第14話 再来
「ん……ふぁあ…………んぅぅ…………んぅ? あれ? ここは……?」
心地よい朝日に起こされて。目をこすりながら起きた私は見慣れない部屋に首をかしげる。アクセルで泊まってる部屋じゃないし、当然ダストさんの隣に潜り込んでいた時の馬小屋でもない。
「お、やっと起きたか。おはようさん。絵に描いたような寝ぼけた面してるな」
「あ、ダストさん。おはようございます。…………んー、あー……そういえば、ダストさんの故郷に来てたんでしたね」
私と同じベッドで目を開け横になっているダストさん。
そんなダストさんと私の間ですやすやと眠るハーちゃん。
隣のベッドではロリーサちゃんとミネアさんが並んで眠っている。
状況を確認する度に段々と昨日の記憶が思い出されてきた。
「それで、昨日はフィーベルさんの実家に泊まったと」
「王都の方のな。実家ってか別荘……王都での仕事のための住居らしいが」
「お家が二つもあるってすごいですねぇ……この家もすごい立派ですし」
「一応フィール家も没落気味とはいえ貴族だからな。ベル子の奴もよく見りゃ金髪だろ?」
金髪……そう言われてみればそうなのかな? フィーベルさんの髪の色は薄い茶と黄色の間のような色で、アイリスちゃんのような誰もが分かるような金髪じゃないけれど、金髪と言われれば確かにそうだと思える。
「そういえば、この家って誰も住んでないんですかね? 結局昨日この家に泊まったのって私たち5人とフィーベルさんだけでしたし」
私とダストさん、そしてこの部屋に泊まってる3人以外……フィール家の人はフィーベルさんしか泊まっていない。
「ちょろっとベル子に聞いたが一応この家はフィールの姉ちゃん……騎士やってるベル子の姉ちゃんが普段は住んでることになってるらしいぞ」
「ああ、なるほど。明日が結婚式らしいですし、式の準備で田舎の方の実家に戻っていなかったんですかね」
そう考えれば帰ってきたフィーベルさん以外いないのも分かる。
「……そのわりには普段人が住んでる気配がないってか…………あの男女な姉ちゃんも女だったってことかねぇ……」
「? どういう意味ですか?」
「気にすんな。知り合いの生々しいとこ想像すんのは微妙な気持ちになるよなってそれだけのことだ」
「?…………、あ……そ、そういうことですか」
ここに住んでるはずなのに住んでる様子がない。つまりは別のところに寝泊まりしているということで。明日結婚するという人が自分の家以外のどこで寝泊まりしているかと言われれば……。
「なーに赤くなってんだよエロぼっち娘が。俺がドン引きするくらいエロい癖に」
「私がドン引きするくらいの変態さんには言われたくないです」
いや、まぁ、うん。私がちょっとだけあれなのは否定しないけど。ダストさんにだけは本当言われたくない。
普段のセクハラが可愛く思えるくらいだからなぁ……。この間だって──
「──そ、それよりダストさん。王都についたらアイリスちゃんたちと別れちゃいましたけど、本当によかったんですかね」
と、これ以上思い出したらダストさんの顔もまともに見れなくなりそうだと思った私は、自分の思考の向きを変えるために強引に話を逸らす。
その内容はこの国の王都についてから別行動になったアイリスちゃんのこと。私たちは護衛としてついてきたはずなのに、王都につき、そこから王城に向かったのはアイリスちゃんとレインさんだけだった。
「ま、大丈夫だろ。王都の中でアイリスをどうこう出来る奴がいるとは思えねえし」
「確かに、ドラゴンナイトの人でも王都じゃその本領を発揮できないでしょうし、アイリスちゃんを力でどうこうはできないでしょうけど……」
ドラゴンを戦わせることができないのはもちろん、その力を借りることも王都……建物の中じゃ制限がかかる。
ドラゴン使いやドラゴンナイトはドラゴンから力を借りることができるけど、その力を借りるための繋がりは距離が離れるほど、そして障害物を挟むほどに弱くなるから。
ダンジョンとかではドラゴン使いが一般人と揶揄されるのは、実際ダンジョンではその力をほとんど発揮できないからだ。
……平原とかでの圧倒的な強さへのやっかみが半分くらいはあるんだろうけど。
(……この目の前の人はそんなことあんまり感じさせませんけどね)
流石にドラゴンと離れてダンジョンにもぐっていつも通りとはいかないだろうけど、多少距離が離れて建物を挟んだくらいじゃその強さが全然揺るがない。
聞いた話じゃ普通のドラゴン使いは建物の中ではまともに竜言語魔法を使えないらしい。使えるのはこの国ではライネルさんとあと一人だけで、その効果も普段の半分いくかいかないか。
