第13話 最優のドラゴンナイト
──リーン視点──
「いい加減機嫌治せよリーン。ダストに置いてかれていろいろ複雑なのはわかるけどよ」
朝のギルド。朝食を食べるあたしに、同じく朝食を食べるキースが面倒そうな顔して言ってくる。
「……別にダストに置いてかれたのはどうでもいいわよ。出発の時、あたしを起きないように無理やり寝かせていったのはむかつくけど」
実際にあたしを眠らせたのはロリーサちゃんの『スリープ』だけど、それが誰の差し金かは考えるまでもない。
「そうは言っても、そうされていなければこっそりとついていくつもりだったのだろう? やり方を手放しで褒めるつもりはないが、今回のダストの方針自体は俺も同意だ」
「テイラー……。別に、ついていくとかそんなつもりは…………。ゆんゆんやロリーサちゃんをちゃんと見送ってあげたかっただけ」
キースの隣に座るテイラーの言葉にあたしは何とかそう返す。
「……なら、いいが。どちらにしろ、今回のクエストは俺達には力不足だ。隣国との戦争を止めるための旅に、王女の護衛としてついていくなど俺達にはまだ無理だろう。足手まといにしかならない」
「つっても、テイラーはまだついていけるんじゃねえか? クルセイダーのテイラーならまだ護衛としてやれることありそうだが……」
テイラーはあたしたちに3人の中では唯一の上級職。実力も駆け出し冒険者の域は一番に脱したし、中級の冒険者の中でも上位くらいは既にあると思う。
「かもしれん……が、それでも足手まといにならないくらいだろう。ついて行っても邪魔にならない程度が関の山だ。ダストやゆんゆんとはそれくらいの力の差がある」
あたしたちももう中級冒険者。王都の最前線で戦う上級の冒険者の程ではなくても、それ以外の場所では主戦力として数えられるくらいの実力はある。
けど、ゆんゆんは最前線の中で切り札とされる紅魔族……その長となる存在で、ダストは一国単位の切り札……英雄クラスだ。
最前線で戦うことすら難しいあたしたちとは格が違う。
「……ごちそうさま。あたしはクエスト受けてくるけど……テイラーたちはどうする?」
朝食を食べ終えたあたしは、食器をもって立ち上がる。食器を返して向かうのはクエストが張り出されたギルドの掲示板。
そこに目ぼしいクエストがなければルナさんに相談しないといけない。
「付き合おう。リーン一人でクエストを受けるのも、キースと二人きりでクエストを受けるのも、どちらにしろ不安だ」
「おいこらテイラー。それはどういう意味だ。……ま、もちろん俺も付き合うぜ? 仲間なんだからよ」
そう。あたしたちはパーティーを組んでて仲間だ。一緒にクエストを受けて冒険をするのは当然のはずだ。
(……じゃあ、一緒にクエストを受けないダストたちは……?)
あの時ダストはあたしのこと『仲間』だってそう言ったけれど。本当にそうなんだろうか。
(あたしってダストのなんなの……?)
