第11話 メンバー集合
「それで? 今日ここに旅の準備して集合としか聞いてないんだけど、これからあの国にどんな感じで行くわけ?」
アクセルの街の入り口で。隣国への出発を前にしてアリスさんはそんな質問をダストさんにする。
「それしか聞いてないって…………おい、ゆんゆんもっとちゃんと説明しろよ」
「私もちゃんと説明したかったですけど…………そもそもダストさんからも旅の具体的な日程とかは聞いてないじゃないですか」
「…………、そうだったか?」
「はい」
コクリとうなずく私にダストさんは大きなため息を付いて、
「だったら、ちゃんと聞いとけよ。俺じゃなくてもレインとかアイリスとかからよ」
そう返す。
「そう言われたら全く持ってその通りなんですけどね。正直アレの訓練で精一杯でそんなこと気にしてる暇がなかったと言うか……」
アレが出来るようになるまで毎日ヘトヘトだったからなあ……、つまり一回だけ出来た昨日までそんなこと考える暇なかった。
「はぁ……ま、今更どうこう言っても仕方ねえか」
「というより、あんたがちゃんと話してなったのが7割くらい悪いわよね? なんであんた自分は悪くないみたいな感じなのよ」
「いいんですよ、アリスさん。実際私がちゃんと聞いてればそれで済んだ話ですし」
いつもどおりに見えるけど、いろいろあったらしい故郷への旅。ダストさんも心の中が穏やかじゃないのは想像がつく。
「そう? ま、私も別にどうでもいいんだけど…………やっぱりあなた甘いわね」
「甘いってーか……、こいつはお人好しすぎんだよ」
「あの……? 何で私お二人に呆れられてるんですかね?」
別に優しいとか心が広いとか褒めて欲しいわけじゃないけど、呆れられるのはなんか釈然としない。
「ゆんゆんがお人好しぼっちなのは今更だから置いとくとして……。この後は紅魔の里でアイリスやレインと合流だな。そんで里で足りないものとか揃えたら馬車でまっすぐあの国へ向かう」
「アイリス……この国の王女ね。強いって話だけどどれくらい強いか楽しみだわ」
「アイリスにいきなり襲いかかったりすんなよ。したらすぐパーティーから追い出すからな」
「しないわよ。まぁ、休憩中とかに手合わせを願おうかとは思ってるけど」
アイリスちゃん、わりと戦闘大好きっ子だから普通に受けそうだなぁ。
勇者の国のお姫様と魔王の娘の戦い…………うん、想像するだけでもお腹痛い。
「つーか、お前紅魔の里行って大丈夫なのか? 目の色変えてるとは言え、お前の顔里の連中に覚えられてんじゃねえの?」
一度紅魔の里はアリスさん率いる魔王軍の手で制圧されている。ダストさんの言う通り、多少時間をおいたとは言え、髪の色を変えたくらいの変装ならすぐに気づかれる可能性はたしかに高い。
ただ……
「まぁ、多分大丈夫じゃないですかね? あの里って敵意がないなら魔王だろうがなんだろうが歓迎しちゃいますし」
むしろ魔王とか邪神とかそういうの大好きな人達だから……、前魔王の娘、そして次期魔王の可能性が高いアリスさんが普通にやってきたら大喜びすると思う。
そしてアリスさんが買ったものや置いていったものを新たな観光資源にする。あの里はそういう里だ。
「ですって。私としてはむしろ喧嘩売ってくれたほうが嬉しいんだけどね。正直私の部屋覗き見してたこと思い出すとまだムカつくし」
「すみません、すみません。里のものとして謝りますから里で暴れるのだけはやめてください」
流石にアリスさん一人で里を制圧できるとは思わないけれど、これ以上アリスさんと里の関係を悪化させたくもない。
「…………、やっぱ魔王軍が人類に戦争仕掛けてたのってお前ら紅魔族とアクシズ教徒のせいじゃねーの? 流石の俺も女の部屋除く施設を観光地には出来ねえぞ」
