ちゃんだな」
本当ジハードは賢い子だ。世界一可愛いし…………いやでもあおいも世界一可愛い気がするんだよな。どうしよう、俺の娘たちが可愛すぎて困る。
「ダス君、ハーちゃん私にも抱かせてね?」
「おう、俺にもちゃんとあおいを抱かせろよ?」
三日って短いようで長い。楽しくてあっという間だった新婚旅行だが、娘たちに会えなかった時間は想像以上に長く感じた。
「──って、こっちの話忘れてませんか!?」
「あー……ロリーサ? この親ばか二人相手するだけ無駄だって」
「うぅ…………いえ、別にこれ以上話せることないですけど、なんか納得いかないというか……」
「あおいもジハードちゃんも可愛いから仕方ないって」
「…………リーンさんもなんだか親ばかになってません?」
ひとしきりあおいとジハードを可愛がって。ロリーサとナイトメアの件は俺じゃどうしようもなかったから一人だけ家を出て里の中を歩く。
今頃ゆんゆんたちは増えた子供含めてどう育てていくか話し合ってることだろう。
子育てを手伝うつもりは一応あるが、女が三人以上揃って話してる所に男の俺が入るのはどう考えても邪魔だし、決まったことをあとで教えてもらうつもりだった。
「……って、なんだ? あんな建物里にあったか?」
歩いて数分。族長宅からそう離れていない場所で見慣れない建物を見つける。
「いや……見覚え自体はすげぇあるな」
似たような建物をアクセルの街じゃ毎日のように訪れてたし。
「冒険者ギルドへようこそ! ご用はクエストですか? 酒場ですか?」
「…………、何してんだよ? フィー」
その建物に入ってすぐに俺を出迎えたのは見覚えのありすぎるウェイトレス。フィーベル=フィール……俺の義理の妹みたいな奴だった。
「見ての通りウェイトレスの仕事ですよ? お姉ちゃんがセレス家に嫁いでも相変わらずフィール家は没落気味で出稼ぎが必要ですから」
「おう、とりあえずお前がまともに答える気がないのは分かったわ。責任者呼んで来い」
ここが冒険者ギルドだというのはよく分かった。何故かフィーがその酒場で働いてるのも百歩譲っていい。
問題はなんで紅魔の里にいきなり冒険者ギルドが出来てるのかということだ。族長の夫である俺が知らないってどういうことだよ。
「えっと……ギルドマスターは今前族長夫妻と会議中なので…………ルナちゃんでいいですか?」
「…………あいつもいんのかよ」
というか、義父さんと義母さんが会議中って…………あのおっさんの企みか? 親としては割とまともな人だが紅魔族は紅魔族だからな……。
「ま、ルナでいいか。どこにいるんだ?」
「もちろん、ルナちゃんの特等席です」
そう言われて思い浮かべる場所は決まっている。
ギルドの受付、そこには机の上を片付けているルナの姿があった。
「てわけだ。説明してもらおうか」
「? ダストさん、旅行から帰ってこられたんですね」
「おう。しっかり楽しんできたぜ」
「お土産は私はいりませんけど、フィーにはちゃんと上げてくださいね?」
「おう、心配しなくてもお前らにもちゃんと…………じゃねぇよ!」
何を話し逸らしてんだこの守備範囲外受付嬢は。
「お土産ないんですか? 流石アクセルの街で随一のチンピラとして名をはしていただけはありますね……」
「いや、そもそも俺はお前らがここにいるのすら知らなかったのにお土産用意してるわけないだろ」
……まぁ、ゆんゆんが念のためにとおかしいくらいお土産買いこんでるから渡せないことはないんだが。長いことぼっち生活してたからか人付き合い関係のあいつの念のためは本当におかしい。
「? 知らないとは? 『冒険者ギルド紅魔の里支部』。そのスターティングメンバー表はあらかじめ渡していたはずですが」
「少なくとも俺はそんなもん見た覚えねぇな。そもそも里にギルドが出来るのすら知らなかった」
多分、ゆんゆんも知らなかっただろう。族長が知らないってどうかと思うが…………あのおっさんは絶対これは自分が族長時代の仕事だ云々言って笑ってごまかすに違いない。
「ああ……だからウィズさんに頼んで三日で建てるというスケジュールだったんですね」
「ウィズさんって事は…………旦那も絡んでそうだな」
「ご想像の通りです」
旦那の考えそうなことだ。というか旦那が主犯な気がする。
「とりあえず、何となくは事情が見えた。でも一応ここの説明を頼むわ」
一応これでも族長の夫だ。しっかりと状況を知っとく必要がある。
「はい。先ほども言いましたがここは冒険者ギルドの紅魔の里支部です。規模は小さいですが、基本的にはアクセルの支部と同じ機能だと思っていただければ大丈夫です」
「そういや、アクセルのギルドはベルゼルグの中でも王都に次いで大きかったな」
始まりの街。そう呼ばれるアクセルの街は全ての冒険者の始まりの地だ。当然新米冒険者が多く、最終的に滞在することになる王都の次に冒険者が多い。
…………まぁ、例の店の影響で新米冒険者以外もたくさんいるしな。
「けど、なんで今更冒険者ギルドなんて出来たんだ?」
「前々から計画されていたことではあるんですよ。高性能な武具や魔道具が作られる紅魔の里。そこに冒険者ギルドがあることは商業的に大きな意味を持ちますから」
「ま、クエストの仕組みを考えれば確かにな」
例えば紅魔の里の武具を輸送するクエストを受けたとする。その場合王都でクエストを受けた奴は王都と紅魔の里を往復する必要がある。