当然。答えられる人もいなければ口にも出さなかったその疑問に答えは返ってこなかった。
──ダスト視点──
「ダストさん? その仮面は何ですか?」
前方をふさぐ騎竜隊。この国の最高戦力である奴らがアクションを起こす前に、俺は用意していた仮面を被る。
「一応髪の色を黒にしたし大丈夫だとは思うんだがな。騎竜隊の奴らは顔見知りが多い……特に隊長であるセレスのおっちゃんは俺の兄弟子で両親が死んだ後の後見人だったからな。一応念には念をいれときたい」
バレたときはバレたで言い訳を考えているが。今回の旅の目的を考えればバレないに越したことはないだろう。
「いえ、変装用なのは分かるんですけど、そんなかっこいい仮面をどうやって手に入れたのかなって。紅魔族の琴線にかなり触れるんで売ってる所とか教えてほしいです」
「だったら最初からそう言えよ……いや、ぼっちのお前にそこまで期待すんのも酷か。この仮面なぁ……貰いもんだからどっかで売ってるかどうかも分かんねえな」
ぼっち言われてぽかぽか殴ってくるゆんゆんをスルーをしながら、俺はこの仮面を手に入れた経緯を思い出す。
まな板盗賊団を手伝ったときに、パッド盗賊から貰ったやつだから下手したら一品物の盗品か何かの可能性もあんのか。
……まさか神器とかじゃねえよな? あの胸が金床盗賊の正体とやってることを考えるとあり得ない話ではないから面倒だ。
「はぁ……あんたたちもう少し緊張感とかないの?」
「今更騎竜隊のメンツに会うのに緊張しろと言われてもな……まぁ、ゆんゆんはもうちょい緊張しろとは思うが」
「私は緊張もしてるんですけど、それ以上に騎竜隊の人たちがどんな人たちなのか凄い楽しみで……。だって人類最強戦力なんですよね? すごいかっこいいじゃないですか」
だから無駄にテンション高いのな。こいつはセンスが普通なだけでそういう所は普通に紅魔族してるから面倒というか可哀想というか。
「つーか、そういうアリスこそ緊張してる様子ねえじゃねえか」
ガチガチになってるレインや集中してる様子のアイリスに比べればアリスはいつも通りの自然体だ。
「そりゃ、私に緊張する理由はないもの。ま、私も紅魔族に並ぶ人類側の最強戦力がどんな奴らか興味はあるけど」
個人で見るなら紅魔族や騎竜隊よりも強いやつらはいる。だが、国や総軍という単位を使わないのなら、この二つの集団が間違いなく人類最強だ。
ちなみにアクシズ教団は人類側における最凶・最狂・最恐という迷惑集団で魔王軍すらまともに戦うことは避けていたらしい。あいつら本当どうにかしろよカズマ。
「んー……ドラゴンから降りて歩いて来てるのがいるみたいだけど、一人だけね。ちょっと老けてるけどライネルかな」
「セレスのおっちゃんか。一人ってことはいきなり襲ってくるってことはなさそうだな」
ミネアの言葉に俺は少しの安堵と今更ながらの緊張を感じる。
ライネル=セレス。俺の兄弟子で後見人だった男。そして騎竜隊の隊長でもある。
アリスにはああ言ったが、兄や親のような相手にこんな形で会うのには少しばかり後ろめたさのようなものがあった。
(……本当今更だな)
そんなのアイリスの護衛でこの国に戻ると決めた時……いや、この国を出ると決めた時に覚悟していたことだってのに。
「……ダストさん? 大丈夫ですか?」
「あん? 大丈夫って何がだよ?」
「いえ……なんか今つらそうな顔をしてる気がして……」
「気のせいだろ。てか、仮面してんだから表情なんてちゃんと分んねえだろ」
「それはそうなんですけど……」
納得してないような、まだ心配してるような様子で仮面の奥の俺の表情を覗こうとするゆんゆん。
本当こいつは……ぼっちのくせに人の心を読むのが上手いからめんどくせぇ。……いや、ずっと一人でいたからこそ、他人の感情に敏感なのかね。
