EX 誓いの日
「ゆんゆん? こんなところでどうしたの?」
「ん……リーンさん。えっと、何をしてるかと聞かれると困るんですが…………里の様子をなんとなく眺めてました」
夜。空飛ぶ城のバルコニーで。眼下に広がる紅魔の里を眺めていた私にリーンさんが近づいてくる。
「あー……うん。本当にアクセルの街を離れたんだね。ずっとあの街で過ごすと思ってたから、ちょっと実感がわかないかな。ゆんゆんは故郷だしまた違うんだろうけど」
「私も、あんまり実感がわいてないですね。いつか族長として帰ってくるのは分かってましたけど…………あのアクセルでの日々がずっと続くんじゃないかって、そう心のどこかで思ってたのかもしれません」
でも、あの楽しい日々と別れて私は今ここにいる。私が小さい頃から望んだ結果として。
ここにはめぐみんたちはいない。バニルさんもウィズさんもいない。テイラーさんやキースさんも…………私が短くない時を過ごし、育んだアクセルでの絆とは遠くに来ていた。
「…………、楽しい日々にしようね」
「はい。寂しそうにしてたらめぐみんに怒られちゃいますからね」
昔の私ならきっとずっと寂しがってたと思う。でも、今の私は遠くなった絆がなくなったわけじゃないとちゃんと分かってるから。
遠くの絆に心を奪われてここにある絆に目を向けないのは違うと思うから。
だから、これから私は族長としてこの里で精一杯幸せに生きる。
「そういえば、あおいはどうしてるの?」
「今はダストさんやハーちゃんと一緒にぐっすり眠ってますよ」
想像通りドラゴン大好きだった私の娘あおいは、ぐずってもハーちゃんがよしよしするだけですぐ泣き止む手間いらずな子だ。ダストさんだけならちょっと不安だけど、ハーちゃんも一緒ならあまり心配はない。
…………母親としてはちょっと寂しいというか悔しいというかそんな気持ちがない訳でもないけど。娘二人が仲良くしてるのはいいことだと思う。
「そっか。ならいいけど…………というか、今日くらいはあおいのことお義母さんとかあたしに任せても良かったんじゃないの? 明日が明日なんだしさ」
確かに私やダストさんが眠たそうにしてたらいろいろ締まらないけど。
「でも、出来るだけ一緒にいてあげたいんです。明日は私が族長になる日でもありますから」
族長になれば今ほど付きっ切りでもいられない。…………まぁ、紅魔の族長はそこまで忙しくないから任せきりってこともないんだろうけど。
でも、大切な日に一緒に絶対いられると保証も出来ない。それが紅魔族……ベルゼルグの切り札の族長という職だ。
「そっか、ならそうした方がいいね。でも、どうしようもない時はちゃんとあたしを頼ってよ?」
「はい、そんな時や教育的な所ではリーンママにちゃんと頼りますよ?」
「……その呼び方やめない? なんかすごいむず痒いんだけど……」
「でも、私たちの家族ですし…………他の呼び方となるとリーンおばちゃんになっちゃいますけど……」
「…………リーンママでいいよ……」
私と年齢的には同じ年だしお姉さんとかもなんか違うしなぁ。リーンさんに求めている立ち位置的もリーンママが一番しっくりくるから仕方ない。
「ま、実際その立ち位置を受け入れたのはあたしだしね。ゆんゆんやあいつの家族として過ごしていく。…………そういう決着だから」
「……後悔、してますか?」
「んー……まだそれを判断するところには着てないかな」
「そう、ですか……」
テイラーさんやキースさんと違い、リーンさんは族長となる私に付いてきてくれた。それはダストさんの家族になって欲しいというろくでなしな願いを受け入れてくれたおかげで。
でも、それはある意味女としての幸せを捨てたともいえる選択で……。
「大丈夫だよ、ゆんゆん。あたしはちゃんと幸せになるためにここにいるんだから。同情でも妥協でもない。過去に囚われてるわけでもない。あたしはあたしなりの幸せを絶対に見つけてみせるから」
だから、泣きそうな顔しないでとリーンさんは私に言う。
「…………はい。リーンさんなら絶対に見つけられると思います」
そうじゃなきゃ嘘だ。こんなに優しい人が幸せになれないなんて、そんなこと認められない。
「……うん。少なくともここに一つはあたしの幸せがあるからね。だから、少なくとも最悪はない」
「え? それって──」
「──はい! とりあえずこの話は終わり!」