だが、里にギルドがあるなら里で受けた輸送任務を王都で報告して報酬を受け取れる。そこから別のクエストに向かうことも可能だ。
「そして、なぜ今なのかと聞かれれば…………ダストさんならあの話を知ってるんじゃないですか?」
「…………、やっぱりベルゼルグとあの国の戦争か」
「冒険者ギルドは中立です。ですが、だからこそいち早く状況を把握する必要があります。国の境界であるこの里にギルドを建てる必要がある……そういう状況だと思ってください」
不可侵条約があるからその間は大丈夫な可能性が高いが、その後は保障出来ない状況なんだろう。
…………あの兄弟子夫婦は何で普通に俺の結婚式出てたんだ。
「ま、大体の事は分かった。でも良かったのか? 一応お前はアクセルの冒険者ギルドの看板受付嬢だったろうに」
「それですよ。不思議な話なんですが、アクセルの街で受付嬢してる人はいつまでも結婚できないのに、他の街のギルドに移ったらすぐに寿退社するってことが多々あるんです」
「…………そ、そうなのか」
どう考えてもサキュバスサービスが原因だな。本当にお世話になりました。
「なので、是非と希望して移転してきたんです」
「変人ぞろいの紅魔の里でいい人見つけられるとは思えねぇけどなぁ……」
「これからは里に訪れる冒険者の方も増えるでしょうし。それに…………妹分であるフィーを一人で行かせるのも嫌でしたから」
……ってことは、フィーはルナに関係なくこっちに来るつもりだったって事か。その理由は…………まぁ、考えるまでもないか。
「がきんちょ受付嬢のくせにお姉さんぶってんじゃねぇか。見た目的にはお前の方がガキっぽいのに」
「あーう~! 頭を回さないでください~!」
ぐるぐるとルナの頭を揺らしてやる。若返ったルナはなんていうか、揶揄ってやりたくなる変なオーラを出している。実際に揶揄う半分以上の理由は行き遅れ時代のこいつに手玉に取られてこともあるんだろうが。
「はぁ……はぁ……なんでしょう、欠片もダストさんに女性扱いされてない気がします」
「守備範囲外の女を女性扱いなんてするわけねぇだろ」
今のルナくらい見た目がエロければ目の保養くらいにはなるが。
「別にダストさんに女性扱いされたいとは思いませんけど、子ども扱いされるのは普通に屈辱です……」
同じようなことを昔のゆんゆんも言ってたな。でも守備範囲外は守備範囲外なんだからどうしようもない。
「そういや、受付はお前だけか? 一応受付机は二つあるみたいだが」
「あー……そっちですか。さっき出勤してきましたし、そろそろ出て来るんじゃないですかね?」
「ふーん。アクセルからの移転か? だとしたら顔見知りだから楽だが」
クエスト受けるときは偽名の事もあって大体ルナに頼んでたが、顔くらいは当然知ってる。
「いえ、アクセルのギルドから来たのは私とフィーだけです。本部から来てるギルドマスター以外は全てこっちで雇う予定です」
「てことは、紅魔族の受付って事か?」
「いいえ、紅魔族の方でもないですよ?」
? 里で雇うのに紅魔族じゃねぇだと? 変人揃いの紅魔の里にいる普通の人間なんて紅魔族と結婚した俺みたいな物好きしかいないはずだが……。それにしても大体は里の外で暮らすからほとんど見かけないってのに。
「あれ? ライン? こんなところでどうしたの? まだギルドは準備段階で実際に始まるのは来週からだけど……」
「そうなのか? さっきフィーが普通に営業してる感じの接客してたが…………て、は?」
いつもの声に普通に答えを返そうとして。その途中で異常に気づいた俺は振り向いた先で絶句する。
「どう?どう? ライン。お姉ちゃんの受付嬢の服似合ってる?」
「似合ってる似合ってないで言えば当然似合ってるが……そうじゃなくてだな!」
世界一綺麗なドラゴンであるミネアが人化してる姿だ。似合わない服があるとしたらそれは服のセンスが壊滅に悪い時だろう。
……いや、今は本当そんなことどうでもいいんだった。
「うん。ということで、私、ギルドで受付嬢の仕事することになったの」
「ミネアさんには前々から話をしていたんですよ。最初はジハードさんを雇う案もあったんですが、流石に幼すぎるということで」
そういや、ドラゴンハーフの受付嬢は見つからなかったがそれに近い受付を俺対策で雇うとか言ってたか。クォーターでも見つけたかと思ってたが、人化したドラゴンかよ。
……って、だからそんなことはどうでもいいんだよ!
「なんでミネアが人化してんだよ! 俺はお前を人化させた覚えはないぞ!?」
ミネアとは竜化してる状態で別れたきりだ。であればふらっとエンシェントドラゴンが遊びに来てたり、ある可能性以外人化してるわけないわけで……。
「ああ、それ? うん、自分で人化したわよ?」
「つまり……?」
確かにミネアは竜失事件以降じゃ最長齢クラスの中位ドラゴンだった。そして俺が何度も竜化や人化をかけていたのを考えれば、それを覚える可能性がないとは思わない。
だが、それにしても……
「ライン。誇りなさい。シェイカー家のドラゴン、ミネア=シェイカーはこの世界で唯一の上位ドラゴンなったわ。分かったらもっとお姉ちゃんを敬うこと」
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