「こちらと戦うつもりがない……なのに騎竜隊総出でやってきたとする…………レインはどう考えますか? と言っても、この仮定だとほとんど答えが決まっているようなものですが」
「そうですね。おそらくは私たちが先ほど倒したサラマンダーの群れを討伐に来たと考えるのが自然かと」
「やはりそうなりますか。……ダスト様はどう考えますか?」
この状況に対する主従の考察。その考えはほとんど俺と一緒だ。ただ一つ訂正を加えるなら……。
「あのサラマンダーの群れの数は異常だったからな。あいつらを討伐しに来たってのには俺も同感だ。ただ、ここから見えるドラゴンの数は8頭……つまりはドラゴン使いとドラゴン8組だ。騎竜隊は16組で構成された部隊だから総出じゃなくてその半数だな」
「あれで半数なのですか。……確かに、数を数えればそうだと分かりますが……」
「私もアイリス様ももちろん数字の上での話は理解していましたが……実際に見ると違いますね」
ま、人が歩いてくるにはちょっとした時間がかかるくらいには離れているのに、ドラゴンがその先を全て塞いじまってるからな。初めて見るやつが勘違いしても仕方ないだろう。
「けど、ダストさん。そのライネルさん……ですか? その人はなんで一人で歩いて来てるんでしょう?」
「さあな。向こうがどれだけ俺らの情報を掴んでいて、どういう想定をしてこっちに来てるか分かんねえから何とも言えねえよ」
ただ一つ分かっている事があるとすれば。
「ただ、どんな状況であれ、セレスのおっちゃん……騎竜隊隊長なら上手くこなすって向こうは思ってるんだろうさ」
俺がこの国で最強のドラゴン使いだったとするなら、セレスのおっちゃんはこの国最優のドラゴン使いだった。
俺と一回りしか年が違わないのに、俺がこの国を出ていく時点で騎竜隊の隊長だったことを考えれば、その優秀さは分かる。
こんな状況を対処させるならこれ以上ない人材だろう。
「失礼。このあたりにサラマンダーの大群が出現したと商人から情報があって来たのですが…………何かご存じありませんか?」
敵意がないとばかりにゆっくりと歩いてきて。セレスのおっちゃんはアイリスにそう質問する。
本当相変わらず嫌になるくらい優秀な人だ。俺らの挙動からアイリスがこっちの中心人物だって見抜いてるか。そしてそれが分かっているということはアイリスが何者であるかも恐らくすでに察している。
というより、これが公式な訪問である限り、そこまで気づいて察しない方が難しいだろう。
流石に仮面被ってる俺がラインとまでは見抜いてないと思うが……。
「この辺りにいたサラマンダーでしたら、私たちで討伐しました。うち漏らしが何匹かいるかもしれませんが……」
「なるほど。商人たちの報告を信じるならかなりの数だったはずですが……流石はベルゼルグの王女一行。凄腕が揃っているようだ」
やっぱりそこは見抜いてるか。その上で友好的来てるってことは少しは安心して良さそうだな。
セレスのおっちゃんは不意討ちするような性格でもなければ、この状況で不意討ちするような馬鹿でもないから。
「王女殿下を含め英雄クラス……いえ、それ以上が2名。最上級の魔法使い、槍使いに武闘家。貴族の魔法使いに、強そうには見えないのになぜか一番やばい気配のする幼女。本当によくここまで実力者を集めたものです」
ベル子を連れて行っていていないロリーサ以外の俺たちの実力を目算で測るセレスのおっちゃん。
やっぱアイリスとアリスの二人はセレスのおっちゃんから見ても別格か。
相性を抜きに考えればゆんゆんと竜言語魔法抜きの俺や人化してるミネアが大体同じくらい。
レインはサポート特化で、単純な強さは上級の騎士や冒険者に入れるかどうかってとこ。
人化してるジハードは能力抜きなら実際見た目通りなんだが…………能力考えるとやばすぎる。