「えー……そこはちゃんと誤魔化さず言ってもらいたいところなんですが……」
「……やっぱりあたしの親友は面倒というか、友達関係だと空気読めないなー」
「すみません、謝りますから呆れた目を向けるのはやめてください」
微妙に傷つくんで。
「ん……そう言えば話が変わるか微妙な所なんだけどさ、『姫様』との決着は良かったの?」
リーンさんのいう『姫様』はもちろんアイリスちゃんの事じゃない。ダストさんが騎士だったころに仕えていた隣国のお姫様だ。
「本当は明日が来る前に決着つけたかったんですけどね。でも、行方不明じゃどうしようもないかなって」
「あー……それは確かに……」
それに、私にとってもダストさんにとっても明日が終わりというわけじゃない。それならいつか姫様と決着をつけられる日が来るんじゃないかとも思う。
それにちょこっと話を聞いた感じだとあんまりそう言うこと気にするタイプでもなさそうだし。
「だから……はい。私は明日を心残りなく迎えられます」
「本当に?」
「…………まぁ、一つだけあると言ったらありますけど」
アクセルのみんなやテイラーさん達。アイリスちゃんとか明日は色んな人を招待したけど、一人だけどうしても連絡が取れなかった人がいる。
「でも、あの人はどこにいてもきっと楽しそうにしてるから。だったら、別にいいかなって」
大切な私の友達だけど、自由な風みたいなあの人ならどこにいてもきっと私たちのことを祝ってくれてるんじゃないかなってそう思えるから。
「? よく分かんないけど、無理してる感じじゃないしそれならいっか」
「はい、大丈夫です」
でも、本当にあの人…………セシリーさんはどこに行ってしまったんだろう?
「アイリスちゃ……様! 来ていただいて嬉しいです!」
翌日。控室で始まりを待つ私の元にアイリスちゃんとレインさんが二人で訪ねてくれた。
「畏まった言い方はしないで大丈夫ですよ、ゆんゆんさん。ここには私とレインしかいませんから。今の私は一人の友達としています。…………いいですよね? レイン」
「ダメといったら聞いていただけるんですか? アイリス様」
「聞きません」
「だったら聞かないでもらえると有難いのですが…………。まぁ、ゆんゆんさんの今後の立場を考えれば公的な場以外では私もクレア様もうるさく言うつもりはありませんよ。紅魔の里とは友好的な関係を続けていきたいですから」
ため息をつきながらもレインさんは優しい笑顔を浮かべている。相変わらず苦労の人だ。
「じゃあ、遠慮なく…………でも、本当にアイリスちゃんが来てくれるとは思わなかった。忙しいだろうし立場的にも難しいかなって思ってたのに」
「なんというか…………レイン、ゆんゆんさんはご自分の立場が分かっていないようですね」
「それをアイリス様が言われるのはいろいろ納得いきませんが…………まぁそうですね」
何故か二人ははぁ、とため息をつく。
「あのですね、ゆんゆんさん。どんなに忙しくても友達として来たいですし、王女としての立場でも招待されてこないという選択はないんですよ?」
「え? だって私とダストさんが結婚してついでに族長に就任するだけだよ?」
そう、今日は私とダストさんの結婚式。こうしてアイリスちゃんたちが直接来て祝ってくれるのは嬉しい。でも王女が貴族でもない人同士の結婚式に来るのはいろいろ問題ありそうなんだけど大丈夫なのかな?
「…………、レイン。説明をお願いします」
「はい……。ゆんゆんさん、ベルゼルグの国における紅魔の里の影響力は大きいのです。単純な戦力的な意味はもちろん、高性能な魔道具や武具の生産地としての経済的な意味でも。ゆんゆんさんはそんな里の族長になられる方。先ほども言いましたがゆんゆんさんとの友好関係は大貴族にも負けないほど維持していきたいものです」
「えー……そんなこと言われても私とダストさんの結婚式ですよ?」
そんな政治的に大きな意味ないと思うんだけど。
「そのダスト殿も問題なんです。あの方は四大賞金首の二つも討伐し、先の『悪魔の種子』に関わる世界規模の事変に終止符を打った英雄です。その影響力は魔王を討伐した勇者にも負けないものがあります」
「それに、ダスト様はドラゴン含めた個人戦力も無視できません。ベルゼルグ王国としてもダスト様と敵対する道は避けたいのが本音です」
…………うん、二人が言いたいことはよく分かるんだけどね?