「わりと否定出来ないのが辛い……」
7割くらいはアクシズ教徒の人たちのせいな気がするけど、私の里もいろいろやらかしてるからなぁ……。
「そこんとこどうよ? アリス」
「さあ? どうかしらね。私はまだ魔王になれてないからそのあたりは知らないわ。まぁ、魔王軍に所属していたほぼ全員がアクシズ教徒や紅魔族に鬱憤が溜まってたのは間違いないけど」
「本当謝りますからこの話はもうやめませんか!?」
そんな里の次期族長の身としては耳が痛すぎる。
「それで? 里に行くんならテレポート?ちょっと買いたいものあるし行くならさっさと行きたいんだけど」
私の懇願を聞いてくれたのか、それとも単に飽きたのか。何事もなかったかのように話を戻すアリスさん。
……話が逸れたのは凄くありがたいんだけど、やっぱりちょっとだけ釈然としない。
「ちょっとだけ待ってくれるか? もう少ししたらここから出発するもう一人のメンバーが来ると思うからよ」
「もう一人のメンバーってロリーサちゃんですか? アリスさんとは会ったことないでしょうしここで顔合わせしてた方がいいかもしれないですね」
テレポートの定員的にアリスさんを先に送る手もないわけじゃないけれど、これからパーティーを組むのだから早めに顔合わせはしていた方がいい。
「ロリーサ? 聞いたことない名前ね。今回の旅に連れていくんだからそれなりの実力者なんでしょうけど」
「あいつが実力者って言われるとすげえ違和感あるが……まぁ、それなりに強くはなったな」
そういえば、真名契約でロリーサちゃんが強くなったとは聞いたけど、実際どれくらい強くなったんだろう? ダストさんが認めるくらいだから結構強くなってそうだけど。
「お待たせしました。ダストさん、ゆんゆんさん」
そんな話をしているうちに。話題となっていたロリーサちゃんが白を基調にした魔法使いの服に身を包みやってくる。
相変わらずロリーサちゃんは可愛いなぁ……。ダストさんは否定するけど可愛さの中に色気もあるし、女性として私にはない魅力がある。
「おう、遅いぞロリーサ。結構待ったから昼飯奢れよ」
「もう、ダストさんたらまたそんな憎まれ口叩いて……大丈夫だからね? ロリーサちゃん。ちゃんと時間通りだしダストさん口ではこう言ってるけど、全然待ってないから」
本当、ダストさんの口の悪さは少しも治らない。行動は少しはまともになってきてると思うんだけど……。
「くすっ……大丈夫ですよ、ゆんゆんさん。ダストさんがこういう人なのは私もよく知ってますから。それより、そっちの方も今回の旅のパー……ティ……??…………。ふえぇぇっ!? なんでバニル様の店にいる怖い人がここにいるんですか!?」
そんな叫びと一緒にダストさんの後ろに隠れて震えるロリーサちゃん。
「…………おい、アリス。お前こいつに一体何したんだよ?」
「何したって言われても、私はこんな子知らない…………って、んー? あぁ、もしかして私がいる時に一度だけウィズの店にきたちっちゃいサキュバス?」
そんなロリーサちゃんを覗き込むようにしてマジマジと観察するアリスさん。
ロリーサちゃんの震えがもう凄いことになってるんだけど、本当アリスさん何をしたんだろう。
「ねぇ、私あなたに何かした覚えないんだけど、なんであなたそんなに怯えてるの?」
「だ、だって私がお店に行った時、バニル様と店主さんの喧嘩をゼーレシルト様を使って無理やり止めて……!」
「「あー…………」」
私とダストさんの納得の声が重なる。
あれを見たんならアリスさんを怖がるのも仕方ないかなぁ。正体を知ってる私達にしたらそういうこともあるだろうと諦めが付くけど。
「? あのきぐるみ悪魔を使って喧嘩を止めたからってなんなのよ? そんな理由で怖がられるとか納得行かないんだけど」