この旅の中で俺が把握しているメンバーの能力とセレスのおっちゃんの目算は大体一緒だ。
「女性ばかりなのはどうかと思いますが、王女の護衛ともなれば強ささえあるなら女性のほうが好ましいのも確かですか。私個人の意見を言わせてもらうなら厄介除けにもう少し男がいたほうがいいと思いますがね」
……耳がいてーな。その辺全く考えず適当に強いやつら選んだからこのメンバーになったんだが。つってもこのメンバーについてける男なんて魔剣の兄ちゃんかバニルの旦那くらいしか思い浮かばねえんだよなぁ。ジャティスやベルゼルグの王様連れて行っていいならともかく。
そんで魔剣の兄ちゃんは実力は認めてるが正直いけ好かねえし、そもそも今どこにいるかも知らない。
バニルの旦那は頼んだけど忙しいって断られた。それでも旦那は報酬次第じゃついてきてくれそうだが……その場合はレインが泣くはめになりそうだしな。
結局このメンバーが最適とは言わなくても最良の結果ではあるんだろう。
「お気遣いいただきありがとうございます騎士様。……それで、そのお優しい騎士様は私たちをどうするおつもりなのでしょう? お一人で来たということは、敵意がないと思っても?」
「そう思ってもらって構いませんよ。王女殿下も知っているのでしょう? この国が勇者の国に戦争を仕掛けるのはまだ先の話です」
アイリスの言葉になんてことはない事のようにおっちゃんは言う。
あんまりと言えばあんまりな台詞と態度。場合によっては宣戦布告と取られてもおかしくない。
実際、よく分かってないジハードや、我関せずなアリス。複雑な立場の俺やミネアは落ち着いているが、ゆんゆんは目に見えて慌てているし、レインは発言の意味を問いただそうと前に出ようとしている。
「大丈夫ですよ、レイン。ここは私に任せてください。…………では、騎士様。私たちをあなたの国の王都までエスコート願えますか?」
それを抑えて、アイリスは落ち着いた様子でセレスのおっちゃんにそう返す。
「もちろんですよ、王女殿下。そもそも私たち騎竜隊が半数も来たのは、サラマンダーの群れに襲われて王女一行にもしものことがないようにと宰相に命令されてですからね」
宰相ねぇ……。俺が出ていった時の宰相は禿げ頭の腐れ貴族だったが今もそうなのかね。
「なぁ、レイン。この国の宰相って今誰なんだ?」
気になった俺は、内心かなり焦ってそうなレインに耳打つように聞く。
「ひゃぁっ! ダ、ダスト殿いきなり耳に息をかけるのはやめてください。うぅ……ええっと……確か二年前に新しい方に代わって…………リックスター家の当主の方でしたでしょうか」
「ふーん……リックスターね。どっかで聞いた名前だな」
「この国ではかなり上級の家柄と聞いていますが。ベルゼルグにおけるダスティネス家やシンフォニア家ほどではないですが、それに次ぐほどの家柄だと」
だから知っているのではないですか、とレイン。
「んー……そんな感じでもない気がするんだが…………まぁ、どうでもいいか」
偉い貴族なんて誰でも一緒だろう。狂った王様と腐りきった貴族に支配されるこの国では。
「では、よろしくお願いいたします、騎士様」
「お姫様の護衛は騎士の誉れですからね。お任せください。……ただ、その前に一つ確かめさせてもらいます」
瞬間。セレスのおっちゃんがその拳をまっすぐアイリスに向けて放つ。おそらくは竜言語魔法であらかじめ速さを強化していたんだろう。人化してるミネア同様……それ以上の実力を持つ武闘家の拳の一撃は目にも止まらない速さを持ち、それに反応するのはこのパーティーには少ない。
「───オブ・セイバー』!」
「っ…………『ライトニング』!」
その拳がアイリスに届く前に、ゆんゆんは省略ぎみの詠唱で魔法を放ち、レインも遅れながらもそれに続く。