「でも、ダストさんですよ? ろくでなしでドラゴンバカなチンピラさんですよ? そんなに深く考えても仕方ないし、この国と敵対とか絶対ありませんって」
とりあえずドラゴン与えとけば無害な人だし。
「…………本当に、そう願います」
うーん…………本当に何をそんなに心配してるんだろう? あのダストさんのことで王女様やそのお付きの人が頭を悩ませてるって凄く違和感あるんだけど。
「とにかく、そういうわけで友達としても王女としてもお祝いしに来るのは当然なんです。存分に祝わせてください」
「うん。王女様としての祝福は恐れ多すぎるけど友達としての祝福は凄く嬉しいな」
「……本当、ゆんゆんさんはご自分の立場や伴侶の異常性を理解した方がいいと思いますよ」
「だからそれをアイリス様が言われないでください。いえ、おっしゃってること自体は私も完全に同意なのですが」
祝われてるはずなのに何故か呆れられてるような気がする私だった。
「これで勝ったと思わない事です」
「いきなりどうしたのめぐみん?」
アイリスちゃんとレインさんを見送って。その後ノックせずに入ってきためぐみんは開口一番に変なことを言う。
「別に先に結婚した方が偉いとかそういうのはありませんからね」
「うん。そうだね」
そんなことで偉いと褒められても困るし……
「……って、もしかしてめぐみん私に先を越されたことは悔しいの?」
「く、悔しくなんてありませんよ! 結婚どころか子供まで先に生まれてることに思う所なんて何もないんですからね!」
「うん。めぐみんって昔から家庭を持つことに憧れ持ってたもんね」
結構意外だけど、里の同級生の中で一番家庭的だったのはめぐみんだ。
あくまで精神的な意味で技術的には一番って程でもなかったけど。
「別に憧れを持ってるわけじゃありませんが…………すぐに私も結婚しますよ」
「え? ついにカズマさんも覚悟を決めたの?」
「いえ、カズマは『一番好きなのはめぐみんだけど、魔王を倒した勇者としては王族に入る義務が──』とかとぼけたことを言っていますよ」
「カズマさん…………」
昔のダストさんみたいなことを……。
「ですので、今日式が終わった後に我が夫となる男をたぶらかす下っ端王女と決着をつけようと思っています」
「人の結婚式の後に物騒な予定入れないでもらえる!?」
王女様とガチの争いとか本当止めて欲しいんだけど!?
「ダクネスも未だ愛人でいいとかいいなら諦めてませんしまさかの伏兵も行動が読めませんし、アイリスとは早々に決着をつけたいんですよ」
「気持ちは分かるけど祝いの日だって分かってる?」
「ぼっちなゆんゆんがチンピラと結婚してついでに族長になるだけの日じゃないですか。そんな大層な日じゃないんですから許してください」
「うん。アイリスちゃんやレインさんの反応も納得いかなかったけど、そんな反応も反応でイラっと来るね」
客観的にはともかく私にとっては本当に大事な日なんだから。
「冗談ですよ。し…親友として一応今日は心の底から祝う予定ですから」
「もう、めぐみんったら……」
本当に素直じゃないとそっぽ向いて顔を赤くしている親友を見て思う。
「まぁ、それはそれとしてアイリスと決着をつけるのは本当ですけどね」
「…………え?」
むしろそれが一番の冗談じゃないの? 本当だったら頭が痛いんだけど?