「ぴぃぃっ!? す、すみません! 謝りますから殺さないで下さい!」
「おい、アリス。あんまりこいついじめんなよ。一応俺はこいつのご主人さまみたいだからな。こいつが困ってるなら助けねえといけないんだ」
助けるという言葉の通り、ダストさんはアリスさんの視線から守るようにロリーサちゃんの前に立つ。
めんどくさそうな声色をしているのとは裏腹に、その姿勢はどう見ても本気で…………まるでハーちゃんを相手にしているときのようにロリーサちゃんを守っている。
「別にいじめてなんか…………って、ご主人さま? んー……、なるほど。掻き消えそうなくらい微弱な悪魔の魔力に人間とドラゴンの魔力……あんた、このサキュバスと契約したのね」
「そういうことだ。……って、だからそんなジロジロ見るなって」
「ふーん……悪魔がドラゴン使いと契約したらこんな魔力混じりになるのね。興味深いわ」
「だから……! おい、ゆんゆん、見てないでアリスを引き離すかロリーサかばうかどっちかしろ!」
「は、はい! その、アリスさん、これから時間はありますし、今はそれくらいで……」
ダストさんの言葉に慌てて私も間に入る。ロリーサちゃんは私にとっても友達なんだから、困ってるなら羨ましいとか思っている場合じゃなかった。
「それもそうね。ただちょっと観察してるだけなのにそんな反応なのはやっぱり納得行かないけど。……とりあえず自己紹介。私はアリスよ。魔物使いのアリス。これから少しの間よろしくね小さなサキュバスさん」
「うぅ……はい。私はサキュバスのロリーサです。よろしくお願いします」
自信満々な様子で自己紹介をするアリスさんと、やっぱり怯えてる様子のロリーサちゃん。
アリスさんは一旦ロリーサちゃんへの興味を抑えてダストさんとこれからのことを話だし、
「あの……ゆんゆんさん。アリスさんって一体何者なんですか? 普通の魔物使いがバニル様とリッチーの戦いの間に入り、伯爵級悪魔の本体を盾のように扱うとか無理だと思うんですけど……」
逆にロリーサちゃんはそんなアリスさんのことが気になるのか、恐る恐る私に聞いてくる。
「えーと…………あの人は一言で言うと次期魔王? 魔王軍筆頭幹部だった魔王の娘さんだよ」
「…………、すみません、帰ってもいいですか?」
「だ、大丈夫だって! アリスさんは基本的に敵みたいだけど悪い人じゃないから」
正直私もアリスさんのことは苦手だけど、悪い人ではないのは分かる。苦手意識は別にしても、立場が違いすぎて仲良くなるのは難しいかもしれないけど。
「うぅ……次期魔王って、そんな人が一緒だなんて聞いてませんよー……」
「えっと……うん。それに関してはダストさんじゃなくて私が悪いから謝る。ごめんね」
アリスさんが来るのをダストさんに黙っているのを条件にパーティーに入ってもらったけど、だからこそ、ダストさん以外のメンバー……少なくともロリーサちゃんには私から伝えておくべきことだった。
いつもはめぐみんとかに気を利かせすぎて重いとか言われる私だけど、今回は本当気が利かないことばかりだ。
「ぅ……ゆんゆんさんが謝らないでくださいよー。勝手ですけど、ゆんゆんさんに謝られたら私もまた謝らないといけないような気に……」
「? ロリーサちゃん、何も悪い事してなくない?」
だからそんなに気まずそうな顔しなくていいと思うんだけど。
「悪いことはしてないんですけど…………その、私ってサキュバスじゃないですか? それでダストさんと契約もしてると。男の人と契約してるサキュバスとその契約者の関係……特に真名契約だといわゆるあれな関係であることが多くてですね?」
「…………それは一般論なんだよね? だったらやっぱり悪いことは何もないよ」