「っつう……流石はベルゼルグの切り札紅魔族。三重強化してなきゃ首が飛んでたな」
だが、俺と同じドラゴンナイトであるセレスのおっちゃんには魔法が極端に効きにくい。竜言語魔法で魔法防御や抵抗力を上げられていたら、止めるほどの威力を出すのは難しく、その拳が止められることは叶わない。
「反応できなかった子が一人。遅れた子が一人。反応できた子が一人。そんで反応しなかった子が二人と。大体目算した通りだったな」
だから、今アイリスの目の前で拳が止まっているのは最初から決まっていたことだ。
だってそうだろう。セレスのおっちゃんが絶対に成功しない不意打ちをするような馬鹿なら、……そんな人が最強を冠する部隊の長なら、勇者の国が恐れるものなんて何もないのだから。
「で、分かってた奴が二人。そっちの綺麗な銀髪の姉ちゃんは記憶にないが…………そっちの仮面で顔隠してる槍使いはやっぱお前か、ライン」
「…………何で分かんだよ。おかしいだろ」
はぁ、とため息をつきながらも、俺は誤魔化すのを諦めて仮面を外す。いやまぁ、どっかでバレるだろうとは思ってたが…………流石に早すぎる。てか、何もしてないのにバレるのは納得いかねえ。
「大分腕が鈍ってるみたいだから半信半疑だったが、槍使いとしての佇まいがラインの面影が残ってたからな。んで、仮面被って髪の色変えちゃいるが目の色はミネアの色だ。俺が分かんねえわけないだろ?」
「普通分かんねえよ。俺がこの国出て何年経ってると思ってんだ」
俺自身がもうはっきりとは思い出せねえくらいだってのに。
「何年経とうが、息子や弟みたいに思ってる奴の変装くらい見破れなきゃ人間失格だって俺は思うがな」
にぃ、と意地悪げというか得意げというか笑う騎竜隊の隊長。アイリスに対しての紳士然とした態度とは雲泥のチンピラのような振る舞い。…………やっぱ10年やそこらじゃ変わんねえか。
「えっと……ダストさん? 結局どういうことなんですか?」
「どういうことって言われても見ての通りというか…………お前が何を聞きたいのかちゃんと言わねえと答えようがねえぞ?」
多少はぼっち癖直ってきたが、さっきの仮面のやり取りといいコミュニケーション能力はまだまだだなぁ俺の恋人様は。
「そう言われると正直私も何を言いたいのは分からなくなりそうなんですが…………結局ライネルさんは敵なんですか?」
「今は敵じゃない。それでいいんじゃねえか。…………俺らの対応次第じゃ敵になるかもだが、ま、うちの姫様の様子見る限り大丈夫だろ」
「はぁ……敵じゃないということは、さっきのは私たちを試したということですか。…………あれ!? じゃあ私が魔法をぶつけたのってまずいんじゃ!?」
自分が戦争の引き金になるんじゃないかと慌てるゆんゆん。まああんなんでも軍のお偉いさんだ。それに思いっきり上級魔法ぶつけたとなれば普通は国際問題だろう。
「心配しなくても大丈夫ですよ紅魔族のお嬢さん。今のやり取り、問題があるのはどう考えても私のほうですから」
「だな。お前はアイリスを守ろうとしただけだ。問題に出来るのはこっちだけで、向こうは問題にしてほしい立場だ」
「?? えっと……私の行動が大丈夫そうなのは分かったんですけど、ダストさんが何を言ってるかが……」
分からないとゆんゆん。こっちも説明するとなると面倒なんだが……。
「まぁ簡単に言うとあれだ。この国は別に今ベルゼルグに喧嘩を売る気はない。だが、別に今すぐ喧嘩を始めてもいいとは言ってるんだよ」
本当、この旅にカズマやクレア。爆裂娘とか連れてこなかったのは正解だったな。あいつらが一人でもいたら間違いなく戦争が始まってる。そういう意味じゃ正義感溢れた魔剣の兄ちゃん連れてこなかったのも良かったか。