「ゆんゆんさん、そろそろドレスに着替えましょうか」
「ん、そろそろ時間みたいですね。カズマもダストと話が終わった頃でしょうし参列席に行ってますよ」
「ちょっ、めぐみん!? まだ話は終わってないよ!?」
入ってきたロリーサちゃんと入れ替わるように、私の制止を無視して控室を出て行くめぐみん。
「あのー……もしかして取り込み中でした?」
「うん……取り込み中というかなんというか…………ねぇ、ロリーサちゃん、もしも招待した王女様が怪我して帰ったりしたらどうなるかな?」
「えーと……人間さんの世界の事はよく分かりませんが、悪魔の世界だったら戦争ですかね?」
だよねー……。
「ん、あるじ、おちこんでるの?」
「落ち込んではいないけど悩んでるかな…………って、あれ? ハーちゃん? あおいは?」
ロリーサちゃんの後に来たんだろうか? いつの間にかハーちゃんが私のそばで来て心配そうに私を見つめている。
「おばあちゃんにまかせてきた。あおい、おりこうさんだった」
ぐずってないってことかな? まぁ、お母さんに任せてるならあおいは大丈夫か。なんだかんだで赤子の扱いは経験の差か私より今は上手いし。
「ということで私とジハードちゃんでドレスを着させようかと」
「ごめんね、ロリーサちゃん。ちゃんとした人を雇えたら良かったんだけど」
お金はあるけどそもそも紅魔の里にそんな専門な人はいない。そもそも式場であるこの教会も今は無人で、場所を整備して利用させてもらってるくらいだし。
かといって外から人を雇うにしても紅魔の里にわざわざきたがる人がいないんだよね。多分レインさんとかダクネスさんに相談したらどうにかしてくれたんだろうけど。
「いえ、これも勉強というか…………初夜プレイの夢のいい参考になるので!」
「…………えっと、そういうのは本人に言わないでもらえると有難いかな?」
「? でも、どうせ私が夢を見せる相手はダストさんですよ?」
「うん、そうだけどそういう問題じゃなくてね?」
まぁ、うん。ダストさん以外の相手にそういう夢を見られるよりは確かにいいんだけどね。
「…………、まぁいっか。ロリーサちゃんというかサキュバスはそういう種族だもんね」
「えっと…………はい、そうですね? それで、ドレス大丈夫ですか?」
「うん、お願いできるかな。ハーちゃんも手伝ってくれる?」
「まかせて、あるじ」
そうして、式の時間は近づいていった。
──ダスト視点──
「ったく、カズマもキースもからかいまくりやがって……」
あいつらの結婚式の時は俺がからかいまくってやると心に決めて。俺は準備を終えて教会の式場へと入る。
祭壇の前に立ち参列する面子を見渡す。
あおいは義母さんに抱かれている。こちらに手を伸ばしてくるあおいは本当に可愛い。その隣に座るリーンにウィンクしてみたらあっかんべーと返してきやがった。
カズマはララティーナお嬢様と一緒に暴れようとしている爆裂娘を抑えている。多分花嫁奪還事件の時を思い出してロリっ子が荒れてんだろう。
バニルの旦那はルナの悪感情を食べようとしていてそれをウィズさんが止めている。リリスはそんな二人の傍にいるが我関せずと言ったところ。
フィー、テイラーにキースは静か……じぇねぇな。フィーにちょっかい出そうとしてキースがテイラーに怒られてやがる。
アイリスとレインが特別席にいてクリスは柱の所に立ってこっちを見ている。
呼んでないのに何故か我が物顔で座ってるアリスに、報告はしたが来たらまずいだろっていうセレスのおっちゃんとフィール改めセレスのねえちゃんがその近くにいる。
他にもいろんな奴らが俺らを祝いに来ていて、祭壇にはアクアのねえちゃんが聖職者として花嫁の入場を俺と一緒に待っていた。
(本物の神様に祝われるんだ。贅沢なもんだぜ)
アクシズ教のご神体というのはちょっとばかり不安もあるが…………この式場には幸運の女神さまも見てくれてんだ。本当贅沢というもんだろう。
とりあえずゼーレシルトの兄貴に銀のダガーが刺さっていて着ぐるみが冷や汗で凄いことになってるのは見なかったことにする。
時が来て。親父さんと一緒にウェディングドレスに身を包んだゆんゆんが俺の元へゆっくりと歩いてくる。後ろにはジハードとロリーサがドレスの裾を持ってついていた。
「…………? どうしたんですか、ダストさん。呆けた顔をして。大事な式なんですからもっときちっとしてくださいよ」
「…………別に何でもねぇよ」
今更、ドレス姿のお前に見惚れてたなんて言えるはずもない。
「そうですか? ……うん。格好も相まって今日のダストさんはいつも以上にかっこいいですね」