少なくとも宿で寝ている下位ドラゴンの力を借りて、竜言語魔法によるイカサマでルーレットを百発百中出来るのはダストさんくらいだろう。
今回の旅でダストさん以外のドラゴン使いを知ったけど、知れば知るほどダストさんのでたらめさが分かる。槍使いとしてのダストさんも大概だけど、ドラゴン使いとしてのダストさんは本当に空前絶後の天才らしい。
最年少ドラゴンナイト。その称号は伊達でも酔狂でもない。ライン=シェイカーという稀代の英雄を一言で表すものなのだと嫌というほど理解させられた。
「でも、ダストさん。実力的にはそうでもからめ手をされたらアイリスちゃん危ないんじゃないですか? アイリスちゃん頭はいいですけど、結構世間知らずなところありますし……」
「アイリスも紅魔族でぼっちなお前に世間知らずとか言われたくないと思うが……。ま、そこはレインがいるから大丈夫だろ。レインは常識に囚われすぎてるきらいがあるが、判断力は悪くない。そういう対応こそ十八番だろうよ」
「そうだといいんですけど……」
ダストさんの話だとこの国の貴族ってベルゼルグの貴族よりも一癖も二癖もありそうな感じだし、心配はつきない。
「俺もどっちか一人ずつなら心配するがな。あの主従が揃ってれば滅多なことはねぇさ。目的を簡単に果たさせてくれるほど、この国も甘くはないだろうがな」
この国のことをよく知ってるはずのダストさんがそこまで言うなら大丈夫なのかな。目的……戦争を止めるのは難しいかもしれないけど、現状を悪くするような失敗はしないと考えていいのかもしれない。
「……心配といえば、アリスさんは大丈夫なんですかね? いえ、本人が大丈夫すぎるのは分かるんですけど、魔王の娘を一人自由にさせてて」
この場にいないアリスさんだけど、アイリスちゃんやレインさんと一緒にいるわけでもない。アイリスちゃん達と私たちが別行動することになった時、アリスさんは「ちょっと修行がてら色んな所探してくる」と言って一人いなくなってしまった。
その実力や頭の回転の速さには何も心配がないんだけど、その立場を考えれば何かやらかさないか心配でおなかが痛くなってくる。
「そんなもん俺が知るか。あいつが何考えてんのかなんて俺にも分かんねえっての」
「ですよねー……」
本当、アリスさんは何を考えてるんだろう。気持ちいいくらいに単純明快なようで、その実心の奥底は全く見せてくれていないような……。
今回の旅について来てくれたのも、報酬がいいのとアイリスちゃんに興味があったからだと思ってたけど、それ以外の目的があるのかもしれない。
「まぁ、あいつが何考えてるかは分かんねえが、義理とか約束は守る奴だ。今回の旅で俺らを裏切って襲ってくることはねえだろうし、あいつの力が必要な時にはちゃんと合流してくれるだろ。とりあえずはそれで納得しといた方が楽だぞ」
「そうします……」
それで納得するしかないんだろう。少なくとも今は。
「んぅ……あるじ、おは…よぅ……?」
「うん、おはよう、ハーちゃん。ハーちゃんが起きたってことはそろそろちゃんと起きないといけない時間ですね」
寝ぼけまなこをこすりながら挨拶をしてくれる世界一可愛い使い魔の姿に癒されて。私は本格的に起きる時間だと意識を切り替える。
ダストさんと取り留めなのない話をする時間はとても幸せだけど、それをずっと続けるわけにはいかない。
「だな。──おい、起きろミネア、ロリーサ。俺が起きてんのに幸せそうに眠ってんじゃねえよ」
「んー……おはよ、ライン。…………昨夜はお楽しみだったわね?」
「二人きりならともかくジハードやお前らがいてお楽しみができるわけねえだろ。……おい、ロリーサ、だからさっさと起きろ。起きねえとほっぺた死ぬほど引っ張るぞ」
「んふふー……ダメですよぅ、ダストさん。私が魅力的なのは分かりますが、ゆんゆんさんに悪──いひゃいいひゃい! いきなりなんなんですか!…………うぅ……なんかいい夢見てた気がするのに……」
「寝る必要がない悪魔のくせにふざけた夢見てるからだろ」
伸びをするミネアさんと、ほっぺたを押さえながらダストさんを恨めしそうにみるロリーサちゃん。寝起きの気分に大きな差がありそうだけど、二人ともきっちり起きたみたいだ。
「それじゃ、みんな起きたところで準備して朝ごはん食べに行きましょうか。フィーベルさんももう起きてますかね」
人が住んでないならこの家に食材とかはないだろうし。フィーベルさんもどこかに食べに行かないといけないはずだ。
泊まらせてもらったお礼もあるし、朝ご飯一緒に食べられないかな。
「さあな。……悪いが朝飯はお前らだけで行ってくれるか? 俺とミネアはちょっと行くところがあるからよ」
「行くって、誰かと会う約束でもしてるんですか?」
もしかして、この国のお姫様と……?