「ま、ラインの言うとおりだ、紅魔族の嬢ちゃん。今のベルゼルグは魔王軍との戦争が終結したばっかりで疲弊してるからな。勝率は半々程度だが……勇者の国相手と考えればそう悪くない」
「おい、セレスのおっちゃん。そんなことまで言っていいのかよ。あと、さっきの騎士みたいなしゃべり方はいいのか?」
「どうせこの程度のことならお前らだって想像ついてるだろ? 想像がつかないのは、こっちの自信の源でそれが何か探りに来てんだから。後しゃべり方は、王女殿下だけ丁寧でいいだろ。一応俺もこの国じゃそれなりに地位だし……弟みたいな奴がため口聞いてる相手に丁寧にしゃべるってのもなんかあれでよ」
まぁ、確かに。気持ちは分からないでもないな。
「なんでしょう…………大きくなったダストさんというか……丸くなったダストさんというか…………もしかしてろくでなしさんでしょうか?」
「おい、ライン。ダストってのがお前の偽名なのは分かるんだが…………その嬢ちゃんもしかしなくても毒舌か?」
「そうだぞ。こいつはゆんゆん。俺の恋人の毒舌ぼっちだ」
俺の紹介にまたもぽかぽか殴ってくるゆんゆんはスルー。
「はーん……毒舌ぼっちの恋人ねぇ…………あん? ラインに恋人だと? あの女っ気が欠片もなかったラインに? 女や飯より先にドラゴンだったラインに?」
「昔の俺がそんな感じだったのは否定しないが、信じられないもの見る目はやめろ」
ドラゴンナイトになりたての頃はミネアの世話するか槍の特訓するか仕事するかのどれかだったからなぁ。そこからいろいろあって姫さんに会って…………女っ気があった時期は確かにねえな。
「まぁ、お前の親父さんは筋金入りの女好きでもあったし、そう不思議でもないか。お前はなんだかんだで姫様と一緒になると思ってたんだがな」
「…………そんなの無理に決まってんだろ」
あり得ない話だ。俺があの人と一緒になるなんてのは。
「って……どうしたよ、ゆんゆん。いきなり抱き着いてきて」
「……なんでもありません」
そう言いながらも、ゆんゆんはさらに強く俺の腕を抱きしめてくる。
「そうか? まぁ、俺は腕が幸せだからどんどんやってくれていいが」
嫉妬かね? それとも、俺が辛そうにしてると思ったか。ま、どっちでもいいだろう。
ゆんゆんが今やりたいことをやっていて、俺はそれを受け入れている。
ゆんゆんの理由が何であれ、ざわめきそうだった俺の心が落ち着いているという結果は変わらないのだから。
「それで、そろそろ話を進めさせてもらってもいいですか? 騎士様」
「おっと、これはすみません王女殿下。ええ、もちろん。ラインとの積もる話はまた後でしますんで」
積もる話かぁ…………間違いなくお小言だよなぁ。
「騎士様。別に私に丁寧な言葉を使う必要はありませんよ。ダスト様の知己の方のようですし、公の場でなければ、くだけた話し方をされても」
「ん? そうか。なんだかうちの姫様みたいなことを言うんだな。あの人も敬語が嫌いな方だったが」
「流石にアイリスをあれと一緒にするのはやめてやれ」
たまにしゃべり方がおかしくなるし、アホみたいに強いがアイリスは一応正統派のお姫様だから。
「じゃ、アイリス姫。遠慮なくくだけさせてもらうが。このまま俺たち騎竜隊で王都まで護衛させてもらおうと思うが、それで大丈夫か?」
「この国最強の部隊の護衛に文句などありませんよ。ぜひお願いします」
へりくだらないよう、軽く、けれど丁寧に頭を下げるアイリス。そんな様子をレインは複雑そうな様子で見ている。
ちなみに他のメンバー。ゆんゆんは相変わらず俺に抱き着いてるし、アリスはつまらなそうに欠伸をしていて、ミネアは久しぶりに会ったセレスのおっちゃんを興味深そうに眺め、ジハードはいつものごとくうとうとしていた。
このパーティー緊張感ねえな!