「そりゃどーも。お前もいつも以上に綺麗だぜ」
…………本当にな。成長したこいつの魅力なんて知り尽くしてたはずなのに、冗談めかしてしか褒められねぇんだから。
「もしもーし? そろそろ式を進めたいんですけどー?」
「ああ、すみませんアクアさん。よろしくお願いします」
多分緊張しまくってる俺とゆんゆんの緊張感のないやり取りに、アクアのねえちゃんが本当に緊張感のない声で入ってくる。
ただ、その後の進行は本当にスムーズで、たまにアクシズ教に入信を勧めてくる以外は完璧だった。下界で自堕落な生活しているが落ちても女神なんだなと改めて実感させられたくらいだ。
「それで指輪の交換なんだけど…………二人とももうしてるのよね」
俺もゆんゆんも『双竜の指輪』をつけている。両親の形見であり俺らを言葉の通り繋ぐこの指輪を結婚指輪にすると決めていた。
「あ、一応やらせてもらえますか? 形だけでもやりたいですし、ダストさんがつけてるの右手ですから」
「……ま、形は大事だからな」
つけてる指輪をアクアのねえちゃんに預け、代わりにゆんゆんがつけていた指輪を受け取る。
(…………本当今日のこいつ綺麗すぎんだろ)
柄にもなくゆんゆんの手を触る手が震える。指輪を持ってる方の手はそれ以上に振るえていて、参列してる奴らにもバレてんじゃないかってくらいだ。
てか絶対バニルの旦那には後でからかわれる。
「だ、ダストさん。その…………つけますよ?」
なんとかゆんゆんの指輪をつけ、今度は俺の番。
「……なんでお前が緊張してんだよ?」
今日のゆんゆんに俺が緊張するのは仕方ない。ちょっとむかつくけど仕方ない。
だが、なんでゆんゆんもこんなに緊張してんのか。逆境には割と強い奴だってのに。
「だ、だって……これが終わった後はついにあれなんだなって思うと……」
「本当今更過ぎんだろ……」
俺なんか今のお前としないといけないんだぞ? どんだけ緊張すると思ってんだ。
「だって、意識してみると今日のダストさん思ってた以上にカッコいいし…………なんで真面目な顔してるんですか、ダストさんなんだからもっと腑抜けた顔しててくださいよ!」
「どんな言い草だ。それ言うならお前も綺麗すぎんだよ。もっと行き遅れに配慮した顔をしろ」
「どんな顔ですかそれ!?」
「もしもーし? 流石に式中に痴話喧嘩はアクシズ教徒も食べないんですけどー?」
「「すみません……」」
まぁ、うん。俺もゆんゆんもやっぱ緊張しすぎだな。というか式中に最初から喋りすぎか。
指輪交換を終えて。俺とゆんゆんはあくあのねえちゃんの進行の元、互いに愛し合うことを誓う。
今更というか、あの日こいつの想いを受け入れた時から決めていたことだが、それが今日こいつを大切にする奴らへの約束にもなった。
「じゃあ、宣誓も終わったことだし、誓いのキスを」
一度大きく息を吐き、俺はゆんゆんのヴェールを上げる。
俺を待つゆんゆんは本当に綺麗で、どこか色っぽい。
「…………本当、なんでお前は俺みたいな奴に引っかかっちまったかね」
思い出すのは俺が初めてこいつを意識したとき……クーロンズヒュドラ討伐戦だ。ヒュドラに飲み込まれた俺は溶かされかけ、そこをこいつに救われた。
死に行く意識の中見た俺を救い出した綺麗な光と、それに負けないくらい綺麗でどこか幼さを残す女。
そんなこいつといろいろあって友達になって悪友になって恋人になって。
そして今日一生を共に過ごす伴侶になる。
「きっと、ダストさんがダストさんだったからじゃないですか?」
「なんだそりゃ」
「いいんですよ、ダストさんは分からなくて。この気持ちは私が分かっていれば」
そう言って笑うゆんゆんには本当に影がなくて。俺みたいなチンピラと結婚しちまうってのに、どこまでも幸せそうにしていた。
「本当……物好きな奴だよ、お前は」
「そうかもしれません。でも、私はダストさんのこと世界で一番の彼氏だと思ってます」
「…………ああ、俺もそう思ってるよ」
こいつ以上の女なんてどこにもいないんじゃないかって思っちまうくらいには、俺はこいつにやられちまっている。
今、この瞬間だけは他のことすべてを忘れて、こいつの事だけを考えていた。
「愛してる」
ゆっくりと、唇に触れるだけのキスをする。10秒か20秒か1分か。こいつのすべてを自分のものにしたくて俺は長い間そうしていた。
そして、名残惜しく思いながら唇を離したあと。ゆんゆんは幸せに蕩けた顔をして。
「私も愛しています…………私の旦那様」
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