ロリーサちゃんの言いたいことは何となく分かる。ダストさんの恋人である私に謝りたい気持ちも。
ダストさんとロリーサちゃんが契約したと聞いて覚えた感情を思えば、全く見当違いの謝罪でないのも確かだ。
でも、やっぱりロリーサちゃんが謝る必要はない。だって、ロリーサちゃんはなにも悪いことはしていない……ただ、誠実にダストさんの友達であろうとしているのは分かるから。
「それとも、それは一般論じゃなくて、ダストさんとロリーサちゃんも同じなの? それなら私も怒るけど」
「それはまぁ……ないですね。今までも……多分これからも。ダストさんにとって私はずっとそんな存在です。……今回の契約できっとそう決まりました」
「だったら、やっぱり何も謝る必要はないよ」
ダストさんの性格を考えればロリーサちゃんの言ってることが間違っていないのは私も分かる。あの人は自分の庇護下にある存在には本当に優しいから。
少なくとも、ロリーサちゃんが私に負い目を感じてしまうくらいには。
「それでも、ロリーサちゃんが気になるって言うならさ、私のお願いを聞いてもらってもいいかな?」
「お願いですか?」
だから、私はそんなロリーサちゃんの気が済むように。前々から気になっていたことをついでに解消することにする。
「うん。ちょっと私にロリーサちゃんのほっぺたを引っ張らせてくれない?」
「…………はい?」
「ダストさんってよくロリーサちゃんのほっぺたを引っ張ってるじゃない? 実際どんな感じなのかなぁって」
ダストさん曰くどこまで引っ張っても伸びる凄いほっぺたみたいだし。どんな感触なのか凄い気になってるんだよね。
「そ、それでゆんゆんさんが納得するならもちろんいいですが…………大丈夫ですか? 何かストレスとか溜まってるんじゃ……。やっぱりダストさんの恋人はいろいろ大変なんですね」
「ダストさんの恋人は確かにいろいろ大変だけど今は別にそれでおかしくはなってないよ!?…………多分」
…………ストレスはともかく、ダストさんの影響で自分の感覚がおかしくなってる可能性はわりとありそうだけど。
「と、とにかく、……いいんだよね?」
「はい。ただ、その……できればあまり痛くしないでもらえたら嬉しいです」
「それはもちろん気をつけるよ。それじゃ……失礼して……」
ロリーサちゃんの許可を受けて。私はゆっくりとそのぷにぷにしたほっぺたに自分の両手をゆっくりと寄せていく。
「うわぁ……すごい…………こんなに柔らかいんだ」
そうしてたどり着いたほっぺたは、ダストさんがいつも引っ張って遊ぶのも納得の柔らかさだった。
引っ付くんじゃないかと思うほどの弾力と、力を受けて変わる柔軟さ。その矛盾を秘めた感触はなるほど、確かに引っ張ればどこまでも伸びるんじゃないかと思ってしまう。
……………………。
「
「わわっ、ごめん。魅惑の感触すぎてつい」
私としたことがあまりの感触に我を忘れて引っ張りすぎちゃった。
「…………何やってんの? お前ら?」
「あ、ダストさん。ちょっと前から気になってたことを解消してました」
アリスさんとの話を終えたのか。呆れ顔でやってきたダストさん。
「何言ってるかよく分かんねえが……お前もあんまりこいついじめんなよ」
「大丈夫ですよ。ダストさんがするのと同じくらいしか私もしませんから」
「? まぁ、それなら大丈夫か」
「それ全然大丈夫じゃないですよ!?」
ダストさんの後ろにまた隠れて叫ぶロリーサちゃんを見つめながら。私はまたいつかほっぺたを触らせてもらえる日を楽しみにするのだった。
「それでダストさん。紹介も終わりましたしそろそろ出発ですか? それならハーちゃんを起こしますけど」