「ダストさーん、ウェイトレスさんなんとか馬車に置いてきましたよ。すぐについて来ようとするんで『スリープ』で眠らせないといけませんでしたけど」
そんな中、ベル子を馬車に連れて行っていたロリーサが文字通り飛んでくる。降り立ったロリーサは急いで飛んできたんだろう、息も絶え絶えだ。
「おう、ありがとよロリーサ。んで、飛んできたとこ悪いが、特に危険なかったからベル子を起こして連れてきてくれ」
「いやがらせか何かですか!?」
いや、だってしょうがねえじゃん。危険に備えないわけにはいかないし、危険がなかったのにベル子をほったらかしにするわけにもいかないし。
「うぅ……契約してて逆らえないから行きますけどね……」
「別に急がなくてもいいからなー。馬車もついでに連れてきてくれ」
とぼとぼといった感じで飛んでいくロリーサにそう声をかける。
別に自分で行ってもいいんだが……多少は理不尽な命令した方が従者ってのは救われるからな。一番身軽なのがロリーサなのも間違いないし、こういう所は遠慮なく働いてもらおう。
「それで? あっさりバレてかっこ悪い最年少ドラゴンナイトさん? あんたはどう見るの?」
「なんだよ、どうでもいいとばかりに欠伸してた魔王の娘さん。藪から棒に」
本当こいつはこの場で誰よりも余裕がある。基本的な能力で言うならアイリスと並んで化け物クラスで、本人はどうなろうと知ったこっちゃないから余裕で当然ではあるが。
「騎竜隊隊長……引いてはこの国の余裕の理由よ。今のベルゼルグ相手に勝率5割……疲弊してるとはいえ、あの勇者の国相手によ? あの様子だと実際は5割以上ありそうな様子だけど」
「ま、あの国の最近の噂とさっきのやり取りでなんとなく想像はついたな。アリスも大体想像がついたんじゃねえか?」
「そうね。というより、あの男の力の流れを見れば分かるわよ」
「あー……じゃ、やっぱり俺の予想であたりか」
つうか、普通そんなの見ても分かんねえよ。バニルの旦那じゃあるまいし。魔力の流れとか雰囲気くらいなら分からないでもないが。
「でも、だとするとやっぱり分からねえな。なんで今じゃねえんだ? 今ならベルゼルグを相手に勝機がある。でも、万全になったベルゼルグを相手にして勝機があるとは思えねえ」
俺の想像通りなら騎竜隊は紅魔の里を超えて文字通りの最強部隊になっているだろう。たとえ魔王軍の幹部クラスを相手にしても問題なく倒せるほど戦力になっていると見ていい。
だが、その程度で倒せるほどベルゼルグという国は甘くない。勇者の国……ただ一国で魔王軍を相手に戦い続けた人類最強の国は伊達じゃないのだ。
戦術最強じゃ戦略最強には勝てない。この国は嫌になるほど愚かな国だが、そんなことが分からないほど馬鹿な国でもないはずだ。
「ふーん、あんたは分からないんだ。私はなんとなく分かったけどね」
「分かったなら教えろよ」
俺と持ってる情報はそんな変わらないはずだが、本当に分かってるんだろうか。
「なんで? 私は確かに護衛としてここにいるけど…………基本的にはあんたたちの敵よ? なんでそんなことまで教えてあげないといけないのかしら?」
「…………それもそうだな。じゃ、これ以上敵と話すこともねえだろ。どっかいけよ」
普通に話してるから忘れそうになるが…………確かにアリスは敵だ。こっちの見解を聞かれたからってホイホイ答えるってアホかよ。
「そうするわ。あんたからこの件でこれ以上聞けることもなさそうだしね」
くすくすと楽しそうに笑ってアリスは俺たちの元を離れ、今度はアイリスとセレスのおっちゃんたちへ話しかけに行く。
本当、食えない女だ。あいつと一緒にいると適切な距離感ってのが分からなくなっちまう。
「ダストさん……その…………大丈夫ですよね?」
「だからお前は…………まぁ、いいか。心配しなくても大丈夫だよ」
相変わらずの主語が抜けた質問に半ば諦めながら。俺は続ける。
「心配しなくてもベルゼルグは弱い国じゃねえ。この国が俺の想像以上に強くなるってんなら、ベルゼルグも俺の想像する以上に強くなるに決まってるさ」
だから、こんな腐った国に負けるはずがない。たとえ戦争になってもベルゼルグが勝つに決まってる。
その結果として、
「いえ、そっちじゃなくて、アリスさんの不思議な魅力にダストさんが浮気しないk……っ
なんて、俺らしくもない感傷をばっさりと台無しにしてくれた恋人には、いつも誰かにするようにほっぺたを思いっきり引っ張ってやった。
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