「ああ、セレスのおっちゃんとな」
「ほっ……なんだ、ライネルさんとでしたか。別行動はいいんですけど、どこで合流しますか? その約束ってどれくらいかかります?」
積もる話があるって言ってたし、すぐすぐ終わる約束でもなさそうだけど。
「…………俺の結婚式に参加しろって煩かったからなぁ。明日の夕方くらいまでは拘束されそうだな」
「となると……フィーベルさんの実家がある村で合流でいいですか。私もフィーベルさんのお姉さんの結婚式に誘われてて、フィーベルさんを村まで護衛することになってますから」
「その話俺は全く聞いてないんだが…………もしかしてこれ、おっちゃんとの約束なくても結婚式に参加させられる流れか」
「聞いてないって話なら、私もダストさんの話今聞きましたけどね。流れに関しては多分想像通りですけど」
少なくとも私はそのつもりだったし。
「ダストさん、私はどっちについていけばいいですか?」
「ロリーサはゆんゆんについて行ってくれ。大体はゆんゆん一人で事が済むだろうが、済まない事態になった時はお前が時間を稼げ」
「了解です!」
そう言って嬉しそうにビシッと敬礼するロリーサちゃん。
結局今回の旅の中では今までとそう変わってない所しか見てないんだけど、ダストさんに信頼されて任せられるってやっぱりロリーサちゃん真名契約で強くなってるのかな。
「じゃ、俺とミネアは行くぜ? セレスのおっちゃんを待たせるのはどうでもいいが、その愛竜待たせるわけにはいかないからよ」
「そんなこと言って……ライン、あなたライネルの相棒の背中に乗るのが楽しみで待ちきれないだけでしょ?」
「否定はしない」
あっさりとミネアさんの言葉を認めるあたり、ダストさんのドラゴン馬鹿は筋金入りだ。
「……というか、ライネルさんのドラゴンさんに乗って村に行くんですか? だったらフィーベルさんも乗せてもらえば早いんじゃ……」
そうすればわざわざ別行動することもないような。
「俺もそれ聞いたが、セレスのおっちゃん、ベル子に嫌われてるみたいでな。多分姉を奪われたって八つ当たりしてるだけだとは思うんだが、一緒に行くのはベル子が認めないんじゃねえか」
「なるほど」
私には姉妹っていないし、ベル子さんの気持ちがちゃんと分かるとは言えないけれど。でも大切な人が遠くに行ってしまう気持ちと言われればなんとなく想像ができる。
「それじゃ、ダストさん、ミネアさん。また村で」
「ああ、気を付けて来いよ」
そうしてみんなで二人を見送ってから私はふと思う。
(ダストさん、私が起きた時にはもう起きてたけど、いつ起きたんだろう?)