例によって待ってる間にドラゴンの姿で眠っているハーちゃん。テレポートを使うなら負担を減らすため人化させたいし、起きてもらった方がいい。
……寝てる所を人化させたら地べたに倒れる幼女の完成だからなぁ……。流石にそれは可哀想だし周りの目も痛い。
「頼む。……で、ここからが予定からの変更点なんだが、ゆんゆんお前テレポートを使わないでいいぞ」
「使わないでいいって…………あ、もしかしてアリスさんがテレポートを使えるんですか? それで紅魔の里を登録してると」
ハーちゃんを起こしながら私はダストさんの言葉の意味に当たりをつける。さっきアリスさんと話してた時にそういう話をしてたんだろう。
「そういうことだ。魔力を消費すんなら魔法使いのお前より、魔法も使えるアリスに消費させてたほうがいいからな」
アリスさんって聞いた話だと使える魔法の数はウィズさん並みで、いろんな武器をダストさんが槍を使うのと同じくらい使いこなせるらしいからなあ。仮に魔力を使い切っても武器で十分以上に戦えるし、強化能力を考えればそこにいるだけで凄い戦力だ。魔法が使えなくなったらほぼ無力な私よりも魔力を消費するリスクは薄い。
「それじゃあ先に誰が飛びますか?」
テレポートの一緒に飛べる定員は4人だから、私、ダストさん、ロリーサちゃん、ハーちゃん、アリスさんの5人が同時には飛べない。
「ん? 何でそんな面倒なことするのよ。5人一緒に飛べばいいじゃない」
そのはずなんだけど、アリスさんは私の言葉に不思議そうな顔をしている。
「え? だってテレポートの定員は4人じゃ……」
「ああ、なるほど。スキルシステムで覚えたテレポートにはそんな制限があるのね。簡単に覚えられるみたいだし多少は羨ましかったけど、言うほど便利でもないのかしら?」
「テレポートなんて高等魔法をスキルシステムなしで覚えるのは人間じゃほぼ不可能だぞ。魔族でもテレポートと上級魔法以上、両方使えるのなんて魔王軍でも幹部級以上だろ」
「まぁ、そうね。テレポートを使える子は基本的にそれ特化だし。幹部以上でもテレポートと上級魔法以上両方使えるのは私と父s……魔王、ウィズくらいだったわね」
……えっと、つまり?
「スキルシステム……冒険者カードを使わないでテレポートを覚えたアリスさんは定員がないということですか?」
脱線気味のアリスさんとダストさんの話要約するとそうなる。
「飛ばせる人数は術者の技量によるけどね。私なら一応10人位なら一緒に飛べるわよ」
この人やっぱりチート過ぎませんかね。スキルシステムでもポイントを消費すれば飛べる人数や転移地点を増やせるけど、10人も飛ばせるとなるとよほどテレポートの才能がないと普通のレベルアップのポイントだけじゃ無理な領域だ。
「あの……ゆんゆんさん。私、場違いじゃないでしょうか? こんな凄い人と一緒のパーティーに私もいていいんでしょうか?」
「…………いいんじゃないかなぁ。凄さで言えばダストさんとハーちゃんも割とおかしいし」
正直私もなんか場違い感を感じてきているけど。…………この人達にアイリスちゃんも加わるのかぁ。
レインさんとロリーサちゃんと一緒に普通の魔法使い同盟でも組もうかな。
「よし、じゃあ飛ぶか。アリス頼む」
ハーちゃんの人化も終わって。飛ぶ準備を終えたダストさんはハーちゃんの手を繋ぎながらアリスさんの横に立つ。それにならって私とロリーサちゃんもアリスさんの周りに近づいた。
「はいはい。頼まれなくてもパーティーメンバーの間はやってあげるわよ。『テレポート』」
…………普通にテレポートを無詠唱かぁ。
アリスさんのチートっぷりをまた深く実感しながら私達はアクセルの街から紅魔の里へ飛んだ。
…………というか、これアリスさんはいつでも紅魔の里へ複数人で飛んでこれるってこと?
