第17話 寒梅で乾杯

 まあ、いいんだけどさ、俺は。両親と俺とアイさんと四人でテーブル囲んだって別にね。

 ただね、なんでこんなに懐いちゃってんだよ、俺の親に。

 しかも話題が八海山だの久保田だのって酒にスタートして、亀田や岩塚のお菓子工場の話に行ったり、等外品が安く売ってる販売所の話になったり、今じゃ新潟のB級グルメ、イタリアンの話にまで移行している。親父だけならともかく母さんまで一緒になって越後のソウルフードについて熱く語りだす始末だ。コイツら手に負えない。


「新潟に来たからにはイタリアンはやっぱり食べておかないとね」

「明日のお昼にどこかで食べます。くふっ。お土産は何がいいかなぁ?」

「笹団子は必需品だでぇ。何処のが美味うんめかったかなぁ?」

「冷凍のを買ってお家で蒸し直すとモッチモチになるから、そうした方がいいわよ~。レンジだと固くなるから、ちゃんと蒸してね」

「はーい」


 懐いてる。アイさんが俺の両親に懐いてる。


「おー、酒がぇなったねっか、アイちゃん、次は寒梅と〆張鶴、どっちにする?」

「じゃあ、寒梅!」

「寒梅で乾杯! うははははは」


 親父、寒いよ。ここだけ気候がシベリアだよ。


「にゃはー、寒梅を三杯!」


 アイさんまで……。


「それにしてもアイちゃん、哲也つまんないでしょう。ボサーッとしてて、口下手でネクラで……」


 根暗言うな。俺は明るいつもりだ。


「あたしがお喋りだからちょうどいいんですよ。それにしても八雲君が哲也君だなんて驚いたにゃー」

「あらぁ、哲也が八雲なんて呼ばれてる方がびっくりよぉ?」


 コイツら、俺をネタに酒飲みやがって。


「アイさんちのコンニャク、美味しいですね。プリプリで」

「にゃあ! おばあちゃんに言っとくにゃ」

「んーめえのう。こらうんめーわ」


 ああ、親父、新潟弁丸出しだよ。


「新潟のお魚美味しいですねー。群馬じゃこんな美味しいお刺身食べられないもん」

「おー、いっぺぇ食ってけ」

「はあーい」


 だから、何故懐く! 親父、コイツにそんなに飲ませるな。何を暴露されるかわからん。


「先週だったら花火大会があったのにねぇ」

「にゃ? 花火大会?」


 アイさんの目の色が変わったぞ。まさかストライクゾーンど真ん中か?


「かの有名な四尺玉が上がる奴にゃ?」

「四尺はこんがとこじゃ上げらんねぇこってぇ」

「あれは片貝の花火大会」


 父よ、母よ、二人がかりで説明せんでいい。なんか俺、もう必要無さそう。玄関のメダカと遊んでおこうか。


「カタカイは遠いにゃ?」


 アイさんも猫語どうにかしろ。両親よ、ナチュラルに猫語を受け入れるな。疑問に感じろ。


「片貝はもう終わっちゃったねぇ」

「みゅうー」


 またそんな悲しげな顔をするし。


「いいですよ、アイさん、鶴見川の花火が来週ですから連れてってあげますよ」

「にゃ? ほんと?」

「おー、哲也いいねっかー。アイちゃんとデートかー」

「デートじゃないから」

「にゃあ、八雲君、あたしの彼氏になっちゃえばいいのに」


 は? 何言い出すんだ、しかも俺の家で!


「そんなまどろっこしいこと言ってないで、哲也のお嫁さんになってあげてよ。この子ドンくさくて彼女もできないし、次男だからアイちゃんが持ってってくれてもいいから」


 おいっ。母の言葉がそれかよ。


「にゃあ! あたしが新潟にお嫁に来た方がいいにゃあ。お酒もお魚も美味しいし、海水浴もスキーもできるし、お父さんもお母さんも大好きにゃ」


 おいおい、勝手にお父さんお母さんって呼ぶな。


「あの。ちょっとアイさん」

「にゃ?」

「ちょっと外に出ませんか?」

「結婚式の相談なら、お父さんとお母さんが居――」

「違います」

「まあまあまあ、ここは若い二人に任せて年寄りは引っ込んどくこてー。はい、散歩散歩」

「違うからっ!」

「じゃ、お散歩行ってきます。あ、食べ散らかしてごめんなさい。ごちそうさまでした」


 アイさんがぺこりと頭を下げて俺の腕を引っ張る。


「行こっ」

「あの……まあ、いいです、外で話しましょう」

「行ってらっしゃーい」


 ……二人で声揃えて言うな。

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