──ダスト視点──
「ふぁぁ~あぁ~……ねみぃ」
「おいこら、ライン。お前俺の話ちゃんと聞いてるか?」
フィール家の田舎の実家。ベル子の両親と次期当主の兄が住む家の客室で。眠気と戦いながら俺はセレスのおっちゃんと会話を重ねていた。
「悪い、今の話は聞き逃したわ。何の話だっけ?」
「あの銀髪の女性……ミアさんって言ったか? あの人は本当に誰なんだ。絶対どっかで会ってるはずなんだが、あんな綺麗な人記憶にないんだよ」
「あー……まぁ、そのうち嫌でも分かると思うぞ。というかあれこれ考えず直感だけで判断すればセレスのおっちゃんならすぐ分かるんじゃねえかな」
セレスのおっちゃんの言う銀髪の女性ミアは当然ミネアのことだ。俺より存在がバレちゃいけないミネアだし、偽名を使ってこっちから正体をバラすことはしない。
ぶっちゃけセレスのおっちゃんならバレてもいいとは思ってるが、竜失事件以降ドラゴンが人化するなんてありえない事だし、その常識に囚われている限り気づかないかもしれない。
「そうか……。まぁしかし本当にいい女性だな。人間離れした美しさもそうだが、武闘家としても筋がいい。まだ粗削りだが鍛えれば俺以上の武闘家になりそうだ」
「まだこっちに慣れてないだけで、戦い方自体は上手いやつだからな」
ジハードのような稀有な固有能力こそないが、ミネアは戦い方がずば抜けて上手い。だからこそ単純なステータスでは互角の相手を複数相手したり出来る。
人化してる状態じゃドラゴンの時と同じようにとはいかないが、それでも慣れさえすれば人間基準でトップクラスの武闘家になれるだろう。
「つーか、明日結婚するって男が何言ってんだ。フィールの姉ちゃんや両親に浮気してるって言いつけるぞ」
そりゃ、人化してるミネアが人間離れして綺麗なのは確かだが。
「結婚しようがしまいが、いい女性はいい女性だと褒めるのがいい男の条件だと俺は思うがな」
「それは確かにいい男ではあるかもしんねえが、いい旦那ではないんじゃねえか?」
「……それもそうだな。というわけでミアさんを褒めてたのは俺とお前の二人だけの秘密な」
……本当、セレスのおっちゃんは昔から変わんねえな。相変わらずの女泣かせのろくでなしだ。
「つーか、積もる話ってこんなどうでもいい話ばっかりかよ。だったら、ミn……ミアを別の部屋で待たせる必要なかったんじゃねえか?」
てっきり、お小言ばっかりでつまらないことになるから別れさせたと思ったんだが。
「……そうだな。そろそろ本題に入ってもいいころか」
セレスのおっちゃんから話があると言われたとき。俺はその内容に二つの予想を立てた。
一つはさっきも言った通り、俺が昔やらかしたことに対するお小言。
そしてもう一つは──
「──ライン。この国に帰ってこい。みんな待っている」
引き抜きだ。
「……今更俺が必要か? セレスのおっちゃんも分かってるだろ? 俺はこの国にいたころと比べて思いっきり鈍ってるって」
少なくとも槍使いとしての俺はあの頃と比ぶべくもない。
アイリスとの特訓、エンシェントドラゴンや死魔との死闘で大部分は取り戻したとはいえ、この国一番と言われた槍捌きにはまだ届かない。
「確かにな。昔のお前と比べれば劣ってるのは分かってるさ」
「だったら──」
俺の予想が正しいなら、この国は……騎竜隊は並ぶもののない強さを手に入れている。槍使いとして鈍っている俺を必要とする意味は薄くなってるだろうし、堕ちた英雄を引き抜くデメリットを考えれば、当然引き抜かない方に傾くはずだ。
「──この国には英雄が必要なのさ。強さはこの際関係ない。誰もが認める実績と名前が知られた英雄がな」
そんな奴お前しかいないだろ、とセレスのおっちゃんは言う。
「…………なんで、わざわざ英雄なんてもん必要としてるか知らねえが、俺はもう英雄として過ごす気はねえんだ」
俺は
ただ、自分の手の届く範囲で……自分が大切だと思える奴らを守れたらそれでいい。
「だから悪い。俺はこの国には戻れない」
「……分かってるのか? この国とベルゼルグは戦争になる。それも遠くはない未来にだ。その時に後悔しても遅いんだぞ?」
「後悔はするかもな。……でも、あいつを…………あいつらを泣かせるよりはマシだ」
「姫様を泣かせてもか?」
「あの人は俺の選択を笑って許すだろ」
そんでその後裏切り者と全力で殴ってくる。そんな人だ。間違っても泣くなんてタマじゃない。
「俺と戦うことになるかもしれないぞ?」
「その時は手加減してやるから安心してくれ」
基本的に戦争になんて参加するつもりはないが……俺やあいつらの大切なものを奪われるわけにはいかない。
その時はたとえセレスのおっちゃんが相手でも戦うだろう。
……この優秀すぎる兄弟子相手に手加減なんて出来る気は全くしないがな。
──ゆんゆん視点──
「フィーベルさん、凄く今更な質問いいですか?」
「? はい、別にいいですけど」
フィーベルさんの故郷への道を歩きながら。私は気になっていたことを質問することにする。