これ本格的にアリスさんが敵対しだしたらまずい案件なんじゃ…………。
「さてと……ここがアイリスたちとの合流地点のはずだが、まだアイリスたちは来てねえみたいだな。俺はとりあえず髪を黒色に変えて貰ってミネアを迎えに行くが……お前らはどうする?」
「わ、私はダストさんについていきます!」
里の隣国へ続く入り口で。ダストさんの質問に真っ先に答えるのはロリーサちゃんだ。
……アリスさんと一緒に居たくないんだろうなぁ。
「んー……私もいい武器がないか里を回ってみようかしら? 紅魔族ってふざけた奴らだけど、武器とかの品質はいいのが多いし」
アリスさんの言う通り紅魔の里に出回ってる武器は王都と比べても遜色のない高品質なものばかりだ。それくらい紅魔族が作る武具の品質は高い。
…………ただ一人
「お前はどうすんだ? ゆんゆん」
「私はここでハーちゃんとアイリスちゃんたちを待っています。アイリスちゃんに会うのも久しぶりで楽しみですし」
最後にあったのは魔王討伐戦の前だから……私の体感では一年以上も前だ。数少ない友達のアイリスちゃんと早く会いたかった。
「そうか、じゃあジハードのことは頼むぞ」
そう言ってダストさんは手を繋いでいたハーちゃんを私任せ、ロリーサちゃんを連れて里の中心へと向かっていく。
アリスさんもその後ろをゆっくりと里を観光するように歩いていなくなった。
「ぅぅ……あるじ……ねむいぃ……」
「大丈夫? ん、抱っこしてあげるから皆が来るまで眠ろうか」
眠そうにフラフラしているハーちゃんを抱き上げて。私は皆を待っている間ハーちゃんを寝かせてあげることにする。
「んぅ……あるじ……だいすき…………すぅ……すぅ…………」
「本当、ハーちゃんは可愛いなぁ……」
抱っこしたらすぐに寝息を立て始めたハーちゃんの寝顔を眺めながらそう思う。最近里帰りをしたらお父さんやお母さんが私よりもハーちゃんを可愛がるくらいだし。
お父さんたちにしたら孫娘みたいなのもあるんだろうけど、あるえやねりまきもハーちゃんのことを猫可愛がりしてるから、身内贔屓なだけではないと思う。
「ゆ、ゆんゆんさん……? ダスト様と付き合い始めたとはレインから聞いていましたが……まさか、その子どもは……!」
ハーちゃんの可愛さに癒やされている私に掛けられるのは懐かしい声。可憐でありながら不思議と強さを感じる声に懐かしい友達の顔を思い浮かべながら、私は声の方を振り向く。
そこに待っているのはもちろん想像通りの──
「………………えっと………………アイリスちゃんだよね?」
「え、あ、はい。お久しぶりです、ゆんゆんさん。もちろんあなたのお友達のアイリス・スタイリッシュ・ソード・アイリスですよ? それより、その紅魔族の子どもはやはり……」
──とは言えない、大人の女性へと成長しつつあるアイリスちゃんの姿があった。
成長期だなとは思ってたけど、前あった時からこんなに成長してるなんて……。
「大きくなったね、アイリスちゃん。見違えちゃった」
「あ、はい。遅れ気味だった成長期がやっと来たみたいで…………。それで、その……抱っこしている子は……」
本当、アイリスちゃん綺麗になったなぁ。前は可愛いと言った方がしっくりしたけど、今は綺麗と言われてもしっくりくる。可愛さと綺麗さのいいとこ取りと言うか……流石は王族と言った美しさだ。
「ゆんゆんさん、お久しぶりです。ダスト殿から話は聞いていましたが、ゆんゆんさんもアイリス様に負けないくらいの成長ぶりですね」
「レインさん! お久しぶりです!……まぁ、私は人よりも一年以上歳を取っていますからね」
それでも、アイリスちゃんの変わりように比べたらそんなに変わってないと思うけど。レインさんの負けないくらいというのは多分お世辞かな。
「たった一年でそれほど綺麗になれるものなんですね……アイリス様といいゆんゆんさんといい、本当に羨ましいです。私なんてこの一年全く変化していないというのに……」
「れ、レインさんは初めてお会いした時から綺麗じゃないですか。すごく落ち着いたお姉さんって感じで、私結構憧れてるんですよ」
「つまり一年どころかそれ以上前から全然変わってないと。……劣化してると言われないだけマシでしょうか……」
何故だろう。今のレインさんからルナさんと同じ匂いがする。
「その……ゆんゆんさん? レインとお話している所悪いんですが、その子は……」
「あ、ごめんアイリスちゃん。ちょっとだけ家に帰ってきてもいいかな? せっかく帰ってきたし一応お父さんたちに顔だけ見せてくる」
最近は結構里帰りしてるから、私は今日くらい会わなくても寂しくはないけど。……お父さんたちの方が、ハーちゃんに会いたがってるからなぁ。
「あ、はい……。そうですね。娘や孫は可愛いものらしいですから。機会があるならちゃんと顔を見せたほうがいいと思いますよ」
「うん。私はともかく、この子……ハーちゃんの事は本当に会いたがってるからね、お父さんお母さん」
そうして好意に甘えて集合場所を離れ、家への道を辿る私とハーちゃん。
離れる時にアイリスちゃんが「やっぱり……」とか呟いてたけど、一体何がやっぱりなんだろう。
「ちょっと遅くなっちゃったかな……」
集合場所へと急ぎながら私はそう呟く。
挨拶をしに行ったはいいけど、お父さんがいつまで経ってもハーちゃんを離そうとしなくて時間が思った以上にかかってしまった。お母さんがお父さんを押さえつけてる間になんとか抜け出してきたけど…………もう皆揃ってるかな。
「ん……やっぱりもう揃ってるみたい」
ハーちゃんを抱えながら小走りをする私は、見えてきた集合場所にいる面々を見て焦る。
ダストさんにロリーサちゃん、アイリスちゃんにレインさん。そしてダストさんに抱きついている銀髪の女性。私達以外はもう完全に揃っているみたい。
…………って、銀髪の女性?
「だあ、もうくっつくな! 暑苦しいだろ!」
「もう、ラインったらまたそんなつれないこと言って……本当は私にくっつかれて嬉しいくせに」
「家族みたいなお前にそんな風にくっつかれても困惑するだけだっての!」
その銀髪の女性は長い髪を後ろで一本に束ね、後ろから胸を押し付けるようにしてダストさんに抱きついている。
年の頃はちょうどアイリスちゃんと私の間くらいかな? 少女と大人の女性の中間……どちらかと言うと大人側に近いくらいだ。
成長したアイリスちゃんも反則的な美しさだと思ったけど、銀髪の女性の美しさは間違いなく人外……人の姿をしていながら人とは思えない美しさを持っている。
それこそハーちゃんの可愛さに匹敵するようなくらい圧倒的な……。
「ん? ねぇ、ライン。あなたの恋人ちゃんが来たみたいよ?」
「お? マジか、だったらさっさと出発するぞ。これ以上お前にくっつかれたら戦う前から疲れちまう」
「もう……そんな恥ずかしがらなくてもいいのに……」
「姉みたいな相手に人前でこんな風にくっつかれたら恥ずかしいに決まってんだろうが!」
ダストさんがこんなに慌ててる姿久しぶりに見たなぁ……。
アリスさんや私にも多少は慌てさせられてるダストさんだけど、ここまで慌てることはない。私が知ってる限りじゃセシリーさんに慌てさせられてる時くらいだ。
「えっと…………ダストさん? その綺麗な女の人はいったい……」
「…………聞かなくても考えれば分かるだろ?」
私の質問に疲れた表情でそう返すダストさん。確かに考えれば……というか、見た瞬間から想像はついていたけど……。
「ん? 一応自己紹介したほうがいいの? 恋人ちゃんには何度も背中に乗せてあげてるし、すごい今更な感じなんだけど……」
背中にって……やっぱりこの人……いや、このドラゴンは……
「……ま、いいか。自己紹介して何か減るもんでもないし。私はミネア。シルバードラゴン一族のミネア=シェイカー。ラインの相棒兼姉みたいなものだから、これから改めてよろしくね恋人ちゃん」
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