第14話 きらい

 翌日の昼間、俺はショッピングモールの本屋をブラブラと眺めていた。特に用があったわけでもないが、家にいても仕方ないし、地元の友達にばったり会うかもしれないからウロウロしてみようと思っただけだ。

 だが、それはアイさんからのLINEによって、ものの見事に阻止されてしまった。


▷やくもくーん! 読んだよ第一話!

▷ひどーい、こんな風に思ってたの?

▷何これ「舞さんがイチゴパフェが食べたいって言うからタダノフルーツパーラーに連れて来たのに、なんでチョコパフェ食ってんだよこの人?」って、どーゆーこと?

▷これ本音でしょ!

▷あの日からずっとこんな感じだったの?

▷「え、この人ほんとに『くふっ』って言うよ、マジか?」って何!

▷八雲君がそう思ったって事だよね!

▷こらー! 既読ついてるんだから見てるのはわかってるんだぞ!

▷返事しろやくもーー!


◀今、外出中なんです。ちょっと待ってください。


▷待てなーーい!


 ちょっと待て。これは怒ってるのか? そのままの等身大でいいって言ったよな? 舞がガンガン押しても伊織が恋に落ちるとは限らないって、最初の話で言ったよな?

 とにかく落ち着こう。そうだ、ドーナツ屋があった筈だ、まずは、そう、まずは腰を落ち着けて話をすべきだ。

 俺はドーナツ屋に入ると、フレンチクルーラーとコーヒーを買って、窓際の席に陣取った。

 スマホを開いてみると……来てる来てる、あれから一体どれだけ送ってきたんだ?


▷「いきなり話題が飛ぶ。何の脈絡もなく飛ぶ」って何よー

▷「俺が珍獣を見る目で舞さんを見ていると」ってどーゆーことよっ

▷にゃあ!

▷あたしが溶けちゃいそうって言ってんのに、珍獣?

▷何それ、信じらんない、あり得ない!

▷こんな珍獣と一緒にコラボなんてできないって思ったんでしょ

▷だからこの前「一緒に続ける自信ない」って言ったんでしょ

▷舞はお風呂に入ってても素敵な伊織君のこと考えてんのに、何これ!

▷「あの人、ちゃんとご飯作ってんのかな」って何よー

▷つくってるもんっ

▷にゃー! にゃー! にゃー!

▷今日はごはんと納豆とキムチとおみそ汁だもん。

▷即席だけど


◀それ、ご飯作ったって言いませんよ。


▷にゃー! やっと返事くれたと思ったらそこかー!


◀今やっとカフェに落ち着いたんです。


▷なんで他の全部スルーでこれだけ答えるかなっ!


◀全部に返信なんて無理ですよ。落ち着いた時の最新コメントに返事しただけです。


▷うにゃー!


◀そもそも伊織は等身大の私でいいって言ったじゃないですか。恋に落ちるとは限らないって言いましたよね?


▷おちるっ


◀最初から二人で恋に落ちてたらお話にならないじゃないですか。すれ違いがあるから恋愛は面白いんじゃないですか。


▷にゃあ!


 なんだかちょっと疲れて来て、フレンチクルーラーを口にする。


◀すいません、日本語で返事してください。


▷むー


 とりあえず、コーヒーでも飲もう。


◀あの、話す気ありますか?


▷にゃー、八雲君あたしのこと珍獣だと思ってるにゃ


◀はい。


▷ばかにすんな!


◀してないですよ。実際珍しい人じゃないですか。アイさんみたいな人、他に見たことありませんよ。自覚無いんですか?


▷それがばかにしてるってゆーにゃ!


◀してませんて。


▷してる!


 別の意味でこの人と一緒に書くのが無理っぽい気がしてきた。


◀じゃあ、やめますか? コラボ。


▷え?


◀私はもともと自分の作品なんか人前に出したくないんです、下手くそですし。まだ二千字しか書いてないですから、やめたっていいですよ。


▷二千字ももったいないよー


◀別に勿体無くないですよ。二千くらいすぐ書けるじゃないですか。


▷あたしは五百字書くのも大変なのっ

▷いつも一話二百字くらいなんだから

▷舞のはすごくがんばって煎じも書いたんだよっ

▷あ、煎じじゃなくて千字ね

▷どれだけ大変だったかわかってんの?


◀わかりません。私は千字なんてすぐ書けますから。


▷やっぱばかにしてる~! にゃー!


▶してませんてば。


▷もう、やくもくんなんかきらい

▷コラボやめる


◀そうですか、わかりました。じゃ。


▷え、ちょっと待って


◀なんですか。


▷やめていいの?


 はぁ? どっちなんだよ?


◀いいですよ、「やめますか」と最初に聞いたのは私の方ですから。


▷そうだっけ?


◀スクロールしてくださいよ。


 疲れてきた。フレンチクルーラーが無くなる。


▷でもさでもさ、後悔しない?


◀しませんよ。じゃ。


▷ちょっとー、すぐ「じゃ」っていうのやめてよー


◀まだ何か用ですか?


▷ねえ、ちゃんと会って話そうよー


◀今、実家ですから。


▷実家どこ?


◀個人情報です。


▷みゅう。あたしも実家にいるの。近くだったらいいな。周りに山ある?


 何を言い出すんだこの人は。


◀無いですよ。平野部ですから。


▷新幹線通ってる?


◀個人情報なので文字に残したくありません。


▷待って待って


 なんだなんだ、今度は電話の着信だ。それなら最初から電話しろよ。


「はい」

「新幹線、通ってる?」

「通ってますよ」

「新潟だ!」


 …………。


「なんで」

「あたし、上越新幹線しか乗らないんだもん」


 何だかなぁ、この人は。


「当たり」

「やったー、当たった!」

「それだけですか?」

「どうしてそうやってすぐに切ろうとするの!」

「どうしてそうやって無駄に引き延ばそうとするんですか?」

「会おっ」


 は?


「ですから実家にいるんですって」

「あたしの実家、群馬。ここからすぐ! ねえ、新潟のどこ?」

「新潟市内ですよ」

「えー! じゃあすぐじゃん。行く行く!」

「今からですか?」

「明日行く。新潟駅に迎えに来て!」


 本気で言ってんのか、この人。


「もう八雲君の事だから二話目書いてるんでしょ?」

「書いてます」

「それも見たいから、明日持って来てね。時間はえーと、お昼ピッタリ、新幹線の改札のところね」

「新幹線で来る気ですか?」

「うん、じゃあ明日ね! あとでまたLINEするからね。ちゅっ」


 切れちゃったよ。マジか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る