「なんで徒歩で移動なんですか? 竜車とは言わなくても馬車で移動すれば半日くらいで着きますよね?」
ダストさんと別れてからもう一日以上が経った。ピクニックのように外でみんなと一緒に昼食をとれて楽しかったし、夜は別の村できっちり宿に泊まれたから特に文句はないんだけど。わざわざ時間をかけて村への道を徒歩で向かうのには何か理由があるんだろうか。
「本当に今更ですね……。単純に村へ向かう馬車の定期便がなかったからですよ。田舎なので一週間に一度しか定期便が出ないんです。レンタルすれば話は別ですが……」
「そこまでするにはお金が足りないと」
定期便なら馬車もだいぶ安く抑えられるけど、レンタルするとなると価格が跳ね上がる。徒歩だと宿代が必要になってくるけど、それを考えてもレンタルするよりは歩いたほうがかなり安い。
「本当ならちょうど定期便に乗れるくらいに王都につけたはずなんですけどね。サラマンダーの件がありましたから」
そのごたごたで乗り過ごすことになったと。
「竜車は少し難しいですけど、馬車くらいなら私でもレンタル出来たのに……」
「流石に護衛をお願いしてる相手にお金を出してもらうわけには…………というか、一泊して徒歩であと1時間くらいの場所まで来てからそんなこと言われても反応に困るんですが」
はい。フィーベルさんのおっしゃる通りです。自分としても何聞いてるんだろうって質問でした。
「あはは……ウェイトレスさん、ゆんゆんさんはお話しする内容がなくなったから聞いたんだと思いますよ。ずっと楽しそうでしたし、あんまり気にすることでもないかと」
うん。ロリーサちゃんの言ってる通りだね。でも、仕方ないというか……ダストさんの話題を封印してたら最近の私にできる話のタネなんてほとんどないんだもん。
「そ、それじゃあハーちゃんの可愛さについての話を──」
「──あ、その話はもう5度目くらいなのでいいです」
「そんな!? それじゃあもう私にできる話が……」
「というか、別に無理して話す必要もないんじゃ……」
そんな悲しいことを言わないでよロリーサちゃん。リーンさんやめぐみん以外の同年代の女の子と話す機会なんて私にはほとんどないんだから。
……昔はめぐみんだけだったのを考えれば今の私はすごく恵まれてるなぁ。
同年代に限らなければロリーサちゃんともよく話せるし、ダクネスさんやアクアさん、ウィズさんとも会ったときに色んな会話が出来ている。
何より使い魔であるハーちゃんとはほとんどずっと一緒に過ごせているから。眠たがりなハーちゃんだし、いつも話せるってわけじゃないけど、その存在は私の寂しさを大きく埋めてくれている。今も私の後ろで眠っているけど、その寝息は私の大きな癒し──
「──って、あれ? ハーちゃん起きてるの?」
いつもならしている、小さく可愛い寝息が今は聞こえない。背中に背負っているからその顔は見えていなかったけど、振り返ってみればハーちゃんは目を開けて起きていた。
「ん……いま、おきました。あるじ、おろして」
「んー……別にこのまま背負っててもいいよ? あと一時間くらいで着くみたいだし、ハーちゃんくらい軽ければ全然重くないからね」
少なくともどっかのチンピラさんを背負うよりは楽だ。
「だめ……もうすぐ、くるから」
今回の旅の中で。私が分からないことがいくつかあった。
一つ。この国の思惑。勇者の国という最強の国相手に戦争を仕掛けようという無謀な考えを持ったのか。
一つ。アリスさんの隠された目的。報酬やアイリスちゃんへの興味以外の何を理由に、この旅に参加したのか。
そして一つ。異常ともいえる数のサラマンダーがなぜいたのか。本来火山などにのみ生息する火の精霊が、平原に大量発生した理由。
他にも分からない疑問はたくさんあるけれど、サラマンダーが発生した理由だけは分かった。…………分かってしまった。
「なんだか、急に暑くなってきましたね。もしかしてまたサラマンダーが近くにたくさんいるんでしょうか」
それは火の精霊、サラマンダーたちの王。数多のサラマンダーを引き連れて、火の海を築いていく存在。
「サラマンダーだけなら、ゆんゆんさんとジハードさんで何とでもなると思うんですけどね。ダストさんもアリス様も王女様もいない……私たちだけの時に遭遇するなんて不運すぎますよぅ……」
それはかつて最凶と恐れられた大物賞金首。冬の大精霊である『冬将軍』に並ぶ強さを持ちながら、慈悲など欠片もない凶暴な存在。
「あるじ、らいんさまがいないと、あれにはかてないよ……?」
それは火の精霊が人々の想いに影響されて集まった結晶。仮に討伐がなされようとも月日の果てに復活する存在。
その存在を示す名前を私は知っている。
「火の大精霊、炎龍……!」
それがかつて最年少ドラゴンナイトによって討伐された最凶の大精霊、その復活を観測した瞬間